15の夏
8月3日 午後9時30分-
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ここのはずだろ! くそがぁ!!」
おかしい、暗くてよくわからないが、確かにここに埋めたはずだ。
俺が埋めのだから、忘れるわけがない!くそ!
何で見つかんねぇんだ!
にじむ汗が気持ち悪い。さっきから蚊の羽音もうっとうしい!
それより水だ!のどが渇いてしかたねぇ!
(……何でだ?土もやわらかいし、場所は間違いないはずだが…!?)
「早くしねぇと……」
「もう遅いよ」
「!?」
俺が気付いた時にはあいつが背後に立っていて、俺の無様な顔が懐中電灯で照らされた-
「…お前か、柴田」
「こんばんは、佐藤君」
泥だらけの姿が僕に見つかり薄ら笑いを浮かべる佐藤君。
「念のために言っておくけど、警察にも連絡しているから」
「……」
僕の先制パンチは結構効いたようだ。だがこれは嘘、ハッタリだ。
彼は沈黙していたが、肩で息をしつつも僕の隙を突こうと狙っているのがわかった。
「そこに埋まっているみたいだね。
浜口先生と金岡君が」
「……っ!!!?」
だから追撃の手は緩めない。目の前の男の逃げ道を先手で潰す。
「お化け工場の防犯カメラに全部録画されていたよ。金岡君と浜口先生が連れだって歩いているところと、その後ろを尾行するスコップやバールを持った佐藤君たち4人がね」
「……」
「本当はね、佐藤君……僕は否定したかった。墓に誰も来ていないと信じたかった。
君が殺人鬼だなんて思いたくなかった……!」
「うるせぇ!お前に何がわかるんだよ!!
浜口と金岡のやつに弱み握られて、あいつらの使いっぱしりばかりさせられた俺らの気持ちがわかるもんか!!」
ついにせきを切ったように彼は声を荒げた。その悲痛な叫びに僕は驚いた。
「浜口先生が君たちを脅していた!?」
僕はサーっと頭から血が引いていくのがわかった。
そんな僕の様子を見て、彼はニタァっと笑った。そして急に真顔になり、
「おやおや、どうやら柴田クンも知らなかったんだねぇ。あいつは最低の人間さ。
町長の息子である金岡にいいように金で雇われて、俺らの知られたくない昔の過ちを調べ上げて、事あるごとに俺らを脅迫し続けたんだ」
ショックだった。眼を充血させて嘆く彼を、僕はとても嘘つき者だとは思えなかった。
(そうか、親身になって僕らに優しくしてくれていた先生にも裏の顔があったのか…)
浜口先生を数少ない聖職者であると信じていた僕はむなしい気分になった。
「だけどこんな奴隷生活も市外の高校へ行ったら変わる。そう言い合って俺は鈴木・高橋・山本と4人で耐えてきた」
僕はその時初めて知った。彼ら不良グループがいつも一緒だったのは、そんな理由があったのだということを。彼らは、彼らでしか癒せない傷で繋がり合っていたのだ。
「けどさあ柴田ァ、傑作だぜ?あいつらこの前の終業式の日に何て言ったと思う?」
「…?」
「浜口の野郎、『お前ら自分たちの非行の数々思い出してみろよ。どうあがこうが内申点があるわけねーだろ、ばーか。精々金岡クンに媚を売って就職でもお願いしとくんだな』…だってよ。俺らに悪さをするように指示したのは全部お前と金岡なのにさ」
伝わってくる。彼らの痛みと怒りが。逃げ出したくても逃げられない彼らの苦しみが。
「…だから殺して埋めたよ。俺たち4人で協力してさ。あいつらが泣き喚きながら命乞いする姿、傑作だったぜ!けど今は2人で仲良く血まみれ穴の中さ!
アッハハハハハハ!! ハハハハ! ハハ……」
乾いた笑いが風に乗って流れてゆく。
「あいつらを埋める穴を掘っている時、高橋が狂ったように笑いはじめた。つられて山本、そして高橋も…」
みるみる赤みがかった顔が引きつりはじめる佐藤君。
「それから、どうしたの?」
「…それからの事はわからない。『でかい声出すな!』ってたしなめた俺に自我を失ったあいつらが襲いかかってきたんだ。あいつら錯乱状態になっちまって、誰が敵かもわかんなくなっちまったんだな。命の危険を感じた俺は逃げ帰った。そしたら-」
「彼らは足だけになって消えてしまった」
「……そうだ」
泣きながら訴えかける佐藤君。僕もつられて涙を流す。しょっぱい味が口に広がる。
「…ん?」
「なあ柴田。教えてくれよ。
同じ年にうまれて、同じ学校に通ってる俺らとお前。何でこうも違うんだ?
俺らのたった15年間の人生で、一体何が間違っていたんだよ!?」
「ちょっと待った!佐藤君!……ヤバいかも知れない」
直感に従い佐藤君を制止する。しかし遅かったのだ。
僕たちは少し騒ぎ過ぎていたのかもしれない。事件のあったこのお墓で。
あの晩3人の生徒が襲われたこの場所に、ヒトクチさんは現れた-




