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記憶

「だいじょぶかよー」

「うん、たぶん」


 昼休み。

 僕と清水は屋上で昼食を食べていた。




 授業中に涙が止まらなくなったあと、ひとまず保健室に連れて行かれた。

 なぜ涙が出てくるのか全くわからず、保健室の養護教諭も原因が突き止められず困惑していた。


『何か困ってることとか、悩んでいることとかあるかな?』


 そんな質問をいくつかされたけど特に心当たりはなくて、その間にも涙は流れ続けて。


『きっとなにか精神的に疲れが出たんだろうね』


 とりあえず落ち着くまで保健室で休むように言われ、午前中は保健室のベッドの上で大人しくしていた。

 今は涙は嘘だったかのようにぱったりと止まっている。




「いきなり泣き始めるから、すげーびっくりしたんだぞ」

「僕だって何がなんだか・・・・・・」

「まー、体調は悪くないみたいでよかったよ。」

「そう、だね・・・・・・」


 ジャムパンを美味しそうに頬張る清水。

 その周りを光る何かが覆っている。


 涙は止まった。

 けれど相変わらず視界の一部が光るのは治っていない。

 教室で見た時のようにはっきりと何かの形に見えるわけじゃないけど、オーラのような、霧のようなものが視界のあちこちに固まって見えるのだ。

 今で言えば光はちょうど清水を囲むようにあって、集まるように動いては霧散している。


「ん?どうかしたか?さっきからぼーっとしてるけど。」

「いや、なんでもない。」

「本当に体調、大丈夫なんだよな?」

「うん・・・・・・」


 怪しいな、と顔を覗きこんでくる清水。

 それと同時に纏っている光も近づいてくるようで、目がチカチカする。

 眩しくて目をそらしていると、


「あ、飯足りなかったのか?朝食べてないならパンひとつじゃ足りないよな。俺なんか買ってきてやるよ。」

「え、いや、だいじょぶ・・・・・・」

「いいから、いいから!」


 そう言うと止めるヒマもなく清水は走って行ってしまった。

 きっと彼なりに僕のことを心配してくれてるのかもしれない。


 一人になった僕は食べかけのパンをむしゃむしゃと食べた。

 屋上には僕以外にも昼食を食べに何人かいる。

 相変わらず視界をチラつく光はなくならず、気にし始めるととても煩わしい。

 しかも屋上にいる人の中にはカップルも少なくないわけで、


(いちゃつくならもっと人がいないところにしろよな・・・・・・)


 ただでさえ気が立っているのに、こう見せつけられては苛々が増すばかりだ。


 悲しいことに僕には彼女はいない。

 それなりに想いを寄せている人はいるけども・・・・・・。


(いや、無理無理。ありえないな)


 その人が僕の隣に並んでいる姿は想像できない。

 思い浮かべた人は美人で、性格もよくて、学級委員長で、誰もが憧れる人で。

 そして花が咲くようにふわりとした笑顔が素敵な人だ。

 とても僕なんかと釣り合うような人ではない。


(僕にもう少し身長があって、それなりの見た目だったら・・・・・・)


 想像して清水の顔が浮かんだ。

 くそ、外見だけは本当に羨ましい奴だ。


 考えに嫌気が差して見上げてみれば今日は綺麗な青空。

 絵の具で青を塗ったみたいに雲ひとつ無い。


(吸い込まれそうなくらい晴れてる)


 こうしていると不思議と光がチラつかない。

 おかげで心が休まるような気がした。


 空の青は遠近感がなくて吸い込まれてしまいそうな、そんな錯覚を感じさせる。

 このまま昼寝をするのも悪くない。


 瞳を閉じればだんだんと意識が遠のいて、周りの喧騒が消えていく。

 体の感覚が端から順に失われていく感じ。

 重荷がなくなって解放されるような、心地よさに満たされる。

 でも足場が崩れるような不安がどこかにあって。


(あれ、この感覚・・・・・・)


 最近あった気がする。

 いつだっけ・・・・・・?


(そうだ、あの夜―――)


 ビルで縁取られた四角い夜空。

 冷たいアスファルト。

 溢れ出る赤。

 失われる感覚。

 飛び交う怒声。

 何かが壊れる音。

 月光を受けて輝く人影。


 僕は必死に声を出そうとするのに声にならなくて―――


「なんだ、今の。」


 記憶に無い景色が駆け抜けた。

 断片的な残像のようなもの。

 だけれど鮮明で、現実的で。


 あの夜?

 あの夜っていつだ?


(わからない・・・・・・)


 身に覚えのない記憶。

 何か大事なことを忘れているような気がしてならない。

 でも、思い出そうとしてもそれは霧のようにどんどん薄れてしまうばかりだ。


 気が付くと全身から汗が吹き出し、心臓がバクバクとすごい勢いで拍動していた。




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