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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 ナユを探すための手がかりを求めて

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05

 事務室に行くと、ユアンは机に座ってなにか調べ物をしていた。

 ミツルが入室したことに気がついたユアンは、顔を上げた。


「いいところに来ました」

「ん? なにか見つかったのか?」

「浮島に関しての研究がされてまして、その文献を見つけました」

「ほお」

「それによると、地上から浮島へと行くための道があるようですね」

「あるのかっ!」


 食い気味のミツルにユアンは苦笑しながら先ほどまで見ていた資料を指さした。


「ここに書かれているのですが」

「ふむ」

「かなり厄介ですね」

「厄介とは?」

「北にあるベルジィの出身の村を通過して、その先にあるククミス山の山頂に浮島への通路があるらしいです」

「ベルジィの出身の村というのはオゼイユか?」

「はい。あそこは動く死体が村を支配しているという話です」

「村に入らず周りを通り抜けるのは?」

「不可能ではないですが──」


 とそこへ、ふらりとベルジィが事務室にやってきた。


「ベルジィ、ここからククミス山に行きたいんだが」

「ククミス山へ? 物好きですね、なんにもない山なのに」

「なにもないことはないだろう」

「村にいるとき、何度か登ったけど、本当に普通のなんの変哲もない山ですよ」

「ほう。山頂まで行ったことは?」

「あー、山頂は……ダメっすね」

「ダメ、とは?」

「山頂付近だけ、雲に覆われていて晴れることがないし、入ると迷うから行くなと言われていたのだけは普通ではないか」


 ということはやはり浮島への通路があっても不思議はないということか。


「俺はその山頂に行きたいんだ」

「はー、正気っすか? 前から変わった人とは思ってましたけど、アニキ、あそこだけはやめておいたほうが……」

「そこに鈍色の男がいてもか?」

「……なるほど。そういう理由ですか」


 ですが、とベルジィは続ける。


「道案内はできませんぜ」

「それは必要ない。俺一人で行ってくる」

「正気っすか! あの山に入るのにオゼイユを通過しないと無理っすよ」

「村を経由しないで入るには?」

「無理……ですな」


 無理と言われても、行かなくては話にならない。


「俺は行ってくるぞ」

「それならば」


 とアランがどこから聞いていたのか分からないが、部屋に入って来るなり口を挟んできた。


「せめてオゼイユまでは送らせてほしい」


 そうして、ミツルは急きょ、オゼイユに行くことになった。


 *


 ミツルは祖父が亡くなってから、各地を放浪していた時期がある。そのとき知ったのは、インターが酷い差別を受けていることだった。

 それまでも差別があるとは聞いていたし、実際、インターだとバレて酷い目にも遭ったことがある。

 だから祖父が生きていたときも定期的にあちこちの街に移動して暮らしていたが──。

 とそこまで考えて、ふと気がついた。

 インターはどこに行っても疫病神の扱いを受けてまともな生活が出来ない。それなのに祖父が生きている間、ミツルはそれなりの暮らしをしてくることが出来た。

 祖父が亡くなって、祖父がインターにしてはお金を持っていたことを知り、そのおかげでミツルは普通に暮らせていたのかと思ったのだが、なにか引っかかる物がある。

 それはなにかと考えて、気がついた。

 住む家だ。

 家を借りるとき、短期間ならともかく、何年も借りる場合はお金さえ払えばよいというわけでないらしい、ということをつい最近、恥ずかしながら知ったミツルは、それでは祖父はどうしていたのか疑問に思ったのだ。

 もしかしてと思って、オゼイユまで同行することになったアランに聞いてみることにした。

 ちなみに、今、ミツルはアランとともに乗り合いではないクロス家所有の専用車に乗っている。

 これにはルベルムから城下町に戻ったときに乗ったことがあるので、二度目だ。


「親父」

「なんだ?」


 アランはアランでミツルになにか話しかけようと考えていたらしく、すぐに返事が返ってきた。


「疑問に思ったんだが」

「うむ」

「じいさんの住む場所の手助け、親父がしてたのか?」

「あぁ、それか。手助けというか、保証人にはなっていたな」

「……なるほど」


 保証人がいれば金もあるし貸してくれた、ということか。


「なにか問題でも?」

「いや……。インターの地位が低いってことにじいさんが死んでから放浪して知ったんだが、住む場所はどうしてたんだろうかと思ってさ」

「何度も一緒に住もうと言ったんだがな、父は頑なに首を縦には振らなかった。だからせめておまえたちが苦労しないようにと保証人になったんだ」

「そっか……」


 とはいえ、祖父と最後に住んだ家はルベルムだった。

 だからこそ祖父が亡くなった時、すぐに父と母を呼び寄せることが出来たのだが。


「なんだ? あの子とそういう話でも出てるのか?」


 具体的な名前はなかったものの、アランの口からナユのことが出てきて、やはりナユは存在していると知り、ホッとした。


「いや、俺の子を産んでくれないかとは言った」

「ぶはっ!」

「そこ、吹き出すところか?」

「すべて吹っ飛ばしてそこかっ!」

「じいさんとばあさんを見てたら、結婚なんて無理だろうからな」

「……まぁ、そうかもしれないが」


 結婚はしてなかったが、二人はずっと一緒だった。

 そういう二人を見て育ってきたから、ミツルは特に結婚という形にはこだわりはない。


「彼女の意向もあるだろう」

「考えておくとは言ってくれたぞ」

「それは遠回しに断られてないか?」

「…………」


 そこは分からないが、少なくともナユは考えてくれている、意識してくれていると思ったのだが、すぐにさらわれてしまったため、真相は分からないままだ。


「ところで、ミツル」

「なんだ?」

「詳しい話を聞いてないんだが、どうしてオゼイユまで行くことになったんだ?」


 そういえば話してなかったような気がしたので、まだオゼイユに着かないということもあり、話しておくことにした。


「親父はばあさんが()()()()というのは知っているか?」

「……あぁ」


 アランは他人には『事故だった』と伝えているが、ある意味あれは事故だったのだろう。そうでなければ殺されることはなかったはずだ。


「ばあさんはかなり無鉄砲な性格だったからな」

「しかし……」

「思い出したんだよ、全部」

「思い出した……?」

「俺はばあさんが殺された現場にいた」

「な、なんだってっ?」

「──今の今まで忘れていたのは、ばあさんを殺した男にそういう魔法を掛けられていたからだ」

「魔法……」


 魔法としか考えられない力は、祖母に関するすべてを忘れさせられていた。


「俺はばあさんと一緒に買い物に行って、帰る途中だった」


 ミツルは荷物持ちとして祖母と一緒に買い物に行っていた。


「帰り道で妙に綺麗な、ぱっと見、性別が分からない人物とすれ違ったんだ」


 顔も目を引いたのだが、服装も変わっていたから余計に目に入った。


「そいつはばあさんを引き止めた。ばあさんは無鉄砲な性格でもあったけど、困っている人を助けるようなところもあった。俺たちがいた場所は路地で、よく道に迷う人に遭遇したから道を聞かれるのかと思ったんだが」


 ミツルはそこで区切り、眉間にしわを寄せた。


「あの時、確か俺を見て、『どうしてインターを連れている』と言われたんだ」

「なにっ?」

「ばあさんはインターを見分ける目を持っていたが、相手がインターと分かっても、特に声は掛けなかった。それが礼儀だとも言ってたな」


 インターにインターだと指摘しても意味はないと祖母は知っていたのだろう。ソッとしておくのが優しさでもあった。


「人通りはなかったが、俺がインターだとバレたら色々と厄介だから、ばあさんは違うと言い張ったんだが、相手も譲らなかった」

「その人物の目的は……。いや、それよりも母以外にも見分けられる人がいたということか?」

「ユアンも見分けられると言っていたぞ」

「あぁ、そんなことを言っていたな」

「それで、ばあさんはその指摘してきた男を見て、なにかに気がついたみたいで、こう言ったんだ」


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