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6 【お土産は恐怖の塊でした】

今回は多少怪談が入ってます。怖い話が少しでも嫌いな方はバックしてください(といっても文才ないのでそこまで怖くないですが)

土産の受け取り拒否の為にリリーがじたばたしてる話です。



 外出許可が出る為には王妃様対策が必要って事よね。

 私がリリアナだって判らなかったら、王妃様も手出しできないもんね。

 うん。


 女優の変装能力を舐めるなよ!

 絶対にお出かけしてやるんだから!!

 そんな決意を固めていた私に、兄様がいそいそと紙袋を持ってきた。



「そうだリリー。お土産買ってきたんだよ」

「うわあい!ありがとう兄様!!」


 そういや出て行く時にそんな事言ってたっけ、と思い出しながらも笑顔で受け取る私。

 紙袋を見ると可愛い花柄。ちらりと覗くリボンがセンスの良さを醸し出している。

(これは期待できるかも!)

満 面の笑顔でリリアナは兄にお礼を言うと、早速紙袋から出してがさがさと包装紙を開ける。

「気に入ってくれるといいな」

「ああ」

「まぁ何かしらね?」

 兄様と父様がそわそわしながらそんな事を言うと、母様も微笑ましそうに笑う。


 大丈夫ですよ兄様!兄様が変なものを買ってくるとは思えませんから!

 今まで「父様に内緒だよ」ってこっそり買ってくれたお土産は、可愛いリボンだったり髪飾りだったり、はてはキラキラ光る砂糖菓子だったりと外れを引いたことがないのよ。

 今私が望む変装グッズだといいなー、と思いながら箱を開け、そして…それを見た瞬間リリアナはぱきっと固まった

 そう、箱から出てきたのはリリアナと同じ髪と瞳の色を纏った人形(ビスクドール)だった。


(に、ににに…人形!!)

 固まる私をよそに、母様は人形に手を伸ばす。


「きゃー可愛いわ!リリーによく似て銀髪なのね!まあ瞳の色も同じだわ!」

「本当に可愛らしいですね!旦那様どこでお買い求めになったのですか?」


 騒ぎ出す母様とキャリーに、父様が得意気に話し出す。


「似ているだろう!それは王都で人気のキャサリーン店の新作なんだ。土産を探していたらトーマスが急 に立ち止まって動かなくなるから、なんだろうと視線を辿ったらその人形が飾られてたんだ」

「だって、あまりにもリリーに似てたから…」

 恥ずかしそうにそっぽ向き、ぽりっと頬をかく兄様。


「うんうん。私も気が付いたら買い求めていたよ。」

 父様もはははと楽しそうに笑って言った。

 兄様は少し恨めしそうな顔をして、

「本当だよ。店内は女性ばかりなのに、父様ずんずん突っ切って行くんだよ。俺は待ってるだけだったけど、ものすごく恥ずかしかった」

「まあ」

 想像できるのかくすくすと笑う母様達。

 いつもなら「照れてる兄様可愛いなぁ」と思う私も今日だけは無理です。


 私……私っ……



(人形だけはだめなのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ)




 私がまだ瑠璃だった頃、たしかあれは小学校二年生だった。

 田舎のおばあちゃん家に遊びに行った夏休み。母さん達が買い物に出かけて一人で留守番していた時、テレビで夏の恐怖体験番組が始まった。

 そこに映ってたのは一体のビスクドール。金髪に青い目の人形だった。



『私がその子を見つけたのは、新しい家に引っ越してきた時だったの。』

『元々その家に住んでいた人は、娘さんが事故で亡くなったから家にいるのが辛くて売りに出したんだって』



 ふんふん。よくある話だよね。どうせ動いたとか喋ったとかそういうオチなんだろうなと、その時は思ってた。

 だけど……そこから急に映像が変り、ドキュメント風なナレーションから突然本格ドラマ風に切り替わったのだ。



「お母さんただいまー」


 私と同じ位の子供が外から帰ってきた。

ガタン、と音がして振り向くと、部屋に置いたはずの人形がリビングのソファから落ちて転がっていた。

「あれえ?どうしてここにいるんだろう?」

 女の子は不思議そうに人形を抱きしめて部屋に持っていく。

「ふふふー。可愛いな。あなたのお名前はるりちゃんにしようねー」


 おお。私の名前と一緒だ。やっぱり可愛いものは瑠璃って名前よねー。

 なーんて見ていたら、その映像は急に夜に切り替わった。


「おかーさんるりちゃん私のお部屋から出したー?」

「いいえ?知らないわよ?」

「だったらお父さんかなぁ。今日帰って来たらリビングに落ちてたの」

「お父さんそんな事しないわよ。幸(仮名)が置いたんじゃないの?」

「ええー?おかしいなぁ。確かに部屋に置いたと思ったんだけど」

 女の子は不思議そうに首をかしげます。


『その時は、私の勘違いかと思ってました。ですがそれは、夜に起こったのです』



 突如ナレーションに切り替わったと思ったら、おどろおどろしい音楽が流れてきた。

 私はいつしかテレビから目が離せなくなっていた。

(ちょっと怖いけど、ここで止めるのは嫌だ!)

 そんな思いのままテレビを見る瑠璃をよそに番組は続いていく。



 女の子の部屋が移る。

「きょうからここがるりちゃんの場所ー。ふふふ。ここならいつでもお顔が見れるねー」

 幸がおやすみなさーいと人形に声をかけ、部屋の電気が消える。


 時計の針が午前二時を指してしばらくすると、不意にズル、ズルっという音が聞こえてきた。

 …まるで何かを引きずるような。


ズル、ズル、ガタン


 幸ちゃん(仮名)が朝起きると人形がベッドの下に転がっていた。

 人形を置いた場所は部屋の扉のすぐ横、転がってるのはそこから二メートルは離れているのに。

「あれぇ?るりちゃん落ちちゃってる。夜中に地震でもあったかなぁ?」



『その時も不思議に思いませんでした。ですが、』




「ただいまーー。あれ?」


 やっぱり学校から帰って来ると人形がリビングに転がっているのです。

「お母さん。るりちゃんどうして勝手に持ち出すの!」

 幸ちゃん(仮名)は怒ります。



『ですが動かした覚えのない母親は、知らないと繰り返すんです』



 そのナレーションに、なにが起こるのかと食い入るように画面を見つめる私はもう番組を見出した事を後悔していた。

(誰でも良いから側にいてくれたら怖くないのに!!)

 そんな瑠璃の心情に関わらず番組は続く


『二日目の夜、「おやすみなさい」と部屋の電気を消した幸』


またも時計が映り、午前二時を超えた頃


ズルリ、ズル、ズル、ガタン


 今日は昨日と違って音が続く。

ズル、ズル、ズル


 眠っている女の子の顔に小さな影が差す。

 小さな手が幸に向って差し出され、そのまま幸の顔をぺちぺちと叩く。

「んう?」

 目を開けた幸が見たのは金色の髪とそして無表情な顔

「いやっ!」

 思わず手で払いのけるとゴトリと音がする。見ると床に人形が転がっている

幸は恐々としながらも声をかけた。

「え、る、るりちゃん?」



『まさか人形が喋るとは私もこの時は思っていなかったのですが、人形がむくりと起き上がったのです。そして…』



【どうして?】

「ひっ…!」

【あそぼう、よ】

 幸はベッドの上でずるずると後ろに下がる

【どうして逃げるの?】

 無表情の人形はそう言って手を伸ばしてきます。

「や!」

 幸は枕元にあったものを夢中で人形に向って投げつけ、ベッドを降りて扉まで一気に走ります。

 ですが鍵もかけていないのにその時部屋のドアはなぜか開きません。

「な、なんでっ!おかあさん!!!」

 ドンドンと小さな手で扉を叩く幸、ふいに小さな手が幸の足を掴んだ。

「ひっ……!!」

 幸が下を向くと、うつ伏せに寝そべったままの人形が幸の足を掴んでいた。そして…

【わたし、るりちゃん、ゆき、ともだち】

 だから遊ぼう?と、首をかしげる人形は、先ほど幸が投げつけた目覚まし時計が顔に当たったようで、人形の右目から頬にわたって皹がはいっていました。

「や、やだやだやだ!おかあさんおかあさん!」


『助けて!と思った時に「幸!」と呼ばれ父親がドアを開けました』

あっさりと開いたドアに呆然と佇む幸。そして幸は「人形取って!どっかやって!!」と、大声で泣き出しました。

 慌てて父親が人形を見ると、幸の足元に人形が転がっています。

 そして幸の足首には小さな手の痕がくっきりと残っていました。



『何故か父親が来た瞬間、人形は動きを止めたのです』


『人形は遊び相手を探していたのでしょうか?古来より人形とはヒトガタとも言って、呪術等にも使われますし、死んだ事に気付かず彷徨っている魂が、人間に戻ろうとその器を求めるという話もありますから』


『あなたの家にも人形はいませんか?いたらそれは夜中に動いているかもしれません。また遊んでいるかもしれませんよ?』



 そう言ってナレーションが終わった瞬間、カタリと居間の方から音がしたのだ。

(お、お母さん達帰ってきたのかな)

 瑠璃はびくびくしながらそっと襖を開けると、居間に置いてあった市松人形が転がっていたのだ。

(いやああああああああああああ)

 それからすぐに母達が帰ってきてくれたので、泣きながら母と祖母に抱きつくと「近所の猫が入り込んで倒したんじゃないの?」と母親に呆れた顔で言われものだが、それ以来本気で駄目なのだ。


(なんでこんな事まで覚えてるのよ!!せめてこの記憶だけは消してて欲しかった!神様のばか!!)


 宝石の様にきらきらと光る瞳。

 一点ものの言っていただけに、作りも精巧で普通の女の子なら泣いて喜ぶ作品だろうと思う。

 直視できなくて下を向くリリアナ。

(だめだ!いやだ!!これだけは絶対に駄目だ!!)

 思い出してしまうとその時の人形とよく似ている気がする。

(見ているだけで震えがくる!回避だ!!なんとしてもこれが私の手に入るのを回避せねば!!)


 リリアナはぎゅっとスカートを摘むと、顔を上げて父の下へ行き、袖を引っ張る。


「父しゃま、おねがいがありゅの」

「なんだい?珍しいねリリー」

「あい。あのね。この子にリリと同じお洋服着せて欲しいの」

「まあ!お揃いの服ね!いいわよ可愛いの作りましょ!」


 弾んだ声で返事をする母様。

(よし!母様が乗り気だ。)


「それでね。あにょね」

 恥ずかしがって下を向いてもじもじ。

 もちろんちらりと父様の目じりが下がりきってるのを確認する。


「なんだい?リリー何でも言ってごらん。」

「…このお人形リリーに似てるんでしょう?」

「そうだね。」

「だからね。この子父様のお仕事に連れて行って欲しいの」

「え?どうしてだい?リリーはこの子が気に入らないかい?」

「(そうだけど)…ちがうの…」


 そう言ってちらりと見た人形は当たり前だけど無表情で、これからやる事を考えれば私の恐怖心を煽る。

(やっぱりイヤーーーっ!…でもでも、ここでバレたら全てがおじゃんだ。頑張れ私!!)


 目をぎゅう瞑って私は人形を抱きしめて涙眼で父様を見上げる。


「父様が長い間お家に帰れない時があるでしょ?だからこの子を一緒に連れてってくれれば…父様リリーのお顔忘れないでしょ?」

「………」

「だからね、えっと…」

 だめだ、手がぷるぷる震える。

 人形の温かみのない、むき出しになっている陶器の顔が首に当たってるのだ。

 背中がぞわぞわしてきた。

(そろそろ限界っ…誰かこの人形受け取ってーーーーー!!)



「リリーーーーーー!!!」


 口ごもり恐怖で下を向いていた私は父様にがばりと抱きしめられました。 その隙に人形はポトリと床へ落ちる。

(た、たすかったぁぁぁぁぁ)

 内心ガッツポーズしつつも、私はほっとして父様に縋りつく。

 怖かった。本気で気絶するかと思った。

 ぷるぷる震える私を抱きしめて、頬ずりする父様にも今日だけは怒らないよ。



「ああもう!なんって可愛いこと言うんだリリ!!それに私がリリアナの顔忘れる訳ないだろう!」

 父様は私の言葉に感動したのか私をぎゅうぎゅう抱きしめて言う。

「そうよリリアナ。お父様は貴方が大好きなのよ?だから心配しなくても大丈夫よ」

 母様も微笑ましそうに私の頭を撫でながらも、お父様からのせっかくのプレゼントなのだから、と余計な一言を言う。

「でも……(こっちが大丈夫じゃないのー!!父様断らないで!)」

 父様を見るとうんうんと頷いている。


(だめだ。このままでは押し切られる!父様お願いだからうんと言って!!)

 リリアナは演技ではなく若干涙眼のまま顔上げ、父を見上げる。


「父様はやっぱり、リリのお人形と一緒はや?」

「そんな事はない!リリがいいのなら、私の執務室に飾るよ。…でも本当にいいのかい?」

「いっちょがいいでしゅ!」

 重ねて問う父様に間髪入れずに答えるリリアナ。

 あまりにも必死で言ったために舌を噛んだけど気にしない。

(絶対に絶対にこんなものいらないの!!)


「そうかぁ父様と一緒がいいかぁ」

 にまにまと締まりのないない顔でリリアナの言葉を反芻する父様。


「でもそれじゃあリリーのお土産が…」

「そうよね。せっかくトーマスが見つけたのに」

 リリアナの喜ぶ顔が見たかったのに、それが父親の手に渡るのが気に入らないとばかりに不満を零す兄様と、それに同意する母様。


 そんな事はどうでもいいんです!むしろいらないんです!!とは言えないので、困った顔をするしかない私。


「では私達の人形を注文するか?頼めば時間は掛かるが作ってくれるそうだぞ」

「それはいいでしゅ!」

 名案だ!と顔を輝して宣言する父様に間髪入れず断るリリアナ。

(冗談じゃない!一体でも鳥肌ものなのに、四体に増えるなんて拷問だよ!!)


「りりー?」

 そんな私に不思議そうに首を傾ける父様。


「だ、だって…ほんものの父様達のほうがいいもん!お人形さんより父様お仕事がんばってはやく帰ってきてくだしゃい!!」

「そうかそうか。本物がいいか。じゃあ父様頑張って早く帰ってくるよ」


 その日始終ご機嫌な父様に私はべったりとくっついていた。



 とりあえず父様達を傷つける事なく、私は人形も回避でき安心してその日眠りについたのだが。


 その日の深夜。

 目を覚ましたリリアナは、横で一緒に寝ていたリリー人形(父様命名)に吃驚してベッドから落ち、パニックになって母様の部屋に行こうとして防犯用の罠に嵌り盛大に泣き喚いた。

 お揃いの服が出来るまで持たせてあげようと、いらぬ気を利かせ人形を置いたであろう父様は、心の底から私に「父様のばかばか大嫌い!」と言われへこんだ上、私の人形嫌いも皆に知られる事になったのだった。






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