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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 ナユを探すための手がかりを求めて

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04

 ユアンは浮島の行き方を調べると言ったが、分かるのだろうか。

 それよりもミツルはなんでも識っているシエルに聞くのが早いのではと思って呼び出そうとした。

 ……のだが。


「呼べば来るとは言ってたが、本当か?」


 ミツルは事務室から出て、まずは自室へと向かった。

 いくらミツル以外に見えないからといって──いや、見えないからこそ、なのか──呼び出す場所は慎重にしなければならないだろう。

 部屋に入り、鍵を掛けてからミツルはおもむろにシエルの名を呼んだ。


「おい、シエル、聞こえるか?」


 そういえば、前にも同じように呼んだなど思っていると、音もなく目の前に急にシエルが現れた。

 とはいえ、いつも以上に透明で心許ない姿だった。


『なに、か用?』


 声も聞き取りづらく、雑音混じりであったが、かろうじて聞こえる。


「浮島に行きたい」

『浮……島……』


 とそこでシエルの姿がブツリと途切れた。


「シエルっ?」


 それと同時にシエルの気配もプツリと途切れてしまった。


 あれほどあったシエルの気配が消えた。

 シエルの身になにかが起こったのだろう。

 しかし、シエルは確かミツルが気がつくまで()()()()()()()()()()()()と言っていなかったか?

 そのシエルの気配が突然消えるのはなにかがおかしい。


 ミツルが知らないところでなにかが起こっている。

 それだけははっきりと分かった。


 *


 その問題のシエルだが。

 ウィータ国内をくまなく見て回り、問題の男──ミツルたちが鈍色の男と言っている──とナユの気配が()()にはないことを確認した。

 となると冥府か──?


 そこまで考えて、シエルは違うと首を振った。

 あの男とナユの気配は確かにこの国のどこかにある。

 だけど、不自然に気配を感じるのもおかしいとは思ったが、ナユの気配を感じられるのはナユとの繋がりが強いからで、あの男の気配が感じられるのは──やはり(そら)の民であるからだと確信した。


 穹の民。


 シエルが穹の女神と呼ばれていたとき、淋しくて自分によく似た人を創った。

 その人たちは穹の民と呼ばれて浮島にいたけれど、シエルの罪を被ってあそこから出られなくなっていた。

 それなのに、あの男はなぜか出てこられて……。


 もしかして、とシエルは一つの仮説を立てた。

 冥府の色を身に宿したら、浮島から出ることができる?

 それならば、理由は分からないが、ラウラは冥府の色を身に宿していたし、あの男を直接見たわけではないが、冥府の色を身にまとっていれば浮島から弾き出されても不思議はない。


 ──シエルの仮説はかなり真実に近いものだったが、満点ではなかった。

 冥府の色を身に宿せば浮島の出入りが可能になる──。

 しかし、何事にも例外があり、それはナユとミツルの存在だった。


 あの男とナユが地上にいない、だけどこの国の中にいる。

 そうなると、まだ見ていないのは穹。


 シエルはこのとき、鈍色の男が浮島を自由に出入り出来ることを知らなかった。


 シエルは浮島から墜とされてからこちら、穹が怖かった。

 穹はシエルを守ってくれなかった。

 地上に身体を叩きつけられて、羽はボロボロのズタズタになり、飛べなくなった。

 だけどその羽は修復されているのはラウラを助けたときに確認している。


 羽さえあればシエルは浮島へと行ける。

 怖いけれど、行けなくもない。


 ラウラの記憶を見て、浮島の惨状を知っているから──怖くて行けなかった。

 でも、今はそんなことを言っている場合ではない。

 行って確かめなければならない。

 シエルは穹の民を産み出した義務として、最期を確認しなければならない。


 だから、シエルは覚悟して羽を広げた。

 シエルの羽は大きく広がり、身体を高く持ち上げてくれた。

 グングンと高くなり──。

 そこでミツルの呼び声が聞こえたのだ。


『おい、シエル、聞こえるか?』


 久しぶりのミツルの声に思わず嬉しくなったシエルは羽を閉じてミツルの元へ行こうとしたが、羽はシエルの意思に反してドンドンと空高く舞い上がろうとしていた。

 いや、これは違う。

 シエルの身体が浮島に引き寄せられているのだ。それはかなりの勢いで、シエルは息苦しくなっていた。

 シエルは苦しい息の下、ミツルに言葉を返した。


「なに、か用?」


 そう問えば、ミツルから思いもしない言葉が返ってきた。


『浮島に行きたい』

「浮……島……」


 ミツルもナユが浮島にいることを掴んだのか。

 そう思ったけれど、シエルの身体は加速して──浮島に突っ込んでいた。


 *


 唯一の手がかりであると思われるシエルと連絡が途切れた。

 その意味するところが分からず、ミツルは苛立った。


 そういえば、シエルは意味深なことを言ってなかったか?


 ──呼ばれたら行く努力はするけど、囚われてしまったら、ごめんね。でも、そうなったらあたしのことは気にしなくていいから。


 シエルはなにか知っていて、ミツルにこんなことを言ったのではないか。

 他に──。


 ──ちょっとまずいことになっている。


 とも言っていた。

 あの時、初めから諦めずに聞いておけばよかったと思ったが、聞いていたとしても事態は変わっていなかったかもしれない。


 シエルが残していった言葉の中になにか手がかりはないかと考え──。


 ── だってナユは、あたしの大切な子孫なんですもの。


 あの時はその後に言われた言葉の方が衝撃的で追求できなかったけれど、これはかなりの暗示(ヒント)なのではないだろうか。


 シエルの子孫。

 その意味するところをミツルは悩んだ。


 シエルとともにいた時間は長いようで短い。その中でシエルはいつも一方的に話をしていた。


 ずっと独りだったこと。

 なにもないところにいたこと。

 地? という名前の男に言い寄られていたこと。

 その男に力を渡したら豹変されてどこからか突き落とされたこと。


「待て? 突き落とされた? シエルはどこから突き落とされたと言っていた?」


 思わず独り言が出てしまうほどの衝撃だったが、ミツルは必死になって記憶を追う。


「シエルは(そら)にいて、地がシエルを迎えるために浮島を……っ! ──浮島っ!」


 欠けていた断片(ピース)がカチッとはまったような感覚に、ミツルは興奮した。


 シエルはそうだ、自分は穹の女神と昔は呼ばれていたとも言っていた。

 浮島には穹の女神に連なる穹の民が住んでいて……。


「あぁ」


 ミツルは重要なことをシエルから聞いていたのに、思いっきり記憶の奥底に閉じ込めていた。

 思い出せただけでも幸いではあるが、とはいえ、その重要な情報をどう扱えば良いのだろうか。

 シエルが言っていることが正しいのなら、浮島は存在している。

 それに鈍色の男も浮島で待っていると言っていたではないか。

 だが、そこにはどうやって行けばいいのか?

 穹の上にあるということは、鳥のように飛んで行くことしか出来ないのではないだろうか。

 現にシエルは浮島から突き落とされている。


 とりあえず、ユアンに思い出したことを伝えようと部屋を出て、事務室へと向かった。

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