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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
 *五章 浮島へ

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01

 オゼイユの入口に着いた。

 動く死体が溢れていると聞いていたのだが、思ったより静かなものだった。

 いや、静かすぎた。


 動く死体がいるのなら、ミツルの感覚はザワザワしたものに包まれるはずなのだが、それがない。

 だけど妙な違和感だけはずっとまとわりついていて、ミツルは警戒しながらオゼイユへと足を踏み入れた。


 オゼイユに足を踏み入れた途端、ミツルの全身は痛いくらいの鳥肌が立った。それは今まで感じたことのない感覚。

 いや、死体や動く死体が近くにあるときに感じることがあった高揚感やザワザワとしたなにかが一気に迫ってきたかのようなものかもしれない。

 ミツルは慎重に歩を進め、目の前に現れた動く死体に円匙(スコップ)で殴りつけて土の上に倒すと、女神より授かったと言われるインターの力を思いっきり叩きつけた。

 一瞬にして消える動く死体。

 それが呼び水になったのか、次から次へとミツルの前に動く死体が現れ始めた。

 中にはかなり濃い紫色をした動く死体もいた。

 ミツルは力の限り動く死体に円匙を打ち下ろして地面に倒し、地の女神の元へと送り込んだ。


 それはどれだけ続いたのか。

 ミツルの息が上がり、これ以上は無理となったところで一度、オゼイユを撤退することにした。

 円匙を構えたままでミツルは後退して、オゼイユから抜けた。


 オゼイユの敷地から出ると動く死体は追ってこなかった。

 コロナリア村でもそうだったが、動く死体には領域(テリトリー)でもあるのだろうか。

 もしもそれがなければ、今頃、この国は動く死体だらけになっていたかもしれない。そんなことを思うと、さすがにゾッとした。


 結局、ミツルは午前中いっぱい、動く死体の処理に明け暮れていたらしい。一体、何体の動く死体を地の女神の元へと送ったのか分からない。この調子ではいつになったらククミス山へたどり着けるのか。


 ミツルは遠巻きにオゼイユを見た。

 ベルジィがククミス山に行くにはオゼイユを抜けなければいけないと言っていたが、現地に着いて実際見て、納得した。

 オゼイユに入るには天井のないトンネルのような道を通り抜けなければならないのだが、その横は何故か切り立った崖が続いていたのだ。

 この崖を登って山に入れそうだとは思ったが、直に土に触るのはなんだか嫌で、ミツルはそのルートは諦めることにした。

 崖をよく見るとところどころ木の板が打ち付けられていた跡はあるのだが、大半が朽ちてボロボロになっているようだった。


 ミツルはとりあえず体力を回復させるため、携行食を口にした。水は途中で水筒に詰めてはいたが、どこかで補給しなければならない。

 ミツルは無心になって携行食を食べ、それから大きく息を吐いた。


 先ほどの様子だと、オゼイユに住んでいた人たちはみな、動く死体になってしまったと見ていいだろう。

 村の住人がどれだけいたのか分からないが、ミツル一人で全員を地の女神の元に送るにはかなりの負担だし、今回はそれが目的ではない。

 となると、立ち止まらずに動く死体の間をぬってククミス山に入るしかない。

 だが、村の中の地理が分からないため、最短ルートを取ることが出来ない。


「困ったな」


 動く死体をさばきながら村の中を移動して、ククミス山に入る。

 これは思った以上に難関かもしれない。

 だが、ククミス山に入ってしまえばこちらのもの。

 今の推論が正しければ、動く死体はククミス山には入ってこない、はず。


 本当ならすぐにでも突入したいところだが、ミツルは今、疲れていた。

 無理をして入った後のことを考えると、それは無謀なことのような気がして、時間はもったいないが今日はここで休むことにした。

 とはいっても、ここはオゼイユの近く。もう少し離れて水場のあるところでゆっくりしたい。

 ミツルは荷物を背負い直し、水場がある休める場所を探して彷徨った。


 ミツルが求めていた場所は、オゼイユから少し離れた場所にあった。

 どうしてこんなところに小屋があり、水場もあるのかは不明だったが、ありがたく使わせてもらうことにした。

 ずいぶんと使われていなかったらしく、埃っぽい。それでも屋根がある場所で助かった。

 ミツルは簡単に埃を払い、イスに腰掛けた。オゼイユに入って休みなく地の女神の元へ動く死体を送り続けただけあり、疲労感は半端ない。これから先も長いのに、ここでこんなに疲れていては先が思いやられる。

 ここでただぼんやりと時間が過ぎるのを待つのももったいないとは思ったが、ミツルはとにかく、疲れていた。

 身体を休めたいと思い、小屋の中を見ると、埃を被っていたが寝台がある。上掛けの埃が舞わないように内巻きにして、小屋の外に運んで埃を叩いた。

 陽が照っていたから干したかったが、布団を掛けるような場所がなかったため、あきらめた。

 バサバサと埃を叩き、下敷きも埃を払い、寝台を整えた。

 そんなことをやっていると、陽が沈んできた。

 ミツルは小屋の外で火を熾し、鍋に湯を沸かして携行食を入れてスープを作ることにした。

 アランが言っていたとおり、思ったより美味しかった。

 ミツルは無言で食べ、鍋を片付け、少し早いが眠ることにした。

 とにかく今日は疲れた。

 ミツルは叩いたけれどまだ埃っぽい布団に潜り込み、眠ることにした。


 昨日、早くに寝たからなのか、ミツルは陽が昇る前に目が覚めた。

 まだ薄暗い中、ゴソゴソと起き出した。

 携行食のスープを作ろうと思ったが、片付けるのが面倒なのでそのまま食べる。

 水分もしっかり取り、水筒にもきちんと詰めた。

 朝早いからといっても、動く死体はそんなことは関係なく動いているだろう。

 憂鬱に思いながら、ミツルはオゼイユへと向かった。


 オゼイユに足を踏み入れると、ゾワリと独特な感触が全身を包んだ。それは近くに死体があるときに感じるものだった。

 ミツルは円匙を構えながら村へと踏み込んだ。

 昨日は動く死体に囲まれて周りを見る余裕がなかった。今もそんな余裕があるのかと聞かれたらないのだが、心構えが違うからか、まだ周りを観察することができた。

 村への門をくぐると、開けた広場になっていた。広場の中心には噴水だったと思われるものがあった。

 元々のオゼイユを知らないミツルは、こんな山の麓にある村なのに噴水があることに違和感を覚えたが、なにか意味があるのかもしれない。

 広場を囲むように建物があったらしく、しかし、ボロボロに壊されていて、今は壁だけになっていた。

 ミツルはそんな広場を駆け抜け、一番広いと思われた通路に飛び込んだ。そこは瓦礫があちこちに散らばっていたが、歩けなくはない。

 このまま進むかもっとマシな道を選ぶか悩む間もなく後ろから動く死体が迫ってきている気配がしたので、ミツルは仕方なしにそのまま進むことにした。

 道は木の板に舗装されたままのようではあったが、瓦礫のせいで走りにくい。それは後ろからやってくる動く死体も同じ条件のはずだ。

 円匙で瓦礫をかき分けながら道を進む。道を塞ぐように倒れている木を乗り越え、道なき道を進んだ。

 息が上がってきたが、止まるわけにはいかない。

 気配は遠いが、動く死体はまだこの村にかなりいるようだ。

 後ろから追いかけてきていた動く死体は木に阻まれて追ってきていないようではあったが、油断はできない。

 ミツルはこの道がククミス山に通じていると信じて、ひたすらに前に進んだ。


 道を進んでいくと、段々と歩きやすくなってきた。

 瓦礫は減ってきて、それとともに壊れた建物も減ってきた。

 動く死体の気配もかなり遠い。

 ミツルは道なりに進んでいき、ようやく山の入口と思われるところに到着した。

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