夏の終わりのエピローグ①
…それから数日後、深緑色のカーテンが生い茂る墓地近くの裏山で、広げたら教室一面に敷けそうなほどの大きな布きれが見つかりました。表面には土汚れやまるで鋭い鎌のようなもので切り裂かれた傷が多数あったそうです。
第一発見者のおじいさんは日課の墓参りを終え、晩飯の足しにと思い、山菜を取りに山へ来たところで偶然それを見つけたのです。
「誰だ、こんなとこにぃゴミを捨てよるやっちゃあ!」と怒りを覚えつつ、おじいさんが布を持ち上げると、それはまさに口をグアッと開けるかのようにして横に裂けました。
ゴロドロドロドロ!!!!
「なあっ!……ぁああああ!!」
おじいさんはそこで初めて分かりました。自分が触っていたのは正確には布ではなく提灯であったことに。そして裂けた提灯の中から、骨盤骨や上腕・前腕・大腿・下腿・肋骨、そして頭蓋骨が転がり落ちてきました。
「ああああああ!! なんまんだぶ なんまんだぶぅぅぅぅぅぅ…… 」
おじいさんは山道を転がるように駆け下り、急いで人を呼びに行ったのでした。
「ほら、あそこだよぅ!!」
おじいさんに案内されるまま、裏山にやってきた駐在さんはすぐにその異様な光景を目の当たりにしました。
「こ、これは……」
駐在さんが驚くのも無理はありませんでした。おじいさんが指した先には人骨が-
しかも頭蓋骨を頂点に、頸椎、鎖骨、胸椎、肋骨、肩甲骨、上腕、前腕、手趾骨、腰椎、骨盤、大腿骨、膝蓋骨、脛腓骨……と、解剖に詳しくない駐在さんやおじいさんでも分かるように、まるで『生きていた時のように眠っているでしょう?』と主張するかのように並べられていました。
それがざっと4人分。
おじいさんも駐在さんもこの骨が先月の事件の被害者たちで間違いないことがすぐにわかりました。だってそうです。
4体とも揃って、足首より先の骨がなかったのですから-
8月10日、あの事件から僕は警察や先生たちに事情を聞かれて気の休まることのない日々が続いていた僕だったが、今日はそれらからようやく解放されて夏休みを満喫していた。
ピンポーン ピポピポピンポーン ピポピポピポピポ-
(誰だよ一体…)
躊躇なく連打されるウチの呼び鈴。果たしてその訪問者は、やはり彼女だった。
「…おはようございます、小林さん」
「おはようアキラくん。全然出てきてくれないから何回かベルを押してしまったわ」
「ちょっとクーラーの効いた部屋でスイカを食べていたので。ごめんね遅くなって」
とりあえず早めに謝っておく。ヘソを曲げると厄介な相手だ。
「本当にそれだけ?」
「…高校野球も観ていました」
「やっぱりジジ臭いわ、アキラくん」
(…うん、今日ばかりは僕もそう思う)
小林さんに会うのはヒトクチさんと対峙したあの日以来だったので、どこか緊張を残しつつ、彼女を家にあげた。
「それで今日はどういったご用件で」
「アキラくんが気になっているだろうから、あなたのお姉さんのことを教えてあげるわ。
…そして私のことについても」
彼女が差し出された麦茶のグラスをギュッと力を込めて握ったのが分かった。
その口から語られたのは、僕が知っておかなくてはいけない物語だった。




