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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 インターは魔法使い? それとも化け物?

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02

     *


 ミツルは大きく伸びをして身体に問題がないことを確認して、部屋から出た。一晩ゆっくりと眠ることができたからか、頭が割れそうな頭痛はすっかり治まっていた。

 早くに眠ったからか、まだ陽が出たばかり時間に目が覚めるのは珍しい。窓から差し込み始めた日差しをまぶしいと思いながら、ミツルは事務室へと向かった。こんなにも早い時間にも関わらず、すでにユアンがいた。


「おはよう」

「おはようございます。ところでミツル、体調は」

「あぁ、問題ない。すまなかった」

「問題ないのならいいですけど、この間も道で倒れていたようですし、一度、診てもらった方がいいのではないですか」


 そう言われ、ミツルは顔をしかめた。

 道に倒れていたのはあの鈍色の男のせいだったが、昨日の頭痛は……そうだ、祖母のことを考えて……。

 途端、痛みが復活して、ミツルはきつく目を閉じた。

 いつからだろう、祖母のことを考えると、こうして頭が痛むようになったのは。


「ミツル?」


 ユアンの心配そうな声にミツルは手をあげ、問題ないと示した。


「大丈夫だ。それで、あのあとどうなった」


 主語がなかったが、ユアンにはアランのことだということが分かったので、簡単にやりとりの報告をした。


「ベルジィとアグリスを連れてサングイソルバに向かった……だと?」

「えぇ、そうなんですよ。先ほど出掛けて行きました」


 それがなにかと言わんばかりのユアンの態度に、ミツルは苛立ちを覚えた。

 この間の事件以来、サングイソルバは危険な町だと認識しているミツルとしては、どうしてそんなところに行かせたのかと思ったのだが、ユアンはミツルの表情の変化を見て取り、弁解するように口を開いた。


「あの町はインターを排除しようとしているということでしたので、いくら慣れているとはいえ、貴重なインター二人に危険な仕事をさせるのはどうかと思いまして」

「……俺の親父ならいいとでも?」

「そういうわけではないです。昨日、話をした感じですと、見た目もですが、性格も似ていますよね。ただ、アランさんの方が人生を識っているからか、あなたよりは態度が柔軟でしたけど」

「それで?」

「危険なことを頼んでいるのは私もアランさんも充分に理解しています。そのうえで引き受けるとおっしゃったのです」

「それは俺たちの信頼を得ようとしているからだろう」


 アランのことを擁護していたと思ったのに、いつの間にかミツルまで非難するかのような言葉を口にしていることにユアンは気がつき、苦笑した。


「結局あなたも私たち側なんですね」

「なにを今さら」

「インターが認められる日は遠いですね」

「……仕方がないだろう。意識を変えようと思っても、すぐに切り替えられるわけではない」


 そういったミツルに、ユアンは淋しそうな笑みを浮かべた。


「そう……ですね」

「だけどだ、少しずつだけど、成果は上がっていると思っている」

「はい」


 遅々とした歩みではあるけれど、前進しているのを最近は実感している。


「それよりも、ミツル」

「なんだ」

「おじいさまに育てられたと聞いていたので、ご両親はもう亡くなっているのかと思っていましたが、ご健在なのですね」

「そうだが」


 父も母も元気だが、家族からばかりか、村や町から追い出されたインターたち相手に呑気にそのことを告げられるほどミツルも無神経ではない。


「両親が健在なときに、もう少し親孝行をしておけばよかった……と、今さらながら思うのです」

「おまえは充分に親孝行をしただろう」

「……え」

「おまえの話を聞き、ラディクの両親を見て、どれだけの親が、自分の子どもがインターだからと本心から追い出したのだろうか、と」

「……望んで追い出したわけではないと?」

「そう思いたいと……。らしくないけどな」


 ミツルの答えに、ユアンは今にも泣きそうな表情を浮かべた。


「あなたは……なんだかんだと優しすぎるのですよ」

「そうか?」

「人に興味がないと言っておきながら、あなたはインターを救おうと本部を作りましたし、そればかりか、私やミチ、ノアにベルジィ、アグリス、それにラディクも拾った」

「そうすれば俺が優位に立てるからな」


 ミツルは褒められ慣れていないせいで思わずいつもの調子でそう口にしたが、ユアンはただ、首を振って否定しただけだった。


「自分の子を自分で育てたいと願う者たちにとって、子どもがインターだというのは……辛い出来事だろうな」


 ユリカとアランから、自分たちが育てたかったという話を聞き、ミツルの気持ちはかなり救われた。

 自分は両親に捨てられたわけではなかった、と。


「あぁ、そうか」

「どうしたんですか?」

「おまえたちを拾うのは、自分が捨てられたと思っていたからだ」

「……は?」

「俺もだれかに拾って欲しかったんだな」


 実際はミツルは捨てられた訳ではなかったと分かったのだが、それでもきっと、ミツルはインターを拾ってくるだろう。


「ところで、ミチは」

「まだ寝てます」

「ノアは?」

「ノアもラディクもまだ寝ているはずです。そもそもあなたがこんなに早く起きてくるのが珍しいのですよ」

「あぁ、そうか。そうだったな」


 まだ陽が出てきたばかりだということを思い出し、ミツルは苦笑した。


「俺はもう少ししたら城に行ってくる」

「そういえば昨日、なにか気になることがあると言ってましたが」

「あぁ、そうだ。ユアン、おまえはあの鈍色の男に二度ほど会ってるんだよな」

「そうです」

「鈍色の男はインターだと言っていたが、本当にインターか?」


 ユアンから鈍色の男はインターではないかと聞いたとき、違和感があったのだ。そしてふと、ナユと話をしたことを思い出した。


「俺が道に倒れていたと言っていたが」

「えぇ」

「その前に鈍色の男に会ったんだ」

「……えっ」

「あの男、変な力を使うんだ。たぶんあれは魔法の一種だと思うんだが……」


 ミツルはそう言った後、ユアンを見た。


「インターは魔法を使えない」

「はい」

「もしかしたらだが、インターという地の女神の元へ送る力は魔法なのかもしれない」

「……なるほど、そう考えると、インターが魔法を使えないという理由が分かります」


 ユアンはうなずき、それから首を傾げた。


「ということは」

「おまえの両親は鈍色の男に殺された。これは確かだな」

「はい。ミツルも現場を見たと思いますが、いくら街道沿いとはいえ、道から外れた場所でしたし、あの男以外に不審な人物はいませんでした」

「それに、紫色の光をまとっていたと」

「……昨日も話しましたが、私は紫色の光を見ることはできますが、いつからというのは分かりません。だからあの男が両親を殺したという確証は持っていませんが、状況的にそうとしか思えません」

「両親を殺したかもしれないと思う男を憎いと思わないのか」


 ミツルの質問に、ユアンは泣き笑いを浮かべた。


「憎くないと思いますか? 憎いですよ、殺してやりたいくらい、憎いです。だけどあのとき、あなたに助けられましたし、こう見えても恩を感じているのですよ。それに、私もこのままでいいと思っていません」

「インターの地位向上のために復讐心を押さえていると?」

「そんな立派な理由ではありませんよ」


 ユアンはまだ泣き笑いのまま、口を開いた。


「放浪することに疲れたんですよ。それに、ここにいれば、自分を肯定してもいいと思えるんです。それを捨ててまで探して復讐してやろうと思わないんです」


 それに、とユアンは続ける。


「ここには仲間がいます。両親には申し訳ないと思うけれど、私は仲間の方が大切なのです」



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