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夏灯りの夜  作者: 気楽用
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ノイズ

それはばあちゃんが亡くなった去年のある土曜日のこと。

部活の練習試合があったため、家を出ようとしたその時、ばあちゃんが声をかけてきた。

『またどっか出かけよるんかこの子は。

いいか、あっちゃん。夜は早よぅに帰っておいで。

墓んなかにゃあ、絶対行くんじゃねぇぞ。

 あっこは冥土の爺や婆がこっちでゆっくら寝とる場所じゃからな』

「ばあちゃん、言われなくても夜に墓参りなんかしないよ……」

『ええから、聞きよ。もっしもご先祖様がた起こしよったらな、

風がふいてくるまで動いちゃならんよ』

「はいはい。ご先祖様が助けにやってきてくれるから、でしょ。

 毎っ年毎年ばあちゃんが教えてくれたから、分かっているよ。

はいはい、もう僕は部屋に戻るからね」

今思えば、だいぶ素っ気ない態度を取ってしまったものだと反省している。

この時のばあちゃんにはだいぶ認知症の症状が出ていたこともあり、僕は諦めやら悲しさを感じるようになっていた。だから逃げるようにその場から立ち去ろうとしたのだったが、

『ヒトクチさん……』

ばあちゃんがボソっと呟いた一言で僕は足を止めた。

そこにはカッと目を見開き、何かに憑かれたような無表情で立つ祖母の姿があった。

『ヒトクチさんがやってくる前にすぐにそこから逃げなさい。

ヒトクチさんには眼がない

ヒトクチさんには耳がない

…ヒトクチさんからは逃げられない』

「えっ、ばあちゃん……?」

それは祖母の声だけではなかった。まるで大勢の声が念仏をとなえるように家中に響いた。

『ヒトクチさんがやってくる前に、逃げなさい、ニゲナサイ。ヒトクチさんからは逃げられない、ニゲラレナイ、 』

ぞぞぞぞぞぞと悪寒がはしる。動こうとしても、足が、背中が、誰かに掴まれているようにピタッと張り付いて動かない。

「ごめん、ごめんなさい!ばあちゃんごめんなさい!」

そのあまりの迫力に僕はただ謝ることしかできなかった。そんな時だった。

ドタドタドタドタ!!

「どうした!?何があった!?」

只ならぬ気配を感じてくれたのだろうか、止まってしまった空間を打ち破るように、2階から姉が駆け下りてきてくれたのだった。

「…ああ、モエちゃんかい。おはよう」

だがそこにいたのはいつもと同じ、しわくちゃ笑顔のばあちゃんだった……


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