Call me
「ちょっと、それって本当!?」
派出所勤務の父からとある捜査情報を聞いて、私は飛びあがるほど驚いた。
(どうしよう、これは今すぐ彼に伝えなきゃいけない気がする……
明日みんなに知られてしまう前に!)
そう思い立ってしまった私はすぐにスマホを操作し、電話帳にある彼の名を呼び起こした。(お願い、早く電話に出て!まだ事件が起こってしまうわ!)
こうして何度も何度も頭を捻っても、この日の晩の行動は私らしくなかったと言い切れる。
どうしてバレたら父の立場が危うくなる情報を彼に教えたのか、どうしてその夜じゃないとダメだったのか、そしてどうして彼だったのか。
まるで大きな意思に導かれるように、何の疑いもなく私は彼の声を待つのであった-
母のご近所付き合いの愚痴を聞きながら夕飯を食べ、一番風呂に入る。
今日もいつも通りのルーティーンをこなし、扇風機をかけながら机に向かう…が、参考書などに集中出来ようはずがなくベッドでダラダラ漫画でも読もうかと腰をあげた時、電話が鳴った。
「どうしたの?電話なんてめずらしい」
僕はその相手に問いかける。
「あっ柴田君、……田中です。突然だけど聞いてくれる?」
夜の8時を過ぎたころに届いた知らせ。
どうしてだろう妙な胸騒ぎがする。
「…柴田くんは学校からお墓に行く3X号線の途中に工場があるのを知ってるよね?」
「うん。動いているかもよくわからない例のお化け工場だよね」
「そう、実はその工場って夜に稼働してるらしいの。そこの社長さんは営業している間だけ、勝手口につけている防犯カメラの電源をつけていることがわかったの」
この時点で僕は田中さんが何を言わんとしているか、薄っすらと感じることが出来た。
「そこに事件前の高橋君たちが映っていた…?」
「察しがいいわ、柴田くん。じゃあここからはお父さんから聞いた最新の話。あなたにも教えるけど、驚かないで聞いてね」
勿体ぶることもなく、彼女は続けた。
「あの日の晩、お墓へ向かう姿が映っていたのはあの3人だけじゃなかったのよ。実は-」
僕は彼女から今までも何度か警察官である父親絡みの話を聞いたことがあった。それは武勇伝だったり、ただただ後味の悪い話だったり。彼女の語りが巧いのか、その話は臨場感があって興味深いものが多かった。そして、その全ての話に当てはまるのが、ノンフィクションつまり事実であるという事であった。
そう、だから。その日の彼女の話を聞いた僕はもちろん田中さんが嘘をついているなど考えもせず、その事実が示す1つの真実を汲み取ってしまっていた。
「田中さん、ありがとう」
震えた声で話し終えた彼女に、僕は落ち着いて礼を言った。
だがよくよく体を見てみれば、手足は震え、肘から先は氷水に漬けたような冷たさだけを感じていた。あるはずもないのに地面がぐわんぐわんと揺れている気がしたが、本当は僕の眼が脳の静止を振り切って震えているだけだった。
「…今日はもう寝よう。おやすみ」
出来るだけ平静を装い、彼女を諭すような穏やかな声でお別れの挨拶をする。
通話を切った僕はスマホをそっとドアのところに置き、階段を下りたのであった-




