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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 盗まれた死体

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07

 ベルジィとアグリスの二人は、半分ほど意識を失っていたミツルを部屋へと運び入れた。

 そして現在、ユアンとミチ、ベルジィとアグリス、そしてノア、アランの六人は事務室にいた。


「え……ミツルの親父なのか?」

「そっくりだな、しかし」

「なかなかいい男イケメンだろう、はっはっはっ」


 そういう言動までミツルに似ていて、いや、逆なのか。ミツルがアランに似ているといった方が正しいのだろう。その様子に周りは戸惑いを隠せない。


「クロス・アランと言って、ミツルの父だ」

「クロスといえば……クロス商会」

「お、よく知っているな」

「クリスタ・ミチと申します。実家にいた頃、何度かクロス商会にはお世話になりました」

「あぁ、クリスタ家の。いつもありがとうございます」


 そういって笑みを浮かべて頭を下げる姿は、ミツルにはない行動だ。その差にも戸惑う。


「……ですが、インターと分かって、家を追い出されましたから」


 ミチの一言に、アランは片眉を上げ、渋面を浮かべた。


「どうして?」

「……インターだから」

「インターだと家から追い出されるものなのか?」


 アランの質問に、この場にいるアラン以外が首を縦に振った。


「どうして?」

「え……どうしてって。私たちはインターだからとしか」


 アランは困惑の表情を浮かべ、見回した。

 そしてベルジィと目が合った途端、ベルジィは目をつり上げて口にした。


「おっさんもミツルを追い出した口だろう?」


 それなのにどうしてここにいる、と言わんばかりの口調に、アランは大きく首を振った。

 アランとしては、ミツルを家から追い出したつもりはまったくなかった。だから心外だった。


「私は、ミツルを追い出していない」

「信じられないわ。だって産まれてすぐにインターであったおじいさまに引き取られたと聞いたわ」

「それは間違いない。しかし、それは母がミツルを奪っていったからで……」

「聞いていた話と違うわ。あなたたちはミツルがインターで持て余したからおじいさまに押しつけたんだと」

「それは誤解だ。私たちは自分たちでミツルを育てる気だった。それを母がさせてくれなかった」


 ミチはミツルから聞いていた話とアランの話が食い違うことに戸惑った。


「だって、ミツルのおばあさまはとても優しい人だって……」

「ミツルには優しかったかもしれないが、母は私には容赦しない人だった」

「…………」


 インターとインターではない家族との温度差というのが存在するということは、インターである彼らは分かっていた。

 ミツルの事情をよく知っているユアンは、ふとしたことが頭をかすめた。


「アランさんとおっしゃいましたか。あなたは商会をやっているということでしたが、ミツルがインターの本部を作って機能しているのを見て、商売になると思ってここに来ましたね」


 彼が商売人であるのなら、その考えの元でやってきたのかもしれない。

 ユアンがそう告げると、アランは目を見開き、強い口調で否定した。


「いや、それは断じて違う!」


 反射的に強く否定したことで余計に疑惑を深めたことになってしまったことに気がつかず、アランは続けた。


「ユリカ……、ミツルの母に手伝うように言われて来たんだ」


 それが事実であれ、この状況でそれを口にすると自分の立場が悪くなるというのに、普段のアランではありえないことを言っていた。

 シン……と異常なほどの静寂が訪れた。

 その静けさを破ったのは、ユアンだった。


「言われないとこられないような場所なのですね」

「や、ちが……っ」


 否定をしようとしたとき、部屋の外でがたりと音がしたため、全員が音をした方へ視線を向けた。

 扉になにかが当たった音がしたので、近くにいたユアンが開けると、部屋で休んでいるはずのミツルが扉にもたれ掛かっていた。


「ミツル……?」


 まだ調子が悪いのか、肩で息をしながら室内を見回した。それからじっとユアンに視線を定めた。


「ユアン」

「……はい」

「おまえまでそういうことを言うのか」

「……え」

「俺たちインターはインターだというだけで拒否をされているけれど、それは俺たち自身のせいでもあると思ったことはないか」

「…………」

「俺たちがいないとこの国は死者の国になると、傲慢に思っていないか」


 ミツルの言葉にユアンだけではなく、アランを除いた全員がうつむいた。


「ま、そう言いながら俺が一番そう思っているわけだが」

「ミツル、あなたという人は」

「だけど、向こうが拒否するからといって、こちらも跳ね退ければ、溝が埋まるどころか距離ができるばかりだよな」

「……はい」

「俺はここを造るとき、そこにいる俺の親父に金を借りた。その本人が手伝うって言ってるんだ。借りた金を自ら稼いでくれるのなら、それでいいと思うぜ。インターが商売になるのなら、大いに結構。してもらおうじゃないか、なあ?」


 そう言ってミツルは痛む頭を押さえながら不敵に笑った。


「ということで、とりあえず親父を客室に案内してくれ。俺は休む」

「……あ、はい」


 ミツルはそれだけ告げると、壁に手を突きながらふらふらと去っていった。

 事務室に残った者たちは顔を見合わせ、それから一斉にアランを見た。アランは怯むことなく全員の視線を受け、それから笑った。


「はははっ、これはやられたな」

「……そうですね」

「あいつ、この間、殊勝に返しにきたけれど、あれで返済は終わりという意味だったのか? 借金を踏み倒すつもりか」

「…………」

「よし、決めた!」


 アランはそう口にして、ぱんっと両手を叩いた。


「商売の種になるのかならないのか、しばらくここにいて見極めようじゃないか」

「え」

「なるほど、そういうことか」


 アランは一人でなにかを納得していたが、周りはなにがなんだか分からない。ぽかんとした顔でアランを見ていることしかできない。


「私の父、ミツルからすれば祖父になるが、インターだったというのは知っていると思うが、そのせいで色々と言われて来たのだよ。だからそれが悔しくて、見返してやるために商会を作った」


 その一言にユアンは眼鏡を取り、じっとアランを見た。アランの周りには、インターであれば見える黄色い光は見えなかった。


「あなたはインターではないのですね」

「……え、あぁ、そうだが。なに、君もインターを見分けることができるのかい」


 アランの一言に、ユアンだけではなく全員が目を見開いた。


「君も、とは……?」

「あれ、ミツルから聞いていないか? 私の母……ミツルの祖母はインターを見分けることができたって」


 その話は初耳だったので、全員が同時に首を振った。


「あれ、そうなのか。ミツルは知らなかったのかな……。それとも、これは秘密の話だったのか?」


 アランは眉間にしわを寄せ、うーんと唸った後、


「ま、いいか。祖母はもう亡くなっているし」


 とあっけらかんと言った。


「私の母はインターを見分けることができたんだ。インターはみんな、黄色い光をまとっていると、生前に聞いたことがある」

「……同じです」

「ほう?」

「それで、あなたは」

「残念ながら、だれもそのその見分ける能力は引き継いでいないみたいだ」

「そうですか、残念です」


 といったユアンの口調は少しも残念そうに聞こえなかった。

 それはアランも気がついたようで、少し笑って続けた。


「後から知ったんだけど、ミツルはお腹の中にいるときから金色に光っていたそうだ」

「金色に……」

「父も金色に光っていたという話だったんだが、前から不思議に思っていたのだけど、それはなにか違いがあるのかい?」


 アランの質問に、ユアンは大きくうなずいた。


「インターの力の差です」

「……力の差」

「ところであなたはミツルが地の女神の元へ送るのを見たことがありますか」


 ユアンの質問に、アランは首を縦に振った。


「母が亡くなったとき……あれはなんというか、悲惨な事故だったのだが」

「……事故?」

「そう、事故だった。ミツルからは」

「聞いていません」


 ユアンの返事に、アランは眉をひそめた。

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