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スイートの実力! ジャッジメント登場!

 妙に塩っ辛い肉料理が昼食であった。アスパラガスのように繊維質で、口の中で溶けるとか柔らかいのが良い肉だとすれば、とても質の悪い肉を食べさせられた気分だった。

 それでもアウロラ教国でお金を貯めるためにフルーツバーで過ごした数日間を思うと、まあ悪くはない食事だった。何より久しぶりの甘くない食べ物にちょっと感動すらしていた。

 その後にアルカが魔法で湯を出現させ、それで体を洗った。湯船に貯めるというのは移動式であるこの国には少ないらしく、あってもビニールプールのようなもので、素材は動物の皮だという。綺麗ならばよいのだが、逆に汚れる場合もあるというので、遠慮した。

 それはともかく、昼食後にアルカがうとうとしていたため、私は優しく膝枕をしてあげ、眠らせた。

 それから私の時間が始まるのである。

 彼女の頭をそっと床に降ろすと、堂々と入口に出て、アーの方に話しかける。

「アルカ様がお眠りになられたわ! 彼女のことを本当に大事に想う忠臣だったらその無防備な姿を命を懸けて守るべきだと思いますが!?」

「承知!」

 言うとアーは中に入って、ちょこんと傍に控えた。鎧姿で座るのって大変そうだな、なんてどうでもいいことも思った。

「で、あなたはどうするつもりですか?」

 ウーが当然聞く。聞かなかったら従者失格。

「アルカがいない時のみんなの反応でも見たくてね。あなたはここに居なさいよ? テントに火を放つ輩だっているかもしれないんだから」

「しかし、お前がいなくなる方がアルカ様は気になされる。ついていくぞ」

「私の命とアルカの命、あなたはどっちが大切なの?」

 尋ねるとウーは返事をしなかった。これで私は一人で自由に散策できる。

『……リナ、いいか?』

(はいはい何でしょうハングドさん?)

 用件は聞かずとも、彼から流れてくる不安や心配の感情で分かる。

『ホオフみたいな奴がお前を狙うだろ。そうじゃなくても貴重な異世界人、それにみんながアルカを偏愛している中でお前みたいにアルカにぴったりの奴を嫉妬する奴だっているかもしれない。ここは敵の巣みたいなもんだろ、分かってんのか?』

(まあ命の危険はアーとウーと話した時から覚悟完了よ。油断はしてないけど、流石にここの秩序を少しは信じてるし、ホオフみたいな奴が来たらあなたを信頼しているから)

 身体能力では勝てずとも、時間を止めることができれば逃げることは可能だ。ただ力では、子供の教皇にすら勝てないのよね……本当にどうなっているんだか。

『……当てはあるのか? 闇雲に調べても駄目だろう』

「ところでウー、スイートはどこにいるか知ってる」

 ハングドマンに直接答える代りにウーに尋ねると、彼はある方向を指さした。

「大テントで食事を摂っていたはずだ。それが終われば、客人用の集合住宅のように使っているテントがある。そこにいるはずだ」

(これでなんとかなるでしょ)

『……気を付けろよ』

(言われるまでもなく)

 ウーに小さく手を振って、私は対立魔導のテント群を進んだ。



 集団が歩く私を見る目は、同様に嫌悪だったり奇異だったり好奇だったり、人それぞれのようだ。

 ハングドマンが言う通りに私を疎ましく思う者も確かにいるようだが、今までと別の場所から来た客人という珍しさも充分際立っているらしい。

 アルカのテントは他の者と比べて一点五割増しくらいのサイズだが、通常のテントの三倍以上の大きさのものが何個か連なっているゾーンがある。恐らくそここそが客人用のテントだろう。まあ個人で住むものより大きくないといけないけど、テントである以上持ち運べるサイズじゃないと駄目だから、なんとも半端な大きさである感は否めない。

 どこから入ろうか悩ましい、というところで肩を叩かれた。

 敵であることを注意して素早く振り返るが、見たこともない女だった。

「誰?」

 濃い灰色の髪を首元辺りで切っているが、長さがまばらで統一感がない。人当たりの良さそうな笑顔と、ホオフを思い出す丸い眼鏡と、この辺りで多くの者が着ている研究者の白衣を身に着けていた。

「これは失敬、私は世界の裁定者であるジャッジメントの名を受け継ぐ者、二十三代目ジャッジメントと申します。あなたのお噂は聞いていますよ? 異世界人で人性に関わる魔法を受け付けないというリナさんですね?」

 笑顔のまま肩を握る力が強くなった。何かヤバイと変身できるように意識をしかと保ちつつ、対話を続ける。

「それで何の用かしら? ちょっと急いでいるんだけど」

「単刀直入に申し上げますと、この世界にあなたは必要ないと判断しまして」

(ハァングドさぁぁぁああああんっ!!)

『分かってる! だから俺は言ったんだよもう!!』

 体から激しい光が溢れる。それと同時に、肩を圧迫する手が離れていくのが分かる。

 そして改めてジャッジメントと向かい合う。ていうかジャッジメントってあれよね、確か、ですますちゃん。会ってるわよ、比較的多めに。

『代が変わると別人だと思った方がいいぞ』

(それは当然でしょ)

 彼女が私を見る目は驚きのものだったけど、すぐに敵に向けるものへと変わった。さて彼女は何をするのか。

「……災害魔法」

 なんかヤバそう、なんて俗な感想を言ってはいけませんか?

(十秒!)

『止めるタイミングに気を付けろ!』

 既に空からごろごろと稲光の音がしている。雲もない晴天にも関わらず。

 魔力なんて私には分からないけど、とある瞬間にジャッジメントの威圧感が、迫力が最高潮に達した。その時に私は時を止めた。

 まるでテレビの映像で見るかのように、空の、私の真上に雷があった。

 それで、確か雷っていうのは通電する物に向かって動く性質があるから、ちょっと動いただけじゃ追尾してくるらしい。だから逃げる時は鉄に包まれた車の中とか、木にくっついておく必要があるとか。でも木に引火する可能性もあるから注意。

 そんなことはどうでもよくて、やっぱりとにかく走った。

 人ごみに紛れるようなタイミングで、十秒の予定が結局は五秒で済んだ。実際に十秒使う機会はあんまりないかも。

 ピシャアンと耳を打つ音は鞭のようだ。近くならもっと轟音だろうが、本物の雷と違ってこれは小さなものなのだろうか。

 一瞬私を見失って驚くジャッジメントが見えたけど、私の姿に驚く人々が避けて道を作るから、結局すぐにバレる。

「まだ行きますよ!」

(今度は三秒くらいで大丈夫かしら?)

『ああ。だがこれ以上は時を止めずとも、誰かにぴったりくっついときゃ雷は起こせんだろう』

 彼女が他人を巻き添えにしないとすれば、の話だが。

 こういう時に敵を信じるっていうのは嫌な話だ。けれど私が無力であるうちはそう信じるしかない。無力ってやあね。

 三秒と言わず、二秒で続く雷を躱すことができた。無論、人の海に紛れることで、だ。

 今度からは加速と身体能力のみで雷を躱すことができる。

 そう思ったが、思わぬ失敗があった。

「き、気持ち悪いんだよ!」

 そう見知らぬ研究員の一人が私を強く押すと、それだけで私は吹き飛んだのだ。

 非力、それはこれほどまでに罪なのか。

 私を気味悪がる人々が空けた、ひらけた場所に、ぽつねんと私一人が身を転がしている。

 諦めと同時に天を見上げた私に、太陽と雷の光を遮る影が一つあった。

「ブッ殺しまぁっすッ!!」

「ホオフ!?」

 まがうことなく、緑色の髪のホオフが武器を天高く掲げ覆い被さるように跳んできた。

「ぎゃばばばっばばば!!」

 ギャグみたいな声を挙げて全身で痺れと痛みを表現する彼は、どさりと私の横に落ちた。同時にその手から大きな槍を落として。

「突然! 突然出るから! 私はそんなつもりはなかったのに!!」

 ジャッジメントは彼女の方で一人ヒステリックを起こしている。よかった、彼女は全くの悪人というわけではなさそうだ。

 これでホオフの方だけでも死んでいてくれればいいのだが、放っておけばまたジャッジメントの方が攻撃をしてくるだろう。

 その前にすべきは何か。

「スイートッ! スイートはいないのっ!?」

 三十六計逃げるに如かず、古来より逃げるが勝ちと偉人でさえ言っていたのだ。スイートならば私の盾にもなってくれるだろうし、そもそもスイートがいなければ道も分からず、足もない。

 彼女の名前を叫び続けていると、人混みの中からその見慣れた顔が出てきた。

「きゃあっ! もうあんたの知り合いってだけでこれだよ! どうしてリナはいつもいつもトラブルばっかり起こすの!?」

「それはごめん! でも逃げるわよ!」

「いや、彼女はここで倒す」

 手を引き走ろうとしたが、スイートはその場から微動だにしなかった。

「倒す!? あなたが!? 馬鹿じゃないの!? 雷を降らすのよ!?」

 これ以上の正論があろうか!? 昔は神と書いて(かみなり)と読んだりしたほどで、昔から天から降る雷に対して人間は無力だと考えられていたのだ。それを操る人間など、そもそも人間ですらないだろう。私の世界じゃ雷を操る蓮はチェンジャーと呼称されて……。

 しかしスイートは、微動だにしない。私の思いの半分も伝わっていないだろう。

 もはや、その赤い目は私の方を少しも見なかった。

 力づくで私の手を振り払うと、スイートは、まるで今までのスイートと別人のような雰囲気だった。

「糖分魔法……アクティベーション!」

 よかったスイートだ、なんて思った瞬間に彼女はそこにいなかった。

 轟音と風圧で目を閉じ、急ぎジャッジメントの方を見れば、彼女の首根っこを掴んだスイートがそのまま彼女を押し倒し、もう一つの手で顔を覆っている。

「アブゾービング!」

 馬乗りされてもがき、暴れる彼女は、スイートがそのように叫ぶとやがて力尽きるようにパタリと両手足を置いた。

 沈黙に包まれた。私でさえスイートにかける言葉が見つからないのだ、他の人が何を言えようか。

 驚いたことは、スイートの実力だ。アウロラ教国の時に彼女は逃げ出す手段があると言っていたが、一瞬でこのジャッジメントほどの相手を無力化できるほどの力を持っているのなら、強がりじゃなかったのだろう。

「それでリナ、逃げようって話だけど、それ無理だから」

 普段通りに話しかけてきたのは彼女の方だった。私はやっと変身を解いたけど、彼女の言葉には疑問を呈する。

「どうして? ここは危険よ? それに商品の配達だってあるんでしょ?」

 行商人であるところの彼女が商品を後回しにするなど信じられない。どうせそのうち『蜂蜜と果汁がもう……もうっ!』とか言い出すに決まっている。

 が、彼女はまた真剣な顔だった。

「私はね……恋しているの! 分かる? あの雷に打たれた衝撃! 同時に訪れるどんな甘味よりも素敵な甘い痺れ……、私は、アルカ様に会うために生まれてきたのよ……」

 とろんと、チョコレートを食べた時のような顔をしながらスイートは熱く語る。

「チョコレート、あげないわよ」

「うぐっ……! でも、ここに来た以上一つ分は……」

「ここから動かないんじゃ約束が違うもの。もう一つたりともあげない」

「そこをなんとか……」

 彼女にとって恋は仕事以上に大切かもしれないが、目先の甘いものにはやはり弱いようだ。

「駄目よー? スイートがそんなこと言ってたら……」

「アクティベーション!」

 目にも止まらぬ速さで動く時の台詞、私はチョコレートの警戒をしようとしたが、それ以前にスイートは私の右肩の上から、後ろの奴にハイキックを当てていた。

 そこには、起き上がったホオフがいた。

 吹き飛ぶこともなく、ぷっと鼻血を噴出させてホオフはまた倒れた。この人、たぶん不幸の星の元に生まれている。

「リナ、油断は駄目」

「だ、だってこいつさっき雷に打たれて! っていうかタフ過ぎでしょ!」

「言い訳はいいから。それじゃここでの生活を満喫しましょう」

「待って、商品は……」

「誰かに運んでもらえばいいって。ここにはリナもいるしアルカ様もいるし、いやあ定住することになるなんて思わなかったなー」

 鼻歌混じりに楽しそうなスイートは、もう聞く耳なしと言った様子だ。

 助けてくれた感謝もある以上、もう口やかましく言う気もない。話すだけ無駄そうだし。

(しかし、もう打つ手がないわね)

『なんか考えるしかねえよな。どうする?』

(私達を疎ましく思う人達に、スイートごと追い出してもらうとか? でも、アルカの言いなりじゃどうしようもないわね)

 この国の誰もがアルカの言いなりで、そのアルカが私を繋ぎとめようとするのだ。

 繋ぎ止めるといっても、その状況もあまり良いものとは言えない。なんせ彼女は私に好意はあるものの、魔法が通じない厄介者として監視している形に過ぎない。何度も逃げ出そうなどとすれば、やがては始末する方へ考えを変えるかもしれない。

(アルカにスイートだけでも魔法を解いてもらえれば)

『無理だろ』

 それは私もそう思う。アルカにとってもスイートは私の心残りで逃げるのを躊躇わせる一つの要因になると分かっているのだ。

「リナ! どうして外に出ているの!?」

 歓声が上がったことで、その声を聴くまでもなく誰なのか分かった。つまり自由時間のタイムリミット。

「アルカ。いや、寝ちゃったからちょっと散歩しようと思ってね」

 言うとアルカは、倒れているジャッジメントとホオフの二人を見て、私の顔をじとっと見た。

「そっちの世界の散歩って随分過激なんだねぇ……」

「いや、襲ってきたのはこの二人だから! 私悪くないよ!」

 外面のような子供っぽい反応をしてしまったけど、それだけ本音に近いということだ。あの二人が襲ってこなければ本当にただの散歩みたいなものだったのに。

「……まあいいよ。その代りもう放さないから」

 彼女は精一杯私を睨みつけて言う。

 もうこれ以上、好き勝手な行動を取ることは無理そうだ。

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