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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 インターは魔法使い? それとも化け物?

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05

     *


 ミチは死体を見た瞬間、見知らぬ女がとりすがって泣いていたことに衝撃を受けたのかと最初は思ったのだという。しかし、両親に促されて近寄って、違っていたことを知った。


「私はインターで、目の前にある『死体』を地の女神の元に送らなければならないと初めて知ったからこその衝撃だったのよ」


 そう自覚した途端、ミチと婚約者の間にまぶしいばかりの黄色い光があふれたという。


「そうなったら、私にはあいつの死体しか目に入ってなかった。そして、どうすればいいのか、本能が知っていたのよ」


 ミツルはミチからその証言を得たくて聞いたのだが、知らなくてもいいことまで聞いてしまったような気がする。本人が話したかったのならそれはそれでいいかとミツルはそれを忘れることにしようとしたのだが。


「どれくらい経ったのか分からないけれど、気がついたらあいつの死体は消えていた。私自身が地の女神の元に送ったから当たり前なんだけど、なんだか混乱して、取り乱してしまったの」


 一緒にいたミチの両親もミチが地の女神の元へ送っているのを見て、激しく取り乱した。


「あとはもう、思い出したくもないほどのひどい有様よ」


 しかも、とミチは続けた。


「あいつにとりすがっていた見知らぬ女は、私を容赦なく殴ったうえ、返してって」

「……返して?」

「そう。お腹の中にいる子の父親なのよ、早く返しなさいって」

「…………は?」


 ミツルはユアンと顔を見合わせ、それからミチを見た。


「つかぬことをお伺いしますが」


 とユアンが遠慮がちに前置きをした。


「あなたはその亡くなった方と正式に婚約をしていたのですよね?」


 ユアンの言葉に、ミチは大きくうなずいた。


「しかも私が生まれてすぐに、向こうから言ってきたのよ。式も一月後に挙げることになっていたの」

「え、てことは……?」


 ミチは口角を思いっきり上げて、笑った。だけどそれは今にも泣きだしてしまいそうで、ユアンは小さく首を振った。


「あいつは私と結婚をするといいながら、貴族ではない娘を囲っていたのよ」

「囲っていた?」

「そう。視察ってのは嘘ではなかったの。あいつが命を落としたのは、あいつの家が持つ領地だったから」


 だけど、とミチは続けた。


「村の運営は上手くいっていたっていうから年に一度で充分なのに、一月に一度くらいの頻度で視察に行って、しかもなかなか帰ってこないからおかしいと思っていたの」


 ミチの婚約者は末っ子だったというのだが、暇だったわけではない。他にも仕事があったのにそれを放棄して問題のないかなり離れた領地を頻繁に訪れるのはおかしいため、ミチの家族は疑っていたし、本人にも向こうの家族にも何度も確認を取ったという。


「このまま結婚してもいいのかしらと不安に思っていたの。だからあいつは死んだのよ!」


 ミチのその言葉に、ミツルとユアンは同時に首を振った。


「おまえのせいで死んだ、おまえが殺したんだと言われたのか……」


 ミツルの確認の言葉に、ミチは小さくうなずいた。


「俺たちインターが思っただけで相手が死ぬと思っているのなら、よくもあんな態度がとれるよなと感心するよ」


 そしてミツルは自分に言い聞かせるように言葉を続けた。


「──人を憎むな、罪を憎め」


 ミツルは小さく笑い、顔を上げてミチとユアンを見た。二人とも間の抜けたかのような表情をしてミツルを見ている。


「これは俺の祖父から生前に何度も聞かされた言葉だ。人が死んだらインターのせいにされるのを祖父は痛いほど知っていた。だから人を憎んでその相手が死んだとき、周りにおまえのせいだと言われ、自分の中にもそんな感情を持っていたせいで死んでしまったんだと、要らぬ負い目を負うことになるだろう?」

「人を憎むな、罪を憎め……」


 ミツルの言葉を噛みしめるようにミチは口にして、それからうわっと声を上げ、両手で顔を覆うと、しゃがみ込んだ。

 ミツルはユアンに目配せをすると、意図を察したユアンはミチへと近寄った。それを確認したミツルは部屋を出た。


     *


 事務室を出た後に向かったのは、ラディクにあてがわれた部屋だった。扉を軽く叩くと中から返事があり、すぐに開けられた。


「おはよう」

「あ、おはようございます」


 ラディクを一瞥すると着替えは終わっているようだった。顔を見ても寝ぼけた感じはしなかったので、目が覚めてから時間はそれなりに経っていると思われた。


「ゆっくり眠れたか」


 ミツルの質問にラディクは若干の驚きの反応をした後、元気よく「はい!」と答えた。


「よし、それならとりあえず、飯を食いに行くか」


 ミツルの一言にラディクは瞳を輝かせてミツルを見上げた。


「おなかが空いて目が覚めたんです」

「元気なことはいいことだ」


 おなかが空いたというラディクを伴って、ミツルは顔なじみの店へと向かった。

 そういえば、とミツルは思い出す。

 ナユをお昼に何度かここに連れてきて、好物だというパーニャを食べさせたことがあった。野菜と肉を挟んだものと、甘いチューレを挟んだ二種類を好んで食べていた。

 そのことを思い出したミツルは、なんとなく元気をなくしてしまった。

 少し前までは打てば響くといった感じでなんらかの反応を返してくれたナユがいて、すごく楽しかった。しかもちょっといい感じになったところで、鈍色の男の横やりが入った。はっきりいって、面白くない。

 それほど長い時間を共にしたわけではないが、そばにいてぎゃいぎゃいとやり合うのが当たり前になっていたので、いないと認識してしまった途端、淋しくて仕方がない。

 ミツルは祖母と祖父の二人を亡くしている。そのときにもこんな気持ちにはならなかった。

 今のこの気持ちを表すとしたら、喪失感。

 祖父は祖母を亡くしたとき、同じような気持ちになったのだろうか。

 祖母が亡くなったとき、祖父の様子はどうだった?

 そのことを思い出そうとして、ミツルはずきんといつもの痛みが襲ってきたのを認識して、考えるのを止めた。


「あの……ミツルさん?」


 店の前で額を押さえて動かなくなったミツルに、控えめに声を掛けてきたラディク。名前を呼ばれ、慌てて顔を上げると、心配するかのような視線を感じてそちらを見れば、心配そうに眉尻を下げたラディクがいた。ナユがいなくなってからこちら、意識しないでぼんやりしていることが多くなったかもしれない。それはやはり張り合いのある存在がそばにいないからだろうか。


「大丈夫ですか」

「あ……あぁ、すまない。ちょっとここの店のパーニャが好きだと言っていた人を思い出していただけだ」


 ミツルの返事に、ラディクはますます眉尻を下げ、今にも泣きそうな表情になった。

 それを見て、ぎょっとしたのはミツルだ。手を振って否定をしたところで、この動作はナユがよくしていたということを思い出し、またもや気持ちが落ちそうになった。それを振り払うように口にした。


「勘違いするなよ。そいつは生きてるんだ」


 ラディクはその一言にほっと息を吐いた。

 そうだ、ナユは生きている。死んでいない。

 遠い目をしたミツルを見たラディクはなにを思ったのか、そっとミツルの手を取った。

 そんなことをされたことのないミツルは思わず身体を固まらせてラディクを見下ろすと、大きくうなずかれた。


「ミツルさん、分かりますよ」

「……は?」

「片思いは辛いですよね」


 そう言われてみれば、ミツルはナユに片思いをしている。

 ナユがミツルのことを好きだなんて、あの態度を見れば天と地がひっくり返ってもあり得ないだろう。不毛な恋をしてしまったと気がついたけれど、簡単に諦められるのなら、あんなに取り乱したりはしない。


「でも、想っているだけでは駄目ですよ」

「はぁ」

「当たって砕けろ! ですよ、ミツルさん!」


 ラディクはミツルの手を掴むとぶんぶんと振り回し始めた。それは昨日のイルメラと同じで、これってもしかしなくても励まされているのかと、ミツルは思わずそらを見上げた。


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