5 敵は王妃様でした。
「「ただいまリリ!!」」
父様と兄様が帰ってきました。
そんな今朝のことを忘れたかのような父と兄に、私は報復をしようと思います。
つーん(無視です)
「……あの、」
つんつーん(聞こえない聞こえなーい)
「り、リリちゃん??」
つんつんつーーーん(あー今夜のおかずなにかなーと。)
.
「…あなた……っ」
そんな私の姿を見て耐えられなくなったのか、父様にしがみつきわっと泣き出す母様。
「マリア!一体どうしたんだ?」
「リリちゃんがっ…リリちゃんがぁーーー」
「母様リリアナがどうしたんですか?」
「あれから私と一言も口を聞いてくれないのっ」
「「え?!!」
そうなのだ。
私は一度言った事は守るのだ!(えへん)
公言した通り母様とはあれから一度もしゃべってない。(メイド達とだけ仲良くおしゃべりしましたよ。)
「リリ?」
「リリアナ?」
ぷーいと踵を返そうとしたら、後ろから声をかけられました。
「お嬢さーん」
「なあに?ゆりうしゅさんww」
にこにこにーーっこり。
「いやあのね、お嬢…俺に死ねっていうんですか?」
(後ろからのギラギラとした殺気が怖いんですが)
「なんでー?」
にこにこ。
「ひっ!ちょ!お嬢!!」
後ろから刺さる冷たい視線にユリウスさんは震え上がる。
でもそれがなんなのさ!私は怒っているのだ!
「えーーー。だって決めたんだもん」
「な、なにをです?」
「リリね。父様と母様と兄様ともう一生口きかないのww」
顔を引きつらせながら聞いてくるユリウスさんに超スペシャル笑顔で答えます。
「「「リリ----------っ」」」
もう死にそうな両親'S
逆ににこやかな私。
「ええと、……そういやなんでそんな事になったんです?」
「リリね。お外でちゃだめなんだって。でもリリお外でたいの。お城もみたかったの」
「あ----…なるほど」
「兄様はさいしょ、ゆりうしゅしゃんと一緒に行けばいいよって言ってくれてたのに、父様たちの味方になったの。うらぎりものなの。だからね?そん ないじわる言う父様達キライだからいっしょにいるの嫌なの」
その言葉を聞いた兄様は
「父様!リリの外出を認めてください!」
「トーマス…」
「外が危ないなら護衛を付ければ済むことです!父上が一声欠ければユリウ スさんだって付いてくれるはずです!」
「え?なんで俺??」
初耳だろう。ユリウスさんが素っ頓狂な声を上げる。
ユリウスさん、兄様の中では半ば決まってたよ。元々駄目だった時は付いてきてもらうって言ってたし。
「僕はもうこれ以上リリに嫌われたくありません!!」
(うわ、泣いてる…兄様が泣いてるよ)
ちっちゃい子の『キライ』は、口癖のようなものでしょ?思い通りにならなきゃ使う言葉ナンバーワンだよね??
ここまで効果があると……兄様、シスコンすぎるよ。
だがしかし、父様は搾り出すような声で「駄目だ」の一言。
「!!ですが、父様…!」
尚も言い募ろうとする兄様についに耐え切れなくなったのか、父様が爆発した。
「リリーに何かあったらどうするんだ!」
ふへ?
「こんなにこんなにこーんーなーにー!ちっちゃくて綺麗でで可愛くて食べたいくらいなリリーが王都に行ったら老若男女ありとあらゆる人間に舐めるように見られたり触られたり悪い虫が付いたりするに決まっている!絶対に 駄目だ!!」
なんですか、その親ばかっぷりは。というか父様、今の台詞一息で言いましたね。
ぽかーんとなる私を置いていき、まだまだ私の可愛さっぷりを叫んでます。
……もしかして、それが理由ですか??
「ただでさえ王オルフェス様や王妃様を筆頭に、連れて来い顔を見せろと言われるのを何度断ってる思ってるんだ!いいかトーマス!あの人達がリリーを一目でも見ようものなら、二度とリリアナは家に帰って来れなくなるぞ!!」
「まさか、そんな…」
ほんとだよ父様。どんだけ親ばかなの??!!
「いいや、王妃様は特に要注意なんだ!女の子が欲しかったのに生まれてきた子は三人とも男。三男のノーラ様はまだ一歳なのをいい事に着せ替え人形となっているんだぞ」
なにしちゃってんの王妃様!!
第三王子かわいそう…子供時代に女装なんて…大人になってからのトラウマ第一位だよ!
「だ、だからといって、リリーがどうして家に帰ってこれなくなるんです?」
「それはな、……王妃様は大の綺麗なもの可愛いもの好きなのだ」
「はあ…」
「わからぬか…わからぬであろうな」
「本当にあの時は大変だったものねぇ…」
「「母様?」」
なにやら遠い目をしてしみじみと語る両親に、私と兄様は揃って首を右に傾ける。
やがて疲れたように肩を落とした父様は、しぶしぶ語り始めた。
「お前達の母、マリアは王妃様の大のお気に入りだったんだ。銀色の髪に見事なブルーサファイアの瞳、佇む姿は儚げでな。王妃様の希望で侍女としてほどんど無理矢理ねじ込まれて王宮へあがったのだ」
「そうよ。私が身に付けるものじはどれもミスティア様が選ばれたものだっ たわ。高価なネックレスやドレス、髪飾りや持ち歩くものまでね」
なにそれ怖い!!
等身大着せ替え人形ってことですか?!!
「元々ミスティア様には妹が生まれるはずだったんだけど、お気の毒なことに事故でお亡くなりになってしまったの。生まれたらずっと一緒に色々な事をしてあげたい!って夢見てた反動だから、私を含めて皆ミスティア様の好きなようにさせてたのよ」
「だから私がマリアに求婚した時は大変だったな」
「ええ。あなたが領地を賜った後でしたから、特にマリアが自分の側から離れるのは許せないって…」
父様はそれこそげっそりとした顔で肩を落とす。
ははぁ…言いたくない程の事があったのね。
でも私は母様ほど綺麗じゃないから大丈夫じゃないかなぁ。それに父様親ばかだしイマイチ信用できないよ。
「とにかく今はまだ駄目だ。私もリリと一緒に出かけたいし、全国民に見せ びらかしたい気もするが、そうすると絶対王妃様が黙ってはいない」
「リリちゃん。私達も辛いのよ。一緒にショッピングしたり王都の美味しい カフェで一緒にお茶したりしたいのずっと我慢してるのよ!」
「けれど母様、リリが泣いて嫌がっても王妃様は実力行使に訴えるんですか ?」
兄様が躊躇いがちに口を挟めば母様は深く嘆息した。
「いいえ、そこまでは…お菓子や玩具でも靡かないとすれば、ちゃんと帰してはもらえると思うわ。でもリリを見た瞬間に王子達誰かの婚約者にさせられる事は間違いないわ。となると定期的に王城に通わされ、いつのまにか部 屋が整えられ、リリが大きくなるにつれ身分制度も理解するでしょう?もし その上で懇願(という名の脅迫)されたら逆らうことはできないでしょうね… 」
なにそれ!!私の人生勝手に決めないで!!
王子様なんて興味の「き」の字もないよ!!
「まあ今でも、出会う場所を作れと打診されてますからねぇ」
「「ええ!?」」
兄様と私が揃って声を上げると、ユリウスさんはわかってませんね、と呟き
「お嬢さんの姿は直に見なくても奥様達から想像はつくでしょう?宰相である兄もせっつかれてますよ。ですから打開策として、リリアナ様は王都では病弱って事になってます」
「???りり元気よ?」
「わかってます。でも世間ではお嬢さんは病弱で、領地から出れば命に関わるので、マリア様共々王城に出向けない事になっているんです」
「そうでもしないと、リリアナとマリアは王妃様に取られる事になるからな、止む無くだ」
父様の言葉に皆無言になる。その沈黙を破ったのは母様だった。
「でもね、トーマスやリリちゃんが退屈しないように、お兄様がこの家をからくり屋敷にしてくれたのよ!リリちゃんあと少しだけ、そうね学園に通えるようになるまではお家にいてくれないかしら」
それって全然少しじゃない!!
学園に通えるのは八歳から。あと三年半もあるじゃないか!!
思わず一縷の望みをかけて、私はユリウスさんを縋るように見つめるが。
「期待してるとこ悪いですが、諦めた方がいいですよ」
「でもゆりうしゅさんとなら、こっそり行っても私が父様達の子供だってわからないんじゃ…」
「お嬢さんの姿を見れば誰でもわかりますよ。銀色の髪の人間はマリアさま…ウェラード家のみ受け継がれてますからね。そしてヨーク様には女の子供はいない。となればバレるのは一瞬ですよ」
なんと!
この髪の色ってそんな少ないのか…
そうなるとここらへんが父様達の譲歩なんだろうなぁ。これ以上は無理かぁ。
「わかりまちた…」
がくりと肩を落とす私に母様は「ごめんね」とぎゅうぎゅう抱きついてきた。
「口聞かないなんてもう言わないよね?」
「あい。ごめんなしゃい兄様」
「「「リリーー」」」
素直に謝ると、兄様と父様も抱きついてきた。苦しいよ!
「しかし今の会話を理解できてるんですか…」
わあわあ騒ぐ家族達にやりすぎたか、と暢気に考えていた私は、そんな中ユリウスさんが呟いた事に気が付かなかった。