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幕間 【ユリウスの災難】後編

纏まりが悪い気がしますが投稿します。


色々大人の事情があるわけです。

ユリウスは実は一番の苦労人


 

 ユリウス=ブラウニー。彼には副隊長の仕事以外に王城ではもう一つ特務仕事がある。

 それは…



「ユリウス今週の報告書はどうした?」

「そこにありますよ。兄さん」

「業務報告書ではない!特務の方だ」

「あーーーー…まだです」

「なに」


 三つ年上の俺の長兄の名はマリウス。父親に似て三白眼なのでぎろりと睨まれると妙に迫力がある。

 普通に目を合わすだけで、睨まれていると勘違いされるという兄は、仕事としては部下に舐められないのでいいが、女性には敬遠される人なのだ。気の毒に。

 俺?俺は母似で兄とタイプは全然違う。糸のような目で開いてるのかよく見ないと判らない。ふつうにしてても笑っていると思われてよく祖父に怒鳴られてたっけ。

 まあ女性受けはいいのだが、正直王都にいる令嬢は皆ぎらぎらしていて苦手なので、手は出さないことにしている。


(ああどこかにマリア様のような、癒しの人はいないものか…)

 遠い目をする俺に構わず、兄は今日もまた無茶振りをしてくる。


「今週のリリアナ嬢の様子を早く書面に纏めろ。ああ、ついでにキッカルに最近の姿絵を描かせろ。あいつはそういうの得意だろう?」

「無茶言わないでくださいよ。キッカルは絵師ではなく騎士ですよ。ただでさえ城下で最近小競り合いが多くて人手が足りてないのに。その上今日も隊長はさっさと帰る気なんですよ!皺寄せは全部こっちに来るっていうのに!」


 唸るユリウスに、マリウスは読んでた報告書から顔を上げ、ユリウスに問いかける。


「……またリリアナ嬢の具合が悪いのか?」

「そうですよ(嘘だけど)。今朝も出かけに(隊長が)泣いて大変でした。ですから今日も隊長は魔術院の転移門から直接帰る予定です」


「はぁ。仕方がないな…あまり転移門を使われると狸達が煩いのだが…」



 転移門とは、魔術師団の幹部達が腕によりをかけてレオリア様の為に作ったという片道ゲートだ。

 それは試作と銘打ち、魔術師団の塔からレオリア様の領地へと繋いだもので、その名の通り魔術師団の一室からレオリア様の領地へと瞬時に移動できるという代物だ。

 しかも使用できる者はレオリア様と家族だけに設定するという徹底ぶり。

 一応連れとしてあと二人は連れて行く事ができるのだが、あくまで利用できるのはレオリア様である。


 しかも一方通行なのでレオリア様が帰宅する時にのみ使われる。

 王城からレオリア様の領地にはどれだけ急いだとしても馬車で三刻以上かかるので、えっちらおっちら帰る者達からすればずるいとしか言いようがない。


「リリアナ嬢もこう寝込んでばかりではつまらないだろうな。王都では優秀な医者もいるし、こちらに来た方がよいのではないか?」


 リリアナ病弱説を信じきっている兄には悪いけど、そんな事ができるわけがない。なので、今日もユリウスは残念な顔に見えるよう心がけながら、マリウスに言葉を返す。


「そうしたい所ですけどねぇ。王都のように、こう人が多いと空気も悪いし身体によくないって医者も言ってましたし。療養するなら王都よりも領地の方がいいと思いますよ」

「……」

「それに隊長が許すはずないでしょうが。王宮内にあるお嬢への好奇心あふれた視線の多さや、不穏な空気を誰よりも肌で感じているはずだし」


「そうか…そうだな」


 続けて言うとマリウスも納得したのか溜息をつく。


 そりゃあお嬢がこっちに来れば、王妃様からの突き上げも隊長の脱走もなくなるんだろうけど。

 兄が苦労するのは解っているが、俺はマリア様の味方である。

 はかなげ美人が憂い顔でお願いできるかしらと相談されたのだ。噂を広げることに協力は惜しみませんよ(当然だよな)


 そんなわけでリリアナ嬢病弱説はこうして出来上がっていく。

 なんせ広めるのは隊長自らだ。噂が伝わるのも早い早い。

 やれ今朝は熱があった、ベッドから出られない。今日は気分が良いので庭で花冠を作ったら夕方食事も取れずに眠ってしまった等々、隊長はこちらに来る度に周囲に広めるのだ。もちろん嘘八百である。

 病弱説が広まるにつれ、王家と懇意になりたい者達はこぞって隊長に対して友好的な態度になった。


 理由は、現在この国の王子は三人いる。

 長男のジュール様は今年で六歳になる。これまたお二人の良い所全て受け継いだかのような美少年である。

 また、天才と言っていい程目端が利き武芸も秀でている。勉学を始められてからと言うもの、教師人が手放しで褒め称えるほど進みが速く、また王の器だと言わせる程カリスマ性があり、人々の心を掴んでいる。

 次男のウォル様は五歳になったところだ。王に似て眼光鋭く、考えるより動いている方が好きだというやんちゃな性格で、周囲の苦言は聞かずとも兄の話は喜んで聴くというブラコンっぷりを披露している。

 兄上すごい!兄上大好き!!と、キラキラした眼で毎日兄を追いかけている。

 三男のノーラ様は一歳になったばかりだが…王妃様の玩具である。彼はフリルがふんだんに使われた産着から始まり、寝巻きや部屋はピンクで統一され、最近では肌触りがいいからだと思うが、ドレスを着せると喜んでいるらしい。

 ……彼が自我を持った時に手遅れでないといいのだが…。


 話がそれたな…

 そんな王子達のお相手にと狙う貴族達にとって、お嬢は最大のライバルになるともならないとも噂されている。


 何故なら、リリアナは王妃様の大のお気に入りだったマリア様の子供だからだ。

 マリア様とレオリア様の結婚は貴族達の嫉妬と羨望の的だった。

 マリア様が王妃様の侍女となったのは彼女が十五歳になった時だ。彼女は佇んでいるだけで側にいる者達を癒した。

 美しい姿だけでなく、やわらかな眼差し。また、ゆったりとした話し方をするので、その落ち着いた声に聞き惚れる者が後を絶えなかったが、王妃様バリケードの為夜会のお供に出席していても近づく事はできなかた。


 レオリア様もいつもマリア様には見惚れていたんだよね。あの恋愛ごとに激鈍の隊長は、マリア様が通った場所をいつも名残惜しげに見ていたのである。

 そんなレオリア様は、自分がマリア様に惹かれているなんて全く気づきもしなかった。

 だがマリア様からの告白に、隊長もようやく自分の気持ちに気付き、めでたく結婚、となったのだ。あれはマリア様が告白しない限り一緒になれる事はなかっただろうな。


 最終的には隊長に憧れていた女性達も、マリア様に恋焦がれていた男性達も勝ち目はないと諦めざるをえなかった。


 そんなお二人の子供だからこそ、未だ姿を見せないリリアナ様に皆興味津々なのだ。


 兄であるトーマス様も学院ではファンクラブなるものがあるらしいし、マリア様に似ているといわれてるお嬢が不細工なわけがない!と色めきだって、婚約だけでも!と打診する家もなくはない。

 王子達の婚約者にすぐにでも立つと思われたが、お嬢は病弱=とてもじゃないが未来の王妃として相応しくない=王子の相手に相応しくない。という図式が立つ為、王妃様も強く言えないんだとか。


 だがもしもお嬢が元気になった(もしくは元気だった)と知られたら……


 そうなると野心のある貴族達の考える事は皆同じ。

【仲良くしておいて損はない!】

 これにつきる。


 逆によく思わないのは王家の血を何より尊く重んじる貴族の古狸達である。

 万が一お嬢が王子達と恋に落ちたりすれば、何をしてくるかわかったものではない。

 だからこそレオリア様達は積極的にリリアナの病弱説を広め、またマリア様も王都にはめったに近づかなくなったのである。




「転移門の事は仕方ないですね。それに狸達が文句を言うのは筋違いですよ。元々転移門の構想はあったのに【夢物語】だか、【経費の無駄遣い】だと言って馬鹿にしてましたから。

それが完成したのは、ひとえに隊長が院の奴達片っ端から誑かして作り上げたものですからね。隊長が笑顔で一言『お前達ならできる。』と言っただけなのに、あいつら俄然張り切って、隊長の為に領地の端から院までの道を繋げましたから」


「ああ。ただ、使用条件を隊長にのみ設定したおかげで、他の人間が使えないがな」

「それも魔術師達の嫌がらせでしょうねぇ。あれだけ貶していておいて、できたら自分達の手柄のごとく吹聴し、しかも真っ先に使用できると思ってるでしょ?そんな奴に使えない様にするのは当たり前。自業自得ってもんです。それに条件付きにして正解ですよ。下手したら王妃様が来ちゃったら大変ですし」

「それはこちらでも苦言をしているから大丈夫だろう。身分の高いものが下位の家を訪れるなんて…ましてや王妃様だ、よっぽどの事がない限り周囲が許さない。王妃様もそれくらいはわきまえているさ」


「だと、いいんですがね」

「どうかしたのか?」

 言葉に詰まる俺を見、訝しげにマリウスは先を促す。

 決まった事じゃない、だけど予感がするのだ、厄介事に発展しそうな予感が。


「いえ…例えば、例えばですよ?」

「前置きはいいから言ってみろ」

「ええと、もし王都にお嬢が来たとします。そしたらあの方々はどう出ますかね?」

「そんな好機を見逃す方々だと思うのか?」

「…やっぱり?」

「当たり前だろう。ここには『眼』がある。『影』も動く。到着と同時に迎えに行くさ」

「それがどうかしたか?」と聞く兄にユリウスは首を横に振り、報告書纏めて来ますねと言って退出した。


 …やっぱり逃れられないよなぁ。

 王の『眼』はそのまま眼だ。領地の様子、民の様子、隣国の様子等王が見れないものを見る者の総称だ。どれくらいの規模でどれほどの人数で行っているのかは知らないが、彼らがいる限り王は知らないことはないと言われている。


 そう。俺が心配しているのは『影』暗部や潜入などを主に担っている彼らが、今朝隊長が遅れる事になった原因であるお嬢の『お城を見たい』発言や、魔力の揺らぎを気付かなかった可能性がないと言えない事なのだ。



 それに隊長をはじめマクレーン家の者は、かなりお嬢に我慢を強いていると思う。

 あの聞き分けの良さは頭の回転の早さが関係しているだろう。

 今朝も俺が怒ると、迷惑をかけたのが自分のせいだと理解して肩を落としていた。

 普段からあまり我が儘も言わずにいるため忘れがちだが、お嬢はまだ五歳にも満たない幼子なのだ、もし腕輪が壊れると共に感情が爆発したりしたら、 お嬢がどうなるわからない。


 あの時お嬢は、魔力を使って扉に結界を施していたのだ。ヨーク様から貰った魔石を使用したのだろうが、籠城に使えるような強力なものは未だなく、ましてやあんなに結界が重ねてかかる事は、通常ではあり得ないのに。

 もしリリアナの持っていた魔石を部屋の四隅に置いて、常に作動できるようならば、多分俺ですら部屋に入る事は出来なかっただろう。

 今回は窓が開いていたり、お嬢の魔術がほぼ封じられていたから扉の結界の重ねがけで済んだが、無意識に腕輪の魔力を引き出していたなんて狸らに知られたら、お嬢は間違いなく親元から離され利用される。


 それを考えると、色々ガス抜きがてらお嬢の気を魔術から逸らさないといけない。

 この兄にバレるだけでも、お嬢を家で預かるから連れて来い!とか言い出しかねないからな。

 そうなるとどう転んでも王妃様が出てくるし大事にしかならないだろう。

 貴族達と対立もあるだろうし、王の為にも家族の為にも最悪隊長はこの国を出る。そうなれば間違いなくこの国は大混乱になる。


 この十年余り隊長に付いてきたのだ。その想像は想像だけに留まらず現実になるだろう。


(なぁんか、俺の未来はどうやっても隊長に巻き込まれるよな。)


(とりあえず隊長とトーマスにお嬢の現状を理解してもらって、多分ヨーク様にはガレルから話は行ってるだろうから、封じの事は心配ないだろう。リリアナが魔力の事を理解して自重してくれればいいが、まだそんな話をしてもわかるとは限らないし…)


 面倒だと思いながらも、自分の冷静な部分がこれから起こる事をふまえ、どうすればいいか考え始めている事に気付きユリウスは苦笑した。

 もっとも生きていくのに冷めてた筈なのに、隊長と会ってから明らかに自分の進んでる道が困難で面倒事に向かっているしか思えない。

 でも関わってしまったからには逃げ出す事はできないししたくない。

 それ程マクレーン家の人達に情はある。


「俺の人生どこで間違えちゃったんだろなー…」

 はあ、と溜息を吐きユリウスは空を見上げる。



空はユリウスの心とは裏腹にひどく澄み切っていた。

今年最後の更新です。

読んでくださった皆様に感謝を!

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