7 【探検とご褒美】 1
おはようございます。リリアナです。
今日はお部屋探検を始めたいと思います。
何度か言いましたが、我がマスカレード家はからくり屋敷なのだ。
まず、一人で家の中を歩き回ることを禁じられている。
私も昼間はともかく夜は、自分の部屋の向かいにある兄様の部屋にしか一人では行けない。
何故なら私の部屋の周辺には特に罠が多いんだって。
主に作動するのは伯父様特製の魔術を組み込んだ魔石と、忍者屋敷的な工具を使った罠である。
先日パニックになり母様達の部屋に行こうとして、すっぽり罠に嵌ったのは忘れられないよ。
床が抜けて網の中で中吊りになった時の恐怖は言葉では表せられない。
しかもゆうに二メートルは高さがあるし、網が身体に巻きついてるから痛いし、真っ暗で怖いし、あんなに大泣きしたのは多分初めてだよ。
兄様が泣き声に気付いて駆けつけてくれなければ、いつまでもあのままだったかと思うと、震えがくるね。(兄様ありがとう)
それもこれもあんな所(ベッドの中)に人形を置いた父様のせいだ!
寝返り打った拍子に、なんか硬いものに顔をぶつけたと思って目を開けた瞬間に、人形の顔が目の前にあってごらんなさい、誰でも怖いと思うよ!
父様は今日から家で溜まった仕事するとか言ってたけど、絶対にしばらくの間は口聞かないんだからね!
ところで、なんでこんなからくり屋敷を作ったのかというと、伯父様曰く
『お家に来るのは泥棒だけではないんだ。昔からマリアを一目見たいと忍び込むというストーカー達が多くてね。しかもレオリアの熱狂的ファンからの嫌がらせ的な贈り物が物騒で――結婚前なんて私がいない隙にと、マリアに一夜のお誘いを仕掛けてレオリアと別れさせようと、見目のいい男を送り込んできたりね…ああ。もちろんガレルに返り討ちされて成功しなかったから安心してくれ』
と、にこやかに物騒な話をした伯父様は、どうせ家を建てるならついでとばかりに、それに便乗して「面白さを追求したよ!」と、爽やかな笑顔で言い放っていたとか。
……伯父様だけは敵には回したくないね!
さてさて。父様と母様のお部屋は二階の西側突き当たりにあります。
いつもキャリーと一緒に朝の挨拶をしに、母様の所へ行くので、今まで何事もなかったんだけど、実は昼間も罠は仕掛けられてるのだ。一応私の体重や身長では引っ掛からないように設定しているらしい。
この間みたいに、罠にはまるとか二度目がないとは限らないからね。必死で覚えますよ!
でも、からくり自体はどこで作動するか慣れれば覚えられると思うけど、魔術を使った罠はどうやって回避するのか判らない。
兄様は『気配で判るよ』と言うけど私にはさっぱりです。
とにかく自分の家の中くらいは一人で歩き回れるようにならないとね!今日は中でも分かりやすく設定してるみたいだから、がんばるよ!!
「おはようございます母様!」
「おはようリリー。今日は動きやすい格好ね。ふふふトーマスのお下がりかしら?」
部屋に入ると、母様が私のほっぺたにキスをしながら笑って言います。
(ん?この服フツーにキャリーが出してくれたから、ズボンもあるんだ!って喜んで着たんだけど兄様のなの?!)
「キャリー!これ兄様の服なのー?」
「はいそうですよ。トーマス様が今日は一緒にいられませんから、もしお嬢様が転ばれても怪我をしないようにとわざわざ用意してくれたのですよ」
「兄様が?!」
(うわー。さすが兄様!大好きだ!!)
リリアナがキャリーに訪ねていると、母様は懐かしそうに兄様の服を着た私を見る。この服を着ていた兄様を思い浮かべているんだろう。
今日の私は紺色のブラウスに黒のパンツ姿です。流石にズボンは今まで穿かせてくれなかったので嬉しい。
瑠璃の時はよく穿いていたのよね。スカートよりパンツ。特にデニムのジーンズが大好きだった。
私服でスカートって履いたのデートの時くらいだったなー。
しかも徹が買ってくれた物はミニスカが多かった。
「綺麗な足してるんだからもっと出せ!」とか言っておいて、デート中にちらちら周囲の人から見られると不機嫌になったりしてたっけ。
理不尽だよね!
「リリー?」
は!いかんいかん。
ふとした瞬間にこうやって徹の事を思い出しちゃうんだよね。引きずられちゃだめだめ!今の私は瑠璃じゃない、リリアナなんだから!
「母様この服もらってもいいー?」
私は俯いてた顔を上げ、母様ににっこり笑って言うと、母様も頬を綻ばせる。
「あらあら。気に入ったの?」
「はい!動きやすくて好き!それに兄様とおそろいだから嬉しーの!」
「まあ!だったらこれからはズボンも仕立てちゃおうかしら」
「ほんとう?!」
(おおお!言ってみるもんだ!もしかしたら変装グッズゲットかも!!)
「いいですね奥様!この服も可愛いですがちょっと大きいし、シンプルすぎると思ってたんです!リリアナ様だったら、こう襟ぐりや袖口にフリルを付けたりしたらどうですか?」
「あら、それならブラウスの色も薄いピンクとかオレンジなんかもいいですね」
「ええー!ブラウスの色は白にして黒いベストを付けて旦那様とお揃いとかどうです?」
「きゃーーーー!!その意見採用よ!!」
いつのまにかキャリーに加え、母様に控えていたメイド長のシエンまで一緒になって盛り上がっちゃったよ。
フリルが付いたらそれもう変装グッズじゃなくなってきてるし…!
「リリーはどんなのが良いかしら?午後から仕立て屋を呼ぶから一緒に選びましょう」
「母様!リリは兄様とお揃いがいーなぁ」
「駄目よ。リリは女の子なんだから、可愛くしないと!」
「そうですよお嬢様!」
「奥様。今から使いを出しますね。すぐに来てもらいましょう。」
(だ、駄目だ母達がその気になってる!服は魅力的だけど、今日はお部屋探険がやりたい!!)
「は、母様~。今日は探険するからお着替え今度じゃダメ?」
「ええ?」
私の言葉に思い出したのか、シエンがそうえば…と、呟く。
「そうえば奥様、今日はガレルも罠を仕掛けるのを張り切ってましたから、探険しなかったらガッカリします。ここは私どもの希望をある程度形にしてから仕立て屋を呼ぶ事にしませんか?」
「そうねぇ…そうしましょうか」
シアンの言葉に、母様はしぶしぶ諦めてくれた。
「ありがとう母様!」
(良かった!ありがとうガレル!ガレルが張り切ってくれたおかげだよ!……て、うん?)
…ガレルが張り切って仕掛けた罠って……嫌な予感しかしないんだけど……




