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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 ナユを探すための手がかりを求めて

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07

 部屋になだれ込んできたのは、三人ほど。それでもそれほど広くない部屋ではかなりきつい。

 しかも三人とも、手には剣を持っていた。明らかにミツルたちを殺そうとしているのが分かり、ミツルは呆れた。


「どうあっても殺す、と?」

「…………」

「大人しく殺される気はサラサラないっ!」


 まったくもって、どうしてこうも厄介ごと(トラブル)に巻き込まれるのか。

 最近、災難続きのような気がしたが、改めて考えてみると、今に始まったことではないかもしれない。


「どうするんだ、ミツル」

「俺が死んだら大惨事になるらしいからな。最大限、抵抗する」


 ミツルはダウディと呼ばれる存在にはなりたくなかった。

 それにまだ、ナユを助けてない。ナユを助けて、きちんと返事を聞かなくてはならないのだ。こんなところで死ねない。


「親父は下がってろ」

「……分かった」


 大人しく下がったのを確認して、ミツルは円匙(スコップ)を構え直した。


「さて、だれから来る?」


 この狭い部屋で三人が一気に掛かってきたら同士討ちになるのが目に見えた。それは向こうも分かっていたようで、一人が斬りかかってきた。

 ミツルは白い円匙で受け止め、流した。白い木で出来た円匙は今まで握ってきたどの円匙よりも硬く、向こうが持っている剣では斬れないことが分かったため、反撃に転じることにした。

 ミツルは握った円匙の皿の部分を突きつけ、剣を斬りつけてきた人物の胴体に打ち込んだ。相手はあまり剣の腕はよくないらしく、ミツルの攻撃を思いっきり受け、吹き飛んだ。


「まず一人、と」


 突いた円匙を引き寄せ、後ろにいたもう一人の右肩に円匙を叩きつけた。呻き声を上げ、剣を取りこぼしていた。

 ミツルは円匙をもう一度、振り上げ、残る一人の身体に振り下ろした。

 あっという間に三人は床に転がり、痛みにもがいていた。


「よわっ」


 剣を持って斬りかかってきたからそれなりの訓練を受けているのかと思ったら、どう見ても素人だった。そんなので人を殺せるわけがない。


「俺たちは歓迎されていない、と」

「……そうだな」

「最初から素直に野宿した方が疲れなかったかもな」


 ミツルはそういいながらアランに目線で部屋から出るように伝えた。

 ちなみに三人は部屋の中で痛みに悶えていた。


「車、無事だといいがな」

「さっき見たときは大丈夫そうだったが」

「御者も心配だな」


 ミツルが隣の部屋を覗いたら、こちらは気持ちよさそうに眠っていた。起こすのは忍びなかったが、彼がいなければ車を動かせないわけで。アランが部屋に入って起こしてくれた。


 専用車まで行くと、アランの証言どおり、無事だった。馬も問題なく、ミツルたちが事件に巻き込まれている間、少し休めたので、問題ないようだった。

 すっかり暗くなった中、車は村を抜けて、休めそうな場所に止まった。


「車中泊、か」

「そうなるな」

「それにしても、親父はどれだけ村長に金を積んだんだ」

「それほど多くない。三人で一万フィーネだ」

「……妥当なところか」


 どこで金を持っていると判断したのか。やはり専用車か?


「……まぁ、いい。親父は中で寝るといい」

「おまえはどうするんだ?」

「俺は外で寝るよ」


 ミツルは山に登るために準備していた荷物から寝袋を取り出すと外に出た。

 近くに村があるとはいえ、この辺りにはさすがに人がいない。だから外に出ると灯りがないため真っ暗だ。

 車の側に寝袋を広げ、ミツルはモゾモゾと入り込み、寝転がった。

 空は晴れているらしく、星が瞬いていた。満天の星空の下、ミツルはあまりの美しさに瞬きを忘れて見入っていた。

 ウィータ国を放浪していた頃、たまに野宿をすることがあった。その時もこんなに美しい星空が頭上にあったが、今日はこれまで見た中で一番綺麗なような気がする。

 村で厄介ごと(トラブル)に遭った後だから余計にそう思うのか、それとも別の理由があるからなのか。

 それは分からなかったが、星空を見ているうちにミツルは眠たくなり、そのまま眠った。


 まぶたに柔らかな光を感じて、ミツルは目を覚ました。どうやらあれからなにも問題なく、朝を迎えたようだ。ミツルは思わずホッとした。

 寝ている間に村人がここを探し当てて殺しに来たらどうしようかと思っていたのだ。幸いなことにそこまではしなかったらしい。

 起きてゴソゴソと寝袋を片付けていると、車の中で寝ていたアランも起きてきたようだ。こちらは眠そうな顔をしている。


「おはよう」

「おはようございます」


 アランは無言で携行食を渡してきたので受け取った。


「なにかあったときのためにと車に積んでいたんだが、正解だったな」

「それであったのか」

「山に入るのに荷物になるかもしれないが、少し持って行くか?」

「……そうだな、そうする」


 足りないよりは余るくらいがいい。そう思ってミツルがうなずくと荷台から箱ごと持って来た。


「いや、さすがにそれは持っていけない」

「そうか? 好きなだけ持っていけ」


 ミツルは箱を開けて手に持てるだけもらうことにした。


「そんなに少しでいいのか?」

「荷物になるからな。これで充分だ」


 それにしても、どれだけ荷台に積んでいるのだろうか。


「この携行食、美味いだろう?」

「パサパサ感は相変わらずだが、確かに美味いな」

「パサパサ感は仕方ないな、携行食の宿命だ」


 水がない時には食べられないという欠点があるが、軽いためにウィータ国では定番(スタンダード)だ。


「この携行食は商会で売っているのか?」

「そうだ。車に乗せておいて、お得意さまのところに見本として渡したり、食事の時間を逃した時に食べたりと、なかなか便利だぞ」


 お得意さまに配るのはともかく、食事代わりにするのはどうかと思ったが、ミツルは黙っておいた。


「味も色々あるんだぞ」

「へー」


 と説明を始めそうだったのでミツルは止めた。


「俺に説明しても仕方がないだろう」

「まぁ、そうだな」


 御者も交えてミツルたちは携行食を朝ご飯代わりにした。


「この肉タイプのものだが、余裕があれば鍋に湯を沸かして溶かしてスープ代わりにしても美味しいぞ」

「そういう食べ方もあるのか」


 腹が膨れたところでミツルたちは車に戻り、オゼイユに向かった。


 オゼイユに近づくにつれ、景色が段々と荒廃していくのが分かった。ここまでの道は木で舗装されていたのに、その舗装が徐々に荒れてきて、村の入口が近づくにつれ、車が走れないほどになってきた。


「俺はここで降りて歩いていく」

「悪いな、入口まで送るつもりだったんだが」

「気にしなくていい。ここまで送ってくれただけでもありがたい」


 徒歩だとどれだけの日数が掛かったか分からなかったが、車で一日も経たずに来られたのだ。


「親父、気をつけて帰れよ」

「おまえこそ、気をつけろよ」


 ミツルは用意していた荷物を背負い、円匙は邪魔になるが武器代わりにもなるので手に持つことにした。


「じゃあ、行ってくる」


 車から降りて、ミツルは村の入口へ向かった。

 城下町にいると道が舗装されているし、この国は土を恐れるあまりに木の板で地面を封鎖しているから今まで気にしていなかったが、舗装されていない道は歩きにくいし、違和感があった。土の上を直に歩く、というのは初めてかもしれない。

 地面に足を着けると木とは違う感触が返ってくるのを不思議に思いながら、ミツルはひたすら歩いた。



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