黎明Ⅱ
6/1 23:23 某所
ドブの臭いに鉄さびの匂いが交じり合って、辺りは吐き気のするような空気でいっぱいになった。
けれど、影は意に介さず足元に横たわる首のない巨体を隈なく観察していた。
「うーん、やっぱキミじゃなかったか」
腕、足、腹、下敷きになって見えないところは極力触れないようにしながらひっくり返して見てみる。
あるのは古傷に覆われた薄汚い皮膚ばかり。
「ここまで来てハズレかぁ・・・・・・辛いなぁ・・・・・・」
肩を落として大いに落胆すると、影はもと来た道を戻り始めた。
暗く、湿っぽい道。
いくつかの角を曲がったところで別の影が立っていた。
「相変わらず派手だな」
「そうかな。キミが大暴れした時を考えたら可愛いもんでしょ?」
「よく言うよ・・・・・・」
2つの影は合流して同じ道を歩き始める。
ひとつの影は小柄でのろのろと、ひとつの影は大柄のがっしりとした体格でテキパキと歩く。
「それで?あいつはどうだった?」
テキパキと歩く影が問いかけると、もう一方はあからさまに肩を落としてため息をついた。
「この通り。」
小柄な影は懐から何かを取り出すと、もう一方の影に手渡した。
「左目・・・・・・?」
「そう。彼の銘号核。巨人の一撃」
「つまりはハズレか。」
「そういうことになるね。」
「そうか・・・・・・」
二人揃って大きく肩を落とす。
落胆のため息は通路を反響して、風のうめき声のように響いていく。
「そもそも今回の預言、信憑性のあるものなのか?」
「今回は聖女様の直々の預言だからね。しかも騎士団から楽団、放浪者にも召集をかけるくらいだから生半可な覚悟じゃない。だいたい僕らを引っ張りだすくらいだし、状況がかなり逼迫してることは確かだよ。」
「・・・・・・とは言ってもな。」
大柄の影は布袋を取り出した。
布袋はあふれんばかりにものが詰め込まれていて今にも破けてしまいそうだ。
「げ。それ全部 銘号核?」
「誰かが『強者は全部ボクが処理します』なんて言うから、雑魚の相手を片っ端からさせられてたんだよ。」
「えっと、ごめん・・・・・・」
「まぁいいさ。結局どっちもハズレだったことに変わりないからな・・・・・・」
二度目のため息がこだまする。
重い頭を上げると、2つの影の数十メートル先から光がこぼれていた。
話しているうちに出口の近くまで来ていたらしい。
「あと少しで日付が変わる。そうすれば預言に振り回されるのも終わ・・・・・・」
出口に足をかけて大柄の影は言葉を切った。
もう一つの影が数歩後ろで足を止めている。
「どうかしたか?」
影は出口と反対の方向を向いて微動だにしない。
まるで暗闇の中に何かを見出しているように。
大柄の影は知っていた。
それが何を意味しているのかを。
「篝、残念だけど預言は的中しちゃいそうだよ。」
「そうか、聖女の預言は信用ならんがお前の予感は当たるからな・・・・・急ぐぞ。」