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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 インターは魔法使い? それとも化け物?

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03

     *


 仲間が大切だというユアンに、ミツルは笑った。


「大切なものを見つけられてよかったな」


 少し投げやりなミツルの言葉にユアンはようやく表情を変え、泣き笑いから苦笑になった。


「そういうあなたも、大切な──」


 ユアンはそこで違和感を覚えたようで首をひねりながら口を閉ざしたが、ミツルは微笑みを浮かべた。


「俺は探すよ。冥府の果てにいるっていうのなら、そこまで行く」

「……らしくないですね」

「そうか?」

「そこまで執着できるあなたが、たまに羨ましく思えますよ」


 具体的な名は出さなかったが、ユアンは違和感を抱きながらもそう返すと、ミツルは大きく首を振った。


「あいつを取り戻さないと、安心して死ねないからな」

「──あ」

「とはいえ、そんなことは関係なく、俺は取り返す」


 ミツルにとって、唯一の存在であるナユ。他の人では駄目なのだ。


「それでだ」


 ミツルはじっとユアンを見つめた後、口を開いた。


「国はある程度、インターを把握している」

「そうですね。カダバーも登録されていましたし」

「鈍色の男もインターならば、なんらかの痕跡があるような気がするんだ」


 それに、とミツルは続けた。


「ユアン、おまえのかたきを取ってやりたい」

「……敵、ですか」


 ミツルの口からまたもやらしくない言葉が出てきたことで、ユアンは戸惑った。


「敵討ちって……殺す、んですか」


 ユアンの不穏な言葉に、ミツルは大きく首を振った。


「あのな、ユアン。インターが死体を作ってどうするんだ。自作自演なんてやらないよ」

「ええ、是非ともそうしてください」

「……そうだな、簡単に敵討ちといったけれど、どうしたもんかな」


 ミツルはうーんと唸った後、困ったように頭を掻いた。


「反省を促してするようなヤツではないだろうし……だけどだ。あいつをこのまま野放しにしておくと、俺たちインターにとってもよからぬことが起こると思う」

「そうですね。私の両親はあの男に殺されましたが、他にもいるかもしれません」

「インターを殺して回っているインターか」

「はい」


 もしもそれが本当ならば、やはり国はその情報を持っているはずだ。


「それと、ラディクをきちんと登録しないとな」

「そうですね」


 とそこで、ユアンは疑問に思ったことがあったようでミツルに視線を向けた。


「そういえば、ミツル」

「ん、なんだ?」

「国にインターだと登録していますけど」

「ああ」

「インターだというのは自己申告のみなのですか?」


 ユアンの質問に、ミツルは少し考えたあと、うなずいた。


「申請窓口があって、そこにいって所定の用紙に記入するだけだ」

「……それでは、中には自称インターという人物も」

「いるかもしれないが、好き好んで嫌われているインターになりすますってのもどうだろうな」


 インターとして登録したからといって、特になにかがあるわけではない。しかもインターであれば、住所不定ということが多い。


「ところでミツル、あなたは昔からインターだと登録していましたか」


 その質問に、ミツルは首を振った。


「俺はこの本部を作るときに必要に迫られて登録したが、じじいもしてなかった」

「……それでは」

「インターはインター本人でさえ死体がなければ分からない。おまえのような例外は、あそこにはいやしないよ」

「それでは、どうして利益メリットがないのにインターは登録をしにやってくるのです」


 ユアンの疑問に、ミツルはいつもの見慣れた皮肉な笑みを見せた。


「なあ、ユアン」

「なんでしょうか」

「よく考えてみるんだ。おまえもここで働くようになってから登録したよな?」

「……えぇ」

どうして・・・・登録した?」

「どうしてって……」


 ミツルにそう聞かれ、ユアンは一度、言葉に詰まったものの、むっとした表情を浮かべて答えた。


「あなたに登録するように言われましたから」

「仕方がなく?」

「いえ。特に疑問を抱きませんでした」

「ふぅん? それで、ミチは?」


 ミツルは扉の向こうにそう声を掛けると、ミチが入室してきた。


「べっ、別に盗み聞きしていたわけではなくてっ」

「聞かれても問題ない内容だ」

「もうっ! いつ入ろうか悩んでしまっただけよ!」


 唇をとがらせて拗ねた表情をしながら二人の前まで来て、それからミツルを睨み付けた。


「私はかなり抵抗があったわ」

「どうして?」

「だって! インターよ? 普通ではないって烙印を押されてしまったようなものじゃない!」


 ミチの一言に、ミツルはすぅっと目を細めた。ミチはびくりと身体を震わせ、助けを求めるようにユアンを見た。ユアンはその視線を受けて、さりげなさを装ってミチを背にかばう。そのことにミツルは気がつきながらも、続けた。


「ミチ、おまえはインターは普通ではないという認識なのか」

「普通ではないわよ。だって、死体を消せる・・・のよ」


 ミチの一言がすべてではないが、インターが恐れられるのはそこにもあるのかもしれない。


「跡形もなく、よ! それがどれだけ普通ではないのか、あなたに分かるのっ?」

「分からない」

「インターではない人たちが私たちを恐れるのは、私たちの怒りを買って生きながら冥府に送られてしまうのではないかって……」

「おまえは思っていたのか、ミチ?」


 ミツルの質問に、ミチは小さくうなずいた。


「……親にそうやって躾られたの」


 そんな芸当ができるインターなどいないが、しかし、インターが死んでダウディとなると話は別だ。


「なるほど、それもひとつの原因か。実はずっと疑問に思っていたんだ。どうしてインターというだけでこれほど虐げられるのか」


 ミツルもユアンもインターと認識して育った。だからミチと違って、普通を知らない。しかしミチは婚約者が亡くなって初めて自分がインターだと知った。


「生きているインターは生者を冥府に送ることなんてできないよ。それはミチも分かっているだろう?」

「……そうだけど! それはインターだと分かってから知ったことよ」

「インターが死んだ後、死体が放置された場合は話が違ってくる。それが歪められて伝わっているということか」


 とはいえ、インターは殺すなというのは不文律で伝わっている。ミツルも何度か「殺すな」という指示が飛び交う場面に遭遇したことがある。このとき、殴られたり蹴られたりしていた対象はミツルであったのだけど。


「だからっ」


 ミチはユアンの背中にしがみつき、言葉を口にした。


「私は化け物だったって思ったの……!」


 ミツルとユアンは思わず顔を見合わせた。

 二人とも、幼い頃より自分がインターだと自覚していた。

 一方のミチは、インターだと発覚してから数年しか経っていない。だからどちらかといえば、考えはインターではない人に近い。


「ミチが化け物ならば私もそうですし、そこのミツルは魔王級ですよ」

「おい」

「ミツルが魔王……」


 ミチはユアンの肩越しにミツルをちらっと見た後、さっとまた背に隠れた。


「ミツルが魔王ってのは納得だけど」

「おまえまで言うか」

「ユアンは違うわ」

「違わないですよ。私はインターであるとともに、インターを見分けられますよ?」


 ユアンの苦笑した声に、ミチは首を振って否定した。


「ユアンは違う」

「私の両親はともにインターでしたよ」

「……それなら、あなたがインターであっても不思議はないわ。でも、ミツルは違うじゃない」


 ミツルは大きくため息をつくと、諦めたようにそれまでの言葉を肯定した。


「魔王でもなんでもいいから、事務所内でいちゃつくな。仕事中だ」

「あら、嫉妬? 私を振ったのはあなたじゃない」

「……分かった、嫉妬でもなんでもいいから、昨日の続きをしてくれ。俺はラディクと城に行ってくる」

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