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「二度と遅刻するんじゃないぞ、成瀬。」

「はい、失礼しました・・・」


 立て付けの悪い職員室の戸を開け、一礼してその場を去った。


 朝から散々な目にあった。

 不健康そうな顔をよりげっそりとさせて、成瀬遥都なるせはるとは大きな溜め息をついた。


 あの駐車場の惨状を目の当たりにした後、急いで道を迂回したものの間に合わず、結局遅刻してしまった。

 お陰で生活指導の先生にこっ酷く絞られる羽目になった。


「今日のは仕方ないと思うんだけどな・・・・・・」


 成瀬は窓から見えるブルーシートに覆われた駐車場を見た。

 ここから見えるほどあの現場は学校のすぐ近くだ。

 学校は生徒だけでなく、教師の間でも事件の話で持ち切りだった。

 けれど皆は目にしていないのだろう。

 あのおぞましい惨状を。


 偶然とはいえあの時、見えてしまった現場。

 映画の1シーンなのではないかと思いたくなるほど駐車場は血みどろの地獄だった。

 赤と赤が広がっている中にところどころ何かの塊みたいなのが転がっていて・・・・・・。


 隙間から見えてしまった周囲の野次馬からは悲鳴が上がり、その場で口元を抑えながら崩れる人もいた。

 成瀬自身も胃の中の物がせり上がってきそうになったのを必死に抑えた。


 今まで殺人現場を見たことはないが、あれは常軌を逸していることはなんとなくわかる。

 まるで生き物を叩きつけたか、爆発でもさせたような・・・・・・。


「うっ・・・・・・また気持ち悪くなってきた。」


 胃酸が逆流してくるの感じて口元を抑えた時、


「おーい、成瀬ー!」


 不意に呼ばれて振り返ると、廊下の向こうから誰かが走ってくるのが見えた。

 その人物は明るい茶髪をばさばさと乱しながらこちらに向かってくる。

 廊下の端からでもよく通る声、がに股気味のドカドカという走り方ですぐに誰だかわかった。


「清水、お前の声でかすぎ。」


 職員室を指さしながら諫めると、清水啓太郎しみずけいたろうは愛嬌のある笑顔で照れ笑いを見せる。

 清水とは高校に入ってから知り合った仲だけど、お互いに気が合うところが多く今では一番仲がいい友人だ。

 弓道部で体格もよく身長も高い上に人懐っこい性格で顔も悪くない。

 これだけ条件が揃っていればモテそうな気がするが、残念なことに少しネジが緩んでいるというか、はっきり言えばバカである。


 何もないところでつまずいてそのまま階段を転がり落ちたり、家庭科の授業でエプロンに引火させて危うく火事になりかけたり、もらったラブレターを教室のド真ん中で嬉しそうに読みだしたり。

 世間ではこれを残念なイケメンというんだろうか・・・・・・。


 清水は額に軽く汗を浮かべながら成瀬の元へとやってきた。


「わりーわりー。成瀬がシバゾーに捕まったって聞いて・・・。大丈夫だったか?」


 シバゾーとはさっきまで有難いお説教をしてくれた生活指導の柴田先生のことだ。

 この学校で説教のしつこさでは右に出るものはいない。


「大丈夫じゃない。今日は走れメロスの話を絡めたありがたーいお説教だった。『お前がメロスだったら何人の親友を見殺しにしてると思ってる!』って・・・・・・」

「うげー・・・・・・メロス関係ねぇし。朝から災難だったな・・・・・・」

「まぁね・・・」

「・・・・・・ま、元気だせよ!」 


 清水は大きな手のひらでバシリと背中を叩いた。

 叩かれたところがジンジンと熱を持つ。

 彼は力加減を知らない男だ。

 しかも、悪気が全くないために質が悪い。


「あ、ありがと・・・」

「おうよ!」


 弾ける笑顔が眩しい。

 どうすればこんなに明るく日々を過ごせるのか、いつも羨ましく思う。


「ところで、あれ、怖いよなー」

「あれ?」


 清水の視線の先には件のブルーシートの現場がある。


「朝のニュースで見て、学校の近くだったからすげーびっくりしたよ。成瀬はあそこが通れなかったせいで遅れたんだろ?」

「よく知ってるね」

「教室から見えんだよ。よくあの駐車場を全力で横切ってくる成瀬。だから『今日は駐車場通れないぞ』ってLINEで教えてやったのに。」

「・・・・・・全力疾走中に確認できる時間あると思う?」

「いや、ちょっと手遅れかなとは思ってた。」


 清水はケタケタと笑う。

 ・・・・・・今度からは道選びは気をつけよう。


「でもよー今回のは今までのいたずらっていうレベルじゃねぇよなー」

「それなんだけどさ、僕ニュース見てなかったから詳しいこと知らないんだけど・・・・・・。」

「あ、そっか。朝時間ないもんな、お前」

「うるさい」


 ムカついて今度は僕の方がバシリと叩いた。

 ガタイのいい清水はびくともしなくて、逆に叩いた手がビリビリと痛い。

 それがまた腹立たしい。


 恨めしげに見上げる僕に気づかず清水はスマホで事件の記事を映しながら説明を始めた。


「ニュースでは昨日の夜にあの駐車場で殺人事件があったって言ってた。あ、この記事。犯行の様子を見た目撃者とかはいなくて、犯人も不明だって。」

「へぇ・・・・・・」

「現在警察が捜査中・・・・・・一連のイタズラ事件との関連も含めて、ってなってるなー」

「そういえば、この事件の被害者って誰なの?この記事に載ってないけど・・・・・・」


 スマホの記事をスライドさせて文章を追うが被害者についてはまったく触れられていない。

 見ると清水は表情を曇らせていた。


「清水?」

「・・・・・・見つからないんだよ、被害者。」

「それってどういうこと?」

「被害者っていうか、死体が見つかってないらしいんだよ。」


 そう言うと清水はスマホであるネット掲示板を開いてこちらに見せた。

 そこには『【画像あり】マンション駐車場殺人事件の現場が悲惨すぎる件について』の文字があった。


「警察では殺人事件って言ってるけど、死体自体は現場になかった。でもここにアップされてる画像を見る限り、血の量とかさ、ただの喧嘩のあとってレベルじゃないことは素人が見てもわかるな。」


 投稿されている画像はあの現場のものだった。

 明朝に撮影したのか辺りは少し暗いようだけど、駐車場に広がる血飛沫が広がっている。

 また吐き気が戻ってきそうになったところでふと、違和感を感じた。

 この画像、現場で見たものと何かが違うような・・・・・・。


「それさ、近所の人が撮ったらしい。確かにこんな血みどろ地獄になるほど切り裂かれちゃ死体が見つからなくても失血死は確実だよなー。」

「これ本当に近所の人が撮った写真なんだよね?」

「そうだって言われてるけど、どうかしたか?」

「いや、なんでもない・・・・・・」


 感じた違和感が何なのかはわからない。

 ただ、脳裏に焼き付いている光景とは何かが違うように思えてならなかった。


「とりあえず犯人は普通じゃないのはわかったよ。」

「そうだなー」

「うわ、事件関係のネタ多いなぁ・・・・・・」

「最近はいたずら事件も続いてたから余計にネットでも騒がれてるみたいだな。」


 事件に関連した掲示板を見ていると、あるものが目に止まった。


「なぁ、これって?」

「あーそれな。最近あったいたずら事件の考察、といかオカルトトークだよ」


 それは『怪奇事件は超能力者の仕業!?『Name:Cord』の謎!』というものだった。


「このName:Cordっていうのは?」

「最近ウワサになってる都市伝説。見た目は普通の人間なんだけど、人並み外れた超能力があるっていう。いたずら事件の原因も犯人も不明なのはName:Codeの仕業だからだ!って話題になってんだよ。」

「へぇ・・・・・・」


 廊下で立ち話をしているとチャイムが鳴った。

 授業開始の合図だ。


「やば、早く教室戻ろうぜ!」

「うん」


 僕と清水は急いで教室に向かうべく廊下を走った。

 その後すぐ職員室から飛び出してきた柴田先生に再び捕まることとなった。


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