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幕間 【ユリウスの憂鬱】前編

お待たせしました。

しかしまた幕間で前編です(すみません)

一応単品でも読めます。

ユリアスはこんな不幸体質ではなかったのですが、書き直すうちにこんな事に…




 俺の名はユリアス・ブラウニー。

 今は王都アスラン騎士団第二師団で副隊長を務めている。

 第一師団は主に王城の見回りや警備。

 第二師団は東西南北と四部隊あり、主に城下の警備。

 因みに王家の者の近くで身を守る騎士は第一騎士もしくは聖騎士と呼ばれ、騎士を目指す若者達の憧れの場所でもある。


 聖騎士になる為には実力と共に条件がひとつだけある。

 それは王に性格が気に入られるか否か。

 貴族だろうが平民だろうが誰でもチャンスは与えられる。一番のチャンスは年に一度の武道大会、そこで優勝したものが一番聖騎士に近づけるチャンスなのだ。

 でもチャンスなだけで誰でもなれるわけではない。

 王に苦言を言えなくなる者でも駄目。背中を預ける以上謀反を企むような者はもっての外。

 一度王に尋ねた者がいて、その時にはこう答えていた。


「私に気を使わす事のなく、優秀でかついじりがいがあるのがいい」と。


 今の聖騎士の方々は例えるなら熊と鷹と犬だ。

 目端が利き融通の利かない頑固な鷹と、戦闘になれば実力はあるのに王にいつも弄られ、それでも誰より懐いている犬か、王家絶対主義で、武力で守る熊ってところか。

 ちなみに隊長は以前王の懐刀であり『狼』とも呼ばれていた。自分の懐に入れた者には甘く、敵にすると誰より容赦なく牙をむく所が狼のようなんだとか。

 なんで動物に例えるかは知らないが、この通り名は名誉なことらしい……


 そんな聖騎士を夢見て訓練を積む者も多いが、俺ならそんな通り名は頼まれても嫌だね。



 そうそう。レオリア様は名前だけは隊長を名乗っているが、やっている事といえば、ほぼ部下の話を聞いたり稽古をつけるだけだったりする。


 街の見回りをするのは隊員の仕事。我が第二師団には隊長を崇拝している四人の支部の大隊長がいて、そいつらの纏めた報告書を読んで直に話を聞いて、新たな指示を出すまでが大隊長の仕事だ。


 ぶっちゃけ隊長なんて必要ないんじゃね?と思うだろうが、この第二師団は隊長の崇拝者の集まりだ。隊長が抜けたら奴らは残らず隊長の領地へと引っ越してくるに違いない。

 それが解っているからこそ、王も隊長に残るよう命じたんだろうな。


 そして俺の仕事は主に隊長のお守りと、訓練という名のシゴキをする事だった。

 訓練はまだいい。シゴキはストレス発散にもなるからな。


 そう、【だった】のだ。

 あくまでそれは過去形である。


 隊長の娘のリリアナ嬢が生まれてから、隊長は今まで以上に仕事をぶん投げてくる様になった。

 口ではもっともらしく、「いつまでも俺に頼らず自分で考えるんだ」、とか言われた中隊長らは【隊長に試されている】と思い、「お前はどう動けばいいと思うんだ?」と逆に質問しては作戦を部下に考えさせ、しかもその作戦は俺が目を通した上で俺がゴーサインを出さない限り隊長に見てもらえない。

 こうなっては、大隊長は俄然張り切りだし、俺の所に書類が山のように提出される事となったのだ。

 何で俺が!


 言っておくが俺の仕事は隊長の補佐であって、決定権などない。ない筈なんだ


 もう一度言おう。

 何で俺が!!!






 そもそも俺は、幼少の頃から苦労というものとは無縁だった。

 長年王の友として、まして片腕として、建国時代から王を支えていた俺達の始祖のサイラスは王家に貢献したときく。

 後に家訓で【王を支え・王家を守れ】というのが付け加えられた為、家では幼い頃からそれなりに努力を強いられる。

 その代わりと言ってはなんだが、食べるものにも着る物にも困ったことはなく、その上宰相の息子というだけで思い通りにいかないものはなかった。


 なぜなら俺に逆らうものがいないのだ。

 教師でさえも俺の顔色を覗い低姿勢を崩すことがなく、ましてや努力して高成績を収めても当然だという顔をされ面白くなかった。

 ましてや大した努力もせず威張り散らす他の貴族のあり方に、「このままでは正直この国も先が見えているな」と呆れてもいた。


 そんな俺に奢るなと注意しつつも、それなら騎士を目指せと言ったのは長兄のマリウスだった。


「騎士の中に面白い奴がいる。そいつといればお前の世界も広がるかもしれないぞ」


 それは誰かとは聞いていない。それでも興味がわいた俺は、反対する親父たちに逆らいとりあえず長兄の進めに従って騎士を目指す事にした。



 そして騎士団に入ってから世界は一変した。

 


 学園では身分はあってないようなものとされていたが、それでも宰相の息子という立場が付いて回ったのに、騎士団ではそんな事は二の次三の次で実力が全てなのだ。

 頭が良いだけではいけない、動きに無駄があってもいけない。感情的になるな、物事をよく見極めろと言われた事が衝撃だった。

 そして騎士団に入って一番最初に叩き込まれる事は信頼できる仲間を作ることだった。

 一人が足を引っ張ればペナルティが起こり家路に着くのが遅くなり、疲れ果てて馬舎に寝泊りしたこともある。

 そんな日々は苦しくとも新鮮であり、刺激的な日常は俺の心に巣食っていた氷を徐々に解かしていった。

 三年間の見習い期間を終える頃には、俺はマスカレード子爵、いや当時は男爵であったが彼―レオリア様の従者になった。

 とはいえ、王の側に付くレオリア様の側に付き添う事は出来ない。レオリア様が何を必要とし、どう動けばスムーズに物事が進むか考えながら動かなくてはならなくて大変だったが、思えば平和で面白みのない退屈な日々だった。


 ―――隣国が戦争を仕掛けて来るまでは……。




 ここアスラン王国は緑豊かな国である。

 

 季節も一年を通して比較的暖かく、大きな災害も近隣国に比べれば少なく作物に困ることもあまりない。

 戦争を仕掛けてきたのは隣国のライズ国。

 ライズ国は極寒の国と呼ばれるほど一年中気温が低い為、作物が育ちにくい国である。

 主に食物はライズ国より山を幾つか越えた所にある我がアスラン王国か、海を越えた所にあるキッカリア国からの輸入で賄われている。

 昔から小競り合いは多かったが、本格的に兵を向けてきたのは十数年ぶりの事だった。

 何故ならライズ国の王ラッセルは温厚な狸で、我が国の前王であるカーライズ様との腹の探りあいをしつつも、友好条約は長く続いており、ライズ国にとって我が国は敵とするよりも手を結んでいた方が何かと都合が良かったのだろう。


 それが突如開戦の知らせである。

 雪崩れ込んできた兵と会戦の報告は寝耳に水の出来事であった。

 ラッセルが息子に皇帝の座を譲ってからたったの二年。

 今の王リナールは脳筋で、軍事力にのみ力を入れていると噂されていた為に我が国でも注意はしていたのだが、万が一我が国と戦争してもし負ければデメリットの方が大きいので、大した事はできないだろうと思っていたのだが…


 戦争は始まってしまった。


 急な戦に真っ先に狙われたのは隣国の境にあたるファーミア領。軍隊の数約百五十。

 砦がまず占拠された。ここから多くの領民が人質となったと伝えられ、また百五十人というのも先駆けの人数で、何百という本命の軍がやってくるという。


 レオリア様は父方の祖母がファーミア領に住んでいたらしく、幼少の頃から遊び場としていたファーミア領を熟知していた。

 だからこそ、選ばれた。

 王は一言レオリア様に「制圧できるか?」と訪ねるとすぐさま戦地に送り出した。


 レオリア様は一見何の策もないかと思われた。

 何故ならばその後騎士団に顔を出すと自信満々に、「砦を取り返してくる。付いて来られる者は付いて来い!」と言って飛び出して行ったからだ。

 無茶苦茶だ!そう思った。「死にたいのかよ!」と思わず普段の猫を捨てて怒鳴ってしまったが、答えを返すはずの背中はみるみる遠くなるばかり。


(ああもう!なんでこんな死に戦に単身乗り込んで行くんだよ!せめて作戦立てるとか情報収集とかなんかあるだろ!!)

 どうにでもなれ!そんな気分で馬に乗り込みユリウスは走り出した。



 レオリア様は森の中を突き進み、砦が見えた地点で我々が追いついたのを確認すると、まず一面に罠をしかけた。

「これでは仲間も森に入れません!」と告げる者達にさえ「かまわないから派手に仕掛けろ」と言う。

 そして数人の隊員にここで合図と援軍を待たせる事告げると、急に方向転換し、馬から降り俺達に向って「行くぞ」言い放つと、ある大きな岩に向かって歩いて……消えた。


 消えたレオリア様に驚き岩に手を当てた俺達は、瞬きする間に砦の中の一室にいた。

 レオリア様はそのまま部屋を出て地下牢に向かうと、見張りをしていた男をあっさり倒し、まず捕虜をとなっていた領主様とその護衛達…ざっと二十人ほどを助け出した。

 ライズ国側が、何かに使えるだろうと彼等を殺さず捕まえていたのが運のつきだった。

 彼等は多少痛めつけられてたものの、十分動き回れる状態だったからだ。

そして壁にかかっている武器は、ただの飾りではなく全て手入れが行き届いた名剣ばかり。

 それぞれが武器を手にし、彼らは満足げに笑う。


 レオリア様は懐から魔石を取り出すと領主様に渡した。

「あんまり暴れないでくださいよ。年なんですから」

「ふん!我等を侮りきった奴らなど一瞬で潰して見せるわい」

にやりと不適に笑う彼にレオリア様は苦笑すると


「それでは一時ほどしたら表から私達が派手に暴れますから、そちらは任せますよ!」

「おう!まかせとけ!!」


 その言葉通り、彼らが砦を制圧するまで半日もかからなかった。


 ファーミア領の領主はそのまま二手に分かれると、次々と牢から仲間を助け出しつつ敵を戦闘不能にしていった、片や領主は隠し通路を使い敵の総大将を確保。

 総大将である彼はライズ国でも名のある名門貴族の一人で、彼の首と引き換えに情報を入手し、いいように敵を撹乱しつつ撤退を促す手紙をライズ国へ送った。


 一方、レオリア様と俺達は領主様達と別れると、先ほどの道を通り森の中に戻った。

 

 砦の中で慌しい声が聞こえてきたと同時に突撃を開始。

 内からと外からの攻撃に、ライズ国の者達は砦を占拠して気が緩んでいたのもあり、ひとたまりもなかった。

 砦を奪還した俺達は、そのまま村や森の中に残っていた者達を捕らえるのに罠のある場所に追い詰める、そしてレオリア様の合図で罠は敵兵に襲い掛かった。

 そして駄目押しとばかりに、レオリア様が魔法を発動させた。


 その瞬間、

【オオオオオオオオオオオ!!!】

 何人いるかと思う程の掛け声と、ザッザッザと草木を踏みしめる音、同時に森の中から幾つもの火が灯る。


「「「ひ、ひいいいいいいい!!」」」

 あるものは武器を放り出し、逃げ惑い罠に引っかかり、あるものは恐怖でその場に座り込む。戦場は恐怖で凍りついた。

 俺達もびびった。

(まさか敵軍がここまで来たのか?早すぎるだろう!!)

 だが次に聞こえた声に、俺達は一気に勢いづいた。

 【皆のもの恐れるな!我らがアスラン王国の戦士!何人なりともこの国を守るのだ!!】


(この声は王だ!王が来てくれた!!!)


 それから敵を殲滅するまで時間はかからなかった。

 驚いた事に火を灯したのは、村人達だった。

 ファーミア領にいたのは人質という名の洗練された農民達であり戦士だったからだ。

 彼らを指揮しつつ敵を罠におびき寄せ一気に畳み掛ける手腕を、誰もが見事なものだと認めレオリア様を褒め称えた。

 ちなみに援軍が来たと喜んだあの声は、ヨーク様の作った魔術で、ただの訓練時の音の寄せ集めだったのだ。

 

(いつの間にヨーク様に協力を仰いだんだ?しかも領主に渡した魔石は、音と身体を守る結界を同時に作り出すというとんでもないもので、ヨーク様の魔術師の名声も高まった)

 とにこかくにも。少人数で挑んでありえないほど素早く戦争を終わらせてきたレオリア様は英雄となった。

 本人は領主達の力だと譲らなかったが、魔石を用意したのはヨーク様でも、それを使用したのはレオリア様だ。あの短時間で罠を仕掛け計画をし、領主達を助け出した上に彼らと協力をして敵を捕らえた。

 そんな事がレオリア様以外の誰が出来るというのだ。


 凱旋した彼の姿に国民はレオリア様を褒め称え、王は彼に爵位と領地を与え今に至る。

 あの日俺も彼が隊長であることが誇らしく、どこまでも付いていこうと決めたのだった。




 そんな英雄が今はただの娘ばかだ。


 お嬢ことリリアナ嬢の一挙一動に一喜一憂し、お嬢と喧嘩をした日なんか使い物にならない。

 もしくは八つ当たりに、心身ともにズタボロになるまでしごかれる。稽古だけで軽く死ねるね。



 その上俺は、最近隊長専属の伝達係としか思われてない気がする。

 俺は一応副隊長なんだけど!隊長のお守りでも使いっ走りでもないんだけど!!!



 それに先日リリアナ嬢より衝撃の言葉を聞いた。

 ファーミア領を奪還したあの時の、すごいと思った隊長の行動の数々が、実はマリア様に告白されたから急いで戦を終わらせたかっただけだとか!


 色ボケの理由なんざ知りたくなかったぜ!!



 あの時の感動と俺の決意を帰せ!と思ってしまうの間違ってないよな……





改稿しました。

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