幕間 【執事の領分】
またもや幕間です。
ガレルが有能な執事とわかった所で次回は本編へと続きます。
連続投稿が続いたので、次話はまた時間がかかります。
皆様。突然ですが本日は少し私の話にお付き合いいただけますか?
失礼しました。私、マスカレード家の執事を勤めておりますガレルと申します。
私は代々マリアお嬢様の兄ヨーク様のいるウェラード家の執事としてお仕えしておりました。
後二、三年もすれば息子に後を任せて隠居しようかと思っていた矢先に、マリアお嬢様がマスカレード家に嫁ぎ、また騎士であるレオリア様が爵位をお持ちになられ、領地の管理まで必要との事で、ヨーク様からマスカレード家を支えるよう直々にお願いされたのです。
ヨーク様には私の息子が変わりに付く訳ですが、幼い頃から色々と仕込んだおかげで、それなりに任せられるようになったとはいえ、目の届かない所に行くとなりますと…全く不安にならないと言えば嘘になります。
けれどマリアお嬢様の為ならば、そんな事は言ってられません。
困ったことがあれば真っ先に知らせるよう息子に言い聞かせると、私は妻と共にマスカレード家にやってまいりました。
マリアお嬢様はやはり一人で新たな生活を始めるのは不安だったのでしょう。私どもが来たことを飛び上がってお喜びくださり、家族の一員として過ごす様にとおしゃいました。
この言葉に私どもはお嬢様をお守りすることを改めて誓いました。
しかしご結婚されてからどうも、王城からの呼び出しが多く、旦那様はマリアお嬢様とのお時間がなかなか取られない様子。
何をやっているのかと思えば、王都にいる者達が旦那様を引き留めているらしく、一月たっても状況は改善されません。それどころか領主の仕事は貯まる一方なので、私は王様にお手紙を出す事に致しました。
するとむこう三ヶ月は王都に行かなくても良いとお返事をいただきました。
流石は王様です。お優しい事ですね。(にっこり)
狐に包まれたような顔をしながら帰還した旦那様にそうお伝えしますと、旦那様は若干ひきつった顔でありがとうと言われました。
いえいえ。これくらいの事で礼は必要ありません。
そんな私のこの判断は間違っていませんでした。
旦那様とマリア様はそれはもう仲睦まじく、私どもは毎日目のやり場に困るほどでした。
すかした顔をして旦那様は情熱的と申しますか、それ程好きならマリアお嬢様をさっさと口説くなりなんなりすればよかったでしょうに。
いえ、あの三年間のお嬢様の片思い期間を考えると少しだけ腹ただしいのです。また巧妙にヨーク様がお嬢様の恋心を旦那様に気付かれないよう操作していたので、仕方がないとは思いますが…まさかお嬢様が告白するまで気付かないとは思いませんでした。旦那様の鈍さには呆れます。
え?何故そんな事を私が知っているかですって?
私に知らない事はありませんよ。執事ですから(にっこり)。
お嬢様…いえ、もう奥様と言うべきですね。
奥様はトーマス様を身ごもると、母としての自覚が出てきたせいか、可愛らしい表情がお腹を撫でる姿すらそれはそれは美しく、自愛に満ちた表情は旦那様を夢中にさせるだけではなく、出先で新たなファンを持つようになり、新たな侵入者対策にも力を入れなければなりませんでした。
ええ。もちろん私も魔術を嗜んでおります。
旦那様とヨーク様のお力添えもあり、防犯面では国内一を自負しております。
しかしトーマス様がお生まれになって三年目、旦那様は領主になって一番の危機に差し掛かっておりました。
この年は雨季が長く、収穫物の不足や崖崩れなどの災害と領地の被害が多く、病人の増加、民達に十分な宿や食料が行き渡らない状況だったのです。
旦那様は領主の館の一部を提供する事に決め、館の一階部分をすぐさま改装し(…あれは物置小屋に備品を放り込んだだけとも言いますね)、民を受け入れました。その決断には私も驚きを隠せませんでした。悪さをする人間はどこにでもいるものです。また、家を失った者が我々に危害を加えない保証はどこにもないからです。
さすがに苦言をこぼす私達に、旦那様は「ガレル。君がいて我が家に何か起こるなんて心配はしていないよ」と私に向かって言ったのです。
奥様も「領民は家族同然とお父様もお兄様も言っていたわ。私達に出来る事は彼等を生かす事でしょう?」とおっしゃられ、奥様は産後にも関わらず、病人の看病や料理作りに紛争しました。
私は、疑いの目でしか見れない自分が恥ずかしく、しかし旦那様は私を信じているのです。私がいるから警備面で安心であると。
ならば私はその期待に応えるだけです。私は旦那様があれだけ慕われる理由がようやく解りました。
そしてそんな領主の姿に、はじめは若く頼りにならない坊ちゃんが来た、何ができるんだ?と思っていた民達が、旦那様を認め誇らしく思いだすのに時間は掛かりませんでした。
元々この地を任されていた前領主は、民達からありえない税金を搾取し、そしてまともに治世を行わず、女を侍らせ、それは長きに渡り続いておりました。
それに気付いた王の影の活躍により領主は粛清されたのですが、民達の領主に対する信頼などゼロに等しかったのです。
それが、流石はあの騎士様だと声高々に言う彼らに、私も目頭が熱くなりました。
それは旦那様が認められた瞬間でした。
またそれを裏付けるように、王や旦那様を慕う王城の方々からも大変多くの助けを頂きました。
隊長の親衛隊と名乗る者から物資の調達、はては魔術師団の方々が病人の治療や道の舗装が次々と整えられ、驚くほどの速さで街は蘇りました。
しかし、街の復興に約三年。ようやく一息つけるようになった頃、旦那様との時間をあまり多く取られなかったせいもあるでしょう。気付いた時にはトーマス様は、旦那様にほんの僅かですが遠慮と言うものを持つようになっていました。
「英雄なのだから、僕だけの父様じゃないから」そんな気持ちがあったのだと思います。
私どももその事に気付きながらも、どうすれば良いかわかりませんでした。
また、旦那様も悩みながらも、トーマス様に剣の稽古と称しては一緒の時間を増やすなど、ゆっくりとトーマス様との関係を修復しようと頑張っておいででした。
ですが、トーマス様が学園に入ると同時に、奥様がリリアナ様を見ごもると共に、旦那様は奥様に付きっきりとなり、またしても旦那様達とトーマス様に距離が出来てしまいました。
お医者様から、お子様を身ごもってから奥様の体調が思わしくないと聞かされていたので、仕方がなかったと思います。ですがこう、どうして旦那様はあと一言が足りないのでしょう。
トーマス様は諦めと共に、どこか冷めた目をする子供になっていったのです。
これは親の愛情が足りないと感じての事に違いありません。ですが私どもがどれだけ言葉を重ねようと、トーマス様がそれを信じない事にはどうしようもありません。
そんな中、リリアナ様がお生まれになったのです。
その日天使が生まれてきました。
リリアナ様は大変愛らしいお顔立ちでした。私どもも見ているだけで思わず笑顔になる程です。
……ですが、それもリリアナ様が眠っている時だけでした。
何故か起きている間ずっと、リリアナ様は泣いて、泣いて、泣いて。
トーマス様がぐずらずよく眠る子供だっただけに、リリアナ様の様子は異常だと思われました。
奥様が魔力のせいかもしれないと、兄であるヨーク様に連絡を取られました。
生まれたての子供は自分の魔力が毒になる事があります。その魔力に惹かれて悪しき者が近づく事もあるのです。
正直私は、リリアナ様の魔力量はそこまで大きいとは思いませんでした。生まれたての子供の魔力はそれほど前面に出てこないからです。しかし魔術を使うのは私も得意ではありますが、そういった魔力量等を見る力を計るのはできないので、ヨーク様が早く来られるようお手伝いする事にしました。
今ではこのアスラン王国魔術師団のトップであるヨーク様は、事前に何か感じていたのでしょうか。手ずから純度の強い宝石で魔石を造り、魔封じの腕輪を持ってやってきました。
そうして腕輪を付け様子を見る事にしました。
ヨーク様はリリアナ様を見た瞬間大喜びした為に、リリアナ様が目を覚ましてしまいました。
うええんと弱弱しく泣き出したリリアナ様を見てレオリア様はヨーク様に怒り、マリア様はおろおろとしております。
私も久々にヨーク様にお仕置きしないといけませんねぇ…と考えていたその時、今までリリアナ様を遠くから見ているだけだったトーマス様が動いたのです。
ーまるでその弱い声に誘われるようにー
リリアナ様が生まれてから、トーマス様は奥様や旦那様を遠巻きに見ているだけでした。
そのトーマス様がリリアナ様に近寄り、一言、二言声をかけると何かを感じたのでしょうか、リリアナ様が笑ったのです!!
その後、喜びのあまり大声を出した旦那様とヨーク様にトーマス様が怒り、リリアナ様を宥める姿はまさに、天使が二人舞い降りた瞬間でした。
今では奥様もメイド達も勿論私もめろめろでございます。
リリアナ様が生まれてから、より一層家族の絆が深まったと思います。
いつしかトーマス様も旦那様に遠慮なくお話したり、突っかかったりする様になり、以前のよそよそしさは何だったのかと思う程、毎日仲良しで微笑ましいばかりです。
それもこれもリリアナ様のおかげですね。
あれから四年と幾ばくか過ぎ、リリアナ様はトーマス様と比べると、少しばかり聞き分けが良すぎる気がします。いつか魔力が暴走しそうで、少しばかりそこが心配です。
現在屋敷に閉じ込める形になってますが、会う人間が増えると巻き込まれる人間が増えてしまいますからね。いつまで王妃様の名で、リリアナ様の外出を留められるかわかりませんし。
ここはヨーク様と話して何か対策を考えなければなりませんね。
ですからもう少し我慢して下さいねお嬢様。何を企んでいるのかは知りませんが、このガレルの目の黒い内は危険な事は出来ませんよ。
どんな手を使っても、ね。
さて、そうと決まればセキュリティ強化をしませんと。
今日は誰が捕まりますかね。泥棒か、はたまた王の子飼いか……
このガレルがいる限りマスカレード家に有害なものは蟻一匹入れませんよ。
それでも入るおつもりでしたら、皆様覚悟しておいて下さいね?
詰め込みすぎた気がします。
読みにくかったらすみません(汗)