邂逅の夜
外に出るのはいつ以来かな。
自転車をこぐ体のあちこちから血が出て痛い。
(昔は何にも考えずに乗れていたのに!もっとブランクのある人向けに技術進化してよ!)
愚痴はいつも通り出ていたが、ノンストップで加速してゆく。
肺が焼けるように熱い。ハアッ とても他人に見せられる顔じゃないわ。ハアッ
息も絶え絶えでようやく辿り着いた先で見たものは、血しぶき。
そして今にもバケモノに殺されそうな弟の姿-
「ぁ、アキラああああああああああああ!!!!」
響いた絶叫。
瞬間、私の体がまばゆい白光で包まれ、意識が遠のく。
「ここからは任せていいんだよね」
そう呟き、私は彼女の言葉を信じて目を閉じた。
…「ダアぁぁン!!」と大きな衝撃音が頭上で聞こえた。
庇うように挙上した手の隙間からうっすらと目を開ける。
漆黒の空に瞬く星光と提灯の燃える炎
いつまでそうしていただろうか。その光景の美しさにただただ圧倒されていた。
「僕は生きているのか…」
実感は湧かなかったが、ここはさっきまでいた墓地だ。しかし辺りは何事もなかったかのように平穏そのものであった。鈴虫が鳴く、いつもの夏の夜だった。
だが僕はすぐにその気配に気づいた。穴の近くにヒトクチさんがまだ口を開けている!
再び訪れる恐怖。
腹部に重石を詰め込まれたように体が重い。
(どうしよう、また襲われるかもしれない!一体、どうしたらいい!?)
『アキラ、間一髪じゃったな。遅れてすまなかった』
真後ろに現れたその声の主を見た途端、僕は涙が溢れた。
「ぁあなたは…どうして…?」
【幻想的に舞う緑色の粒子。触れるのも憚られる新雪のような白い肌と長い御身】
そこにいらっしゃったのは、紛れもなくあのときの蛇神様でした。
『それはまた後でよい。まずは…』
眼を細めた蛇神様は、口を閉じくるくると僕を探す仕草を見せるヒトクチさんを見据えた。
『アレはヒトクチの分身じゃ。この夜が明けぬ限り何体でも現れよる。
アキラお前はモエを連れて早く帰れ。奴らの始末はワシに任せろ』
「ね、姉ちゃんが!? どこに!?」
心底驚いた僕は白蛇様に尋ねた。
『ふっ、墓地の外で寝入っておるわ。誰かさんのせいでよっぽど疲れたのじゃな』
「それは……」
蛇神様のお言葉に何も返せなかった。勇んで来たのはいいものの、結局僕一人では何も解決することなど出来ず、ただ死にかけただけであった。
(佐藤君……ごめんね。)
足だけになった彼に最期のお別れをする。その姿を思い出し、違う決意をする。
(君の想い、決して無駄にはしない!)
小さく息を吐き、外へ向かおうとするが-
「逃ガスカァアアアアアア!!」
あのヒトクチさんの分身が爆発と共に一瞬で僕との距離を詰めてきた!
『ヌルいのう』
そう呟いた神は提灯を真っ二つに縦切った! 一閃!
(やった!倒した!)
そう思ったのも束の間だった。
『ほれ、ひとつ叩いたらどんどん出てきたぞ』
ゴゴゴという地鳴りと共に、どこからやってきたかヒトクチさんが1,2,3……
あっという間に10体程度の提灯が集まってきた。
『アキラ、お別れは終わったか?そろそろ行くのじゃ』
周りの空気が急激に冷えてゆく。ここにいては邪魔になる、と本能的に感じた。
だが僕を庇いながら戦おうとする蛇神様にどうしてもこれだけは言いたかった
「神様!助けてくれてありがとうございました!……またね!」
『-ふふっ、どいつもこいつも』
言葉とは裏腹に、微笑んでくれた気がした。




