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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 インターは魔法使い? それとも化け物?

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07

     *


 ウィータ国ではインターがいなければたちまちたちゆかなくなるというのに、昔から現在まで虐げられる存在である。肩身の狭い思いをしながら、インターは死体を地の女神の元へ送り届けていた。

 この境遇が改善されないのは、ひとえに国がきちんとした対応をしないせいだと気がついたミツルは、毎日のように城に行き、実情を訴え続けた。

 どれだけ通ったのか覚えていないが、どうにか国王に謁見することができたが、現国王のマトリカリア・レイマの第一印象は最悪だった。

 国王は当初、この国の人たちと同じくインターに対して強い偏見を持っていて、ミツルを見るなり顔をしかめられた。その反応は分かっていて覚悟していても、される度に傷ついてしまう。

 ウィータ国ではインターに会ったら命を奪われるだの、目があったら死んでしまうといった根も葉もない噂が信じられていて、国王もそれが事実だと思っていたと知ったミツルは呆れて言葉を失った。

 国の上の人たちがこんな状態であるのだから、言わずもがなである。彼らの間違いを正していかない限り、インターに明るい未来はない。

 不敬だろうがなんだろうが知ったことではない。今を生きているインターと、これから生まれてくるインターのためにと思い、ミツルは自分がここで殺されたとしても真実を伝えて変えていかなければいけないという妙な使命感の元、国王の胸ぐらを掴んで訴えた。


 ──結論から言ってしまうと、ミツルは国王に懐かれてしまった。もちろん国王の方が年上で、父と母とあまり歳の変わらない、しかも国の頭に懐かれるというのはなかなか変な感じだ。


 国王にとってミツルにされたことは初めてで衝撃的だったのと、あまりにも自分たちが無知故に護ってくれている人たちを虐げていることを知り、改善していくという約束をしてくれた。そしてたまにでいいからインターのことについて教えてほしいと請われ、ミツルは国王に何度かインターのことについて話をした。

 それでインターに対しての偏見はだいぶ薄れたとは思う。


 気心はそれなりに知れているとはいえ、マントを羽織らずに国王に会うのはなんだか心許ない。

 それでも呼ばれたのだから、ヒルダとともに執務室に向かえば、しかめっ面をした国王が扉の前で腕を組んでミツルの到着を待っていた。

 まさかそんな状態で待ちかまえられているとは思っていなかったミツルだが、国王の前にたどり着くと片膝をつき、胸の前で右腕を水平にすると、頭を下げた。


「お久しぶりです」

「挨拶はいい。詳しい話を聞きたい」

「はい」


 国王に促され、ミツルはその背につき従おうとしたが、ラディクはかしこまってしまい、ミツルのマントの中に身体を隠して震えていた。

 それを見たミツルは苦笑して、ラディクの肩に手を添えると、軽く押した。


「みみみみ、ミツルさんっ」

「ん、なんだ?」

「あの方は、国王ですよねっ」

「あぁ、そうだが」

「そっ、そんなすごい人と普通にお話できるなんて、やっぱりミツルさんはすごい人なんですね!」


 ラディクは急に目を輝かせ、ミツルを尊敬のまなざしで見ていたが、ミツルからしてみたら、正直、恥ずかしい。


「……そんなすごいもんでもないぞ」

「本部も自力で作ったと聞きましたし、すごいですよ!」


 口では褒め称えよと言うが、いざ、こうやって手放しで賞賛されると、普段、慣れないためにどうすればいいのか分からない。


「中に入ってゆっくり話を聞こう」

「……あ、はい」


 国王に促され、ミツルはラディクとヒルダとともに、執務室へ入室した。


     *


 ミツルはまず、ラディクの紹介を済ませ、ヒルダに事務手続きの依頼をした後、昨日の出来事をまとめて報告した。

 ミツルの報告が終わった後、国王はうなり声を上げた。


「ここ数日、死体が盗まれたという訴えが何件かあがってきていたのだが……」


 その一言に、ミツルとラディクは思わず顔を見合わせた。


「それは……いつ頃からでしょうか」

「うむ、カルミくん、いつからだったかな」

「はいっ、三日ほど前です」


 三日前といえば、ミツルの実家のあるルベルムから帰ってきた直後か、まだいたかの時期だ。

 その意味するところはなんだろうと悩んだが、国王の声に思考を止めた。


「こちらに報告が上がっているのと、ミツルからもたらされた報告と合わせて、十件か。……いったい、なんの目的をもって死体を盗んで行くのやら」


 国王の重たい言葉に、ミツルは小さく首を振り、視線を向けた。


「死体を盗んでいったのは、私が把握している三件とも、同じ人物のようです」

「なに」

「特徴的な人物でして、甲高い声の、見た目は子どものような男が『死体を有効活用する』と言って盗んで行ったと聞き及んでいます」

「国王、報告書に書かれている人物の特徴と一致しています」

「ぬぬぬぬ……」

「確証はないですが、それがどこのだれか分かっています」


 というミツルの言葉に、国王は続きを話すように促してきた。


「サングイソルバという町をご存知でしょうか」

「うむ、知っているが」

「そこの自称・自警団の団長が、目撃証言とぴったり一致します」


 ミツルの言葉に国王は目を閉じ、しばらくなにかを考えていたようだ。眉間にしわを寄せ、なにかを思い出したのか、カッと目を見開いた。


「サングイソルバ……! 思い出したぞ! そうだ、あそこは最近になってコルチカムに変わって、苦情が増えた町だ」

「……コルチカム?」

「あぁ、悪かった。あの町を治める領主が、コルチカム・ノウルに変わったのだよ」


 と言われても、未だにミツルはピンときていない。国王の言う名は、この国では知られた名なのだろうか。

 と疑問に思っていると、ヒルダがぼそりとミツルに教えてくれた。


「コルチカムさまは、インターに対して、大変、否定的な方なのです」


 そういう人物がいるというのは知っていたが、なるほど、あの町を治める人物がそういう思想の持ち主に変わったのなら、あの様子は納得がいく。


「前からあの町はインターに否定的な意見の持ち主が集まっていたようなんだが、コルチカムに変わってからは……」


 そう言って、国王はため息をついた。


「なるほど、そう言われてみれば、納得だな。その自警団の団長というのは、名前は?」

「それが……。団長としか」


 名前が分かったからといって、状況が変わるわけではないが、今の今まで、名前が分からないことに疑問を抱くことさえしなかった。


「あの町で死ぬと、どこから聞きつけたのか人が現れて、死体を盗んでいくという話を聞いていたのだが、町の死体だけでは足りなくなったのか、外に調達にいくようになったのか」

「死体が盗まれる……?」


 そう言われて、ミツルは思いだした。

 自警団の牢屋に捕らわれていたとき、どこからともなく動く死体が現れたが、それはあの詰め所に死体があり、ミツルに投げつけた土が何かの拍子についたからだと分かった。


「……死体を集めてどうする気なんだ」


 ミツルの呟きに、だれも答える者はいない。


「このままあのガキを放置しておいたら、とんでもないことになりそうです」

「まさしくそうだ。そこでミツル、お願いがあるのだ」


 国王の言葉に、ミツルはうなずく。


「サングイソルバへ赴き、自警団の団長の居場所を探してくれないか」


 予想どおりの言葉ではあったが、団長を探すだけでいいのだろうか。

 疑問に思っていると、国王は続けた。


「インターに好意的な人物に心当たりはないかね、カルミくん」

「好意的な人物……と申しましても、もっと役割を絞っていただかなければ……」

「おぉ、そうだったな。今回は警ら隊が適任か」

「警ら隊……ですか。あぁ、第三部隊の隊長がインターに対して好意的ですね」

「第三部隊の隊長というと、アベリア・セレンか」


 国王は名前を口にすると、手元にあったベルを鳴らした。すると、扉が開き、肩までの長さの茶色の髪に緑の瞳、片眼鏡をした、何度か見たことのある男が立っていた。


「警ら隊の第三部隊隊長のアベリア・セレンをすぐに呼んできてくれないか」

「かしこまりました」


 男は頭を下げるとすぐに出て行った。

 扉が閉まったと同時に男のことを思い出した。

 そうだった、あの男の名前はラシラス・アズレウスといい、国王の側近の一人だ。歳はミツルとあまり変わらなかったと思うのだが、かなり優秀な人物だ。


「ミツルよ」

「はい」

「これからアベリア・セレンとともにサングイソルバに行け。そして死体を盗んでいる首謀者を見つけろ」

「はい」

「身柄の拘束はアベリア・セレンが行う」


 国王のその言葉に、ミツルは頭を下げ、了承の意を表した。

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