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 開いたノートと教科書の上に大して使いもしないのにたくさんの文房具を並べてぼーっと頬杖をついた。

 黒板の前に立つ先生の話は現国の話からいつの間にか最近連続しているいたずら事件に変わっている。

 この先生はいつも話題が脱線しがちで、自分の興味がある話題に対して自らの見解を熱く語り始めることが多い。

 そうなるとクラスのほとんどは話半分に、思い思いの暇つぶしを始める。

 僕の場合、そもそも板書だけ写して話なんてほとんど聞いてなかったのだけれど。

 とりあえず残りの授業時間をどう使おうかぼんやりと考えてみることにした。


 席は窓際の一番後ろで初夏である今の時期は風通しもよく、過ごしやすい。

 よく清水あたりには、遅刻常習犯の成瀬が居眠りにピッタリの特等席だなんて恵まれすぎてる、なんて言われる。

 たしかにこの席での居眠りや昼寝は心地いい。


 眠ってしまおうかとも思ったけれど机に突っ伏すために目の前に散らばっている文房具を片付けるのは正直面倒くさい。


 辺りを見回すと、まじめに先生の話を聞いてる人、別の教科の宿題を出して勉強し始める人、スマホを取り出して静かにゲームを始める人、机にへばりついて寝る人・・・・・・と様々だ。

 ふと、こちらに小さく手を振るのが見えて視線を向けると、清水がニヤついた顔でこちらを見ながら机の下に隠した携帯ゲーム機をちらつかせる。


(やらないよ・・・)


 首を横に振ると、清水はつまらなそうに僕の耳には届かない悪態をついて前に向き直った。

 あいにく今日はゲーム機を持ってきてないし、あったとしてもゲームをする気分じゃない。

 もう一度ぐるりと見回すと、ある異変に気がついた。


(なんだこれ、目が変だ)


 視界の一部が何かに反射するようにキラキラと光って見える。

 目自体に痛みや違和感はない。

 ゴミでも入ったのかと何度か目を擦ってみる。

 それでも消えることはなくて、


(疲れてんのかな・・・・・・)


 ぎゅっと目を閉じて眉間を揉んだ。

 今日は朝から走ったり、見たくもないものを見たり、疲れる要素はいっぱいあった。

 眼精疲労かなにかかもしれない。


 そう思い、諦めて再び目を開けた時だった。


(あれ・・・・・・)


 さっきよりも光は鮮明かつ局所的になっていた。

 ひとつは右前の、ちょうど清水の席あたりに。

 もうひとつは教卓正面のあたりに。

 中でも一際ひかりが集中していたのは一人の少女だった。


(たしか・・・・・・寶井たからいさん、だっけ?)


 寶井流架たからいるか

 ウチのクラスの活発な女子たちの中ではやや浮いた印象のある女子だ。

 直接話したことはないけど、とても大人しくて休み時間は読書しているところ以外はあまり見たことがない。

 クラスの女子と話しているところを数回見たことはあったが、特に親しい友人がいるようには思えなかった。

 美人で俯いていることが多いせいか表情が読めず、無口で謎が多いとかで一部の男子からは人気がある。

 僕はどちらかと言えば学級委員の藤原さんのほうが好みなのだけれど。


 彼女はじっと前を見つめながら机の上で腕を組んでいた。

 開けた窓からふわりと風が舞い込んで彼女の髪をさらさらと揺らしていく。


 彼女の周りの光は徐々に収束してひとつの形を作っていく。


(あれは、翼?)


 まるで彼女の背中に寄り添うように、光は片翼を形作っていた。

 翼は水面に陽光が反射するように儚げに、ときより眩しく輝いて。


 なぜだかその輝きは彼女自身を表しているように思えて、切ない気持ちがこみ上げてきた。


「・・・おい、成瀬。どうしたんだ」


 教壇から聞こえた声で現実の世界に引き戻された。

 気が付くとさっきまで熱弁していた教師と共に、まわりのクラスメイトが心配そうにこちらを見ていた。

 自分はなにかしてしまったのだろうか。


「成瀬、それ・・・」


 清水が僕の顔を指さす。


「え、あれ・・・・・・」


 異変に気づいてそっと自分の頬に触れると、生暖かいもので濡れている。

 涙が頬を伝って次々と溢れていたのだ。

 なぜ、涙がでるのかもわからず、止めようとしても止めどなく涙が溢れ続ける。


「なんで、・・・・・・とまんないんだよ・・・・・・!」


 止まれ、止めれ、と何度念じても止まらず、ポタポタ滴り落ちた涙はと広げたノートの上にどんどんシミを作る。

 視線を上げると涙で景色は滲んでいた。

 不安そうなクラスのみんな、真っ青な顔で近づいてくる教師、成瀬と連呼する清水、その片隅にさっきまで見ていた寶井さんがいた。

 彼女の背中には翼はない。


(見間違え、だったのかな)


 周りにいるみんなと何ら変わらない、ただの少女。

 ただ、少し違っていたのは彼女だけが僕を恐ろしい表情で睨みつけていたことだった。

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