8 【探検とご褒美】 2
お待たせしました。
四月は仕事に追われてPCに触ることさえできませんでした。
今後ものろのろ更新になります。
今日も朝から第二師団の訓練所では、カンカンと木刀の打ち合う音が聞こえてくる。
打ち合っているのは我らが隊長ことレオリア=マスカレードとそこの隊員達だ。
「そこ!右に重点が傾いているぞ!打ち込みが甘い!」
「はい!!」
「スカー!しっかり相手を見ろ!それじゃあ狙ってくれと言っているものだ」
「わかってますって」
「新入り相手に手間取るならいつでも挿げ替えるぞ」
「じょおだん」
レオリアは新入り二人を相手にしながら、周囲の者の動きを捉えていた。
次々と入れ代わる相手の剣を見極つつ、指導を続ける姿に「「一体どんな目をしているんだ?!」」と思わずにいられない。
「隊長容赦ねぇなー」
「ああ。でも隊長調子でも悪いのか?なんかこう動きがにぶくない?」
「うん?…そうかぁ?」
「いつもはもっとこう、余裕があるっていうか隙がないっていうか」
「うーーん。言われてみれば」
稽古場で次々と隊員を打ちのめしている隊長ことレオリアは、いつもの様子とどこか違っていた。
淡々と稽古をつけているように見えるが、立っているだけで圧倒される威圧感はなりを潜め、そこはかとなく精彩を欠いている。
そこにひょっこりと副隊長のユリウスが顔を出した。
「副隊長遅刻っスよ」
「サボりですかー」
隊員達からの野次に「んなわけないでしょ」と、ひらひらと手を振りつつ答えると、ユリウスはレオリアに向かって声をかけた。
「隊長ー。ちょっといいですか?」
その声にレオリアはちらりとユリウスに目を向けると、次の瞬間には稽古をつけていた相手の剣が宙を舞っていた。
(いつの間に!!)
呆然とする新入り二人に対しレオリアはこんな事は何でもないというように涼しい顔だ。
「お前達今度は二人組で打ち込み開始。先ほど私が言った事に気をつけながらやってみろ」
「「はい!!」」
ありがとうございました!の声を背に、レオリアはユリウスを伴い稽古場から執務室へと向かう。
隊員達の声が聞こえなくなったところで、レオリアは徐に口を開いた。
「申請は通ったのか?」
「ええ、ええ。通しましたよ!あちこちから泣きつかれつつもね!」
「おお。そうか。」
ほくほくと顔を綻ばせたレオリアは、ユリウスの嫌味も聞こえていないようだ。
事の始まりは、二日ほど遡る。
「――はあ…今日もリリアナは口をきいてくれなかった…」
ここの所リリアナから笑顔もおはようのキスも抱っこも全て拒否られているレオリアは、日に日に生気がなくなってきていた。
隊長の愛娘大好きっぷりは隊員誰もが知っていたので一日、二日はいつもの事だと思ったが、こうも長引くと鬱陶し…心配になってくる。
元々無口で表情も硬く取っ付き難いと言われていたレオリアだが、ここま変わると誰が予想出来ただろう。
「悪気はなかったんだ。ただリリーとそっくりな人形が一緒に眠ってたらものすごく可愛くて…それに自分を忘れないでねと、涙眼で私に大事に抱えた人形を渡す娘が愛しくて……せめて数日は人形と一緒にいればいいと思っただけだったんだ…」
「はいはい。もう聞き飽きましたよー。そんな事よりこっちの仕事もしてくださいよー。ストレス発散でもいいですから、ほら皆待ってますよー」
「そんな事だと?!」
「だって仕方ないでしょー。お嬢が夜中に目が覚めて真っ先に見たのが自分そっくりな人形で、しかも月に照らされてぼんやりと浮かび上がって見えて怯えちゃうなんて、誰も予測ませんよ」
「うっ…」
「隊長に悪気が会ったとはお嬢も思ってやしませんって。隊長の事もそこまで怒ってはいませんよきっと」
「だけど今日で三日だぞ?」
「……お嬢もちょっと意地になってるだけですって。きっかけさえあれば仲直りできますよ」
「………」
本当に、と肩を落とすレオリアの腕に抱かれているのは、その原因となった人形である。
隊長が人形と一緒にいる姿に、周囲はドン引きだったが、今では生温い目でみている。
曰く、ああ、隊長も普通の人間だったんだな、と。
日頃から寡黙で真面目なレオリアは、騎士としても実力に溢れ、以前王の近衛だった事に加えても、領地を賜るような功績を残しており、同じ平民達から見れば憧れそのものである。
落ち込むレオリアを見かねたユリウスは、毎度あの手この手でやる気が出る事を言ったり、「もっとお嬢に嫌われますよ」と言って脅したりしていたのだが、辛気臭い溜息を量産するだけで、一向に改善されなかった。
(見ているこっちまで気持ちが落ちるっての!このままでは部屋にカビが生えるのも時間の問題だ!)
そうして本日とうとうユリウスはキレた。
「ああもう!わかりました!今日から一週間休暇をもぎ取ってきます!」
「ユリウス?」
「どうせその様子じゃ、領地の方も仕事が滞ってそうだし、それ位の間なら隊長のフォローは任せてください!」
「そうですよ隊長!俺らも我慢します!」
すると、話を盗み聞きしていた隊員達もそこかしこから口を挟んできた。
「市内の見回りも訓練も頑張りますから!」
「子供なんておもちゃを与えて一緒に遊べば、すぐに機嫌が直りますって!」
「おお!そうだそうだー」「土産にアクセサリーとかどうです?」「ばか相手は五歳くらいだろ!甘いものとかの方がいいっすよ」
わいわいと盛り上がる隊員達にあっけに取られる
どうやら隊員達もいつもと違ってやつれていくレオリアの姿に、隊員達も気を使っているようだ。
「お前達……」
「ただし一週間後にはちゃんといつもの隊長に戻って来て下さいよ!」
「……ありがとう」
ふわりとやわらかく微笑んだレオリアに、隊員達の心の声は声は一つだった。
(((付いて行きますぜアニキ!!)))
そんな隊員たちを見つめるユリウスは重く長い溜息をつく。
勿論この忙しい中隊長がいないだけでモチベーションが半分になる隊員達の事を考えれば、隊長がいない間は業務が進まなくなるに決まっている。
正直この休暇は無茶だ!
俺が無休であの団長の相手をすると考えただけで嫌気がさす。
だけどユリウスがこんな事を言い出したのは理由がある。
そう。レオリアを迎えに行ったその日。彼に言われたからだ。
「最近少し鈍ってきているようですね。ここらへんで鍛え直していただきましょうか」と。
彼に逆らえるものなんているのだろうか…いや、無理だ。
普段は見せない笑顔をふりまく隊長の姿が帰った後どうなるかと思い浮かべ、ユリウスは少し溜飲を下げる。
「せいぜい休暇をエンジョイしてください。…休暇になれれば、ですけど」




