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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 盗まれた死体

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06

 城とやりとりをして、かなり強引に王と謁見させてもらい、脅しに近い言葉でこの土地を無料提供させたことを思い出し、ミツルは思わず苦笑する。


「これだけ広いと、私ひとりくらいならここに住むことも可能だよな」

「……は?」

「ミツル、おまえが帰った後、ユリカが大変だったんだ」

「え……母さんになにが」


 ミツルのその一言に、アランは渋面を浮かべた。

 最近、かなり落ち着いていたと思っていたユリカが前以上に取り乱していたのはこれが原因かと、思わず恨みに近い視線をミツルに向けていた。


「私のことは『アラン殿』と相変わらず他人行儀なのに、ユリカは『母さん』か。なるほど、それで私にここに来て手伝うようにと言ってきたのか」

「……え?」

「今日、ここに来たのは他でもない、ユリカの頼みだからだ」


 アランの意図がまったく分からないミツルは、眉間にしわを寄せてアランを見た。


「前に手伝わせてほしいと伝えたと思ったが」

「……はい」

「あれから私も考えたのだよ。商会の仕事は三人に任せた。あれがつぶれようがなにしようが、私の手から離れたからどうでもよいというのが今の気持ちだ」


 そういう発言を聞くと、ミツルはクロス家の人たちと過ごした時間は短かったけれど、嫌でも似ている部分を知ることになり、複雑な気分になった。

 ミツルもそういう部分が大いにある。これは父に似ているのかと分かり、ちょっとうんざりした。


「そうすると手が空く。暇な時間を潰すために軽い気持ちで手伝うと言ってしまった。それを見透かされて、おまえにはばっさりと断られた」

「……いや、本当にインターというだけで」

「その話を聞いたとき、私はにわかには信じられなかった。だから聞いて回った」


 そうしてアランは渋面を浮かべた。


「想像以上にひどかった」

「……まあ、うん。死んでないだけマシだけどな」

「殺さない程度に痛めつけるのが当たり前になっている風潮にはらわたが煮えくりかえって仕方がなかった」

「俺たちがいるから死ぬらしいからな」

「違うだろう! 人はだれしも死ぬ。だからこそ、インターがいる」

「人が死ぬのは原罪のせいらしいからな」

「その原罪はインターのせいではないだろう!」


 ミツルがずっと思っていたことをアランが口にしてくれた。

 その一言でどれだけ気持ちが救われたか、きっとアランは分からないだろう。思わず涙ぐみそうになりながら、ミツルはそれでも皮肉を続けた。


「俺たちの存在は気持ちが悪いそうだ」

「なぜ」

「死体を消すことができるかららしい」

「そうしないと……」

「動く死体になると? 確かにそうだな。後はまあ、俺たちは死んでしまった愛する人を奪っていく憎い存在でもある」

「そうしないと、この国は動く死体だらけになって、私たち生者は生きていけない」


 アランのその一言に、ミツルは口角をあげて笑った。


「そうだよ。だれもがそのことを知っている」

「それなのに、どうして」

「怖いからだよ。だれも逃れることのできない死に恐怖している」


 ミツルの一言に、アランは黙った。


「死からはだれも逃れることができない。その逃れることのできなかった死を受け、死体が発生する」


 アランも今まで何人もの人と死別を経験した。それは慣れることなく、親しければ親しかっただけ、悲しみが深くなる。


「愛する人を失った生者から、インターはそれを奪っていく。悲しみ、理不尽さ、憎しみをぶつけるのにインターはうってつけの対象なんだよ」


 人が死んだ後、どれだけ迅速に地の女神の元へ送れるか、というのはウィータ国ではかなり重要だ。死体が残っていれば、それだけ土に触れる機会が増える。死体に土が一粒でもつけば、それは動く死体になってしまい、騒動を収拾するのに大変な労力が掛かってしまう。


「私は今まで、父がインターであったのにも関わらず、私自身がインターではなかったため、インターがなにかということを考えてこなかった」


 アランのその一言に、ミツルは前から疑問に思っていたことを口にした。


「アラン殿は、じいさんがインターだってことでいじめられることはなかったのか」

「……あった。だから余計にインターについて考えないようにしていた」


 それに、とアランは続けた。


「ずっと父……おまえにしてみれば祖父だが、父がインターというだけでひどく馬鹿にされた。それが悔しくて、馬鹿にしたヤツらを見返してやろうと勉強を頑張った。それだけでは気持ちが治まらなくて」

「それでクロス商会を?」

「そうだ。あいつらは父のことを馬鹿にした。力がないから馬鹿にされると気がついて、見返してやるために商会を作った。それはかなり大きくなった」


 アランの原動力は自分の親がインターだと言われ、馬鹿にされたのが悔しかったからだという。それはミツルがインターの本部を作ろうと思った動機とひどく似ていた。


「私は父がインターだということに対して負い目はなかった。だけど世間はそうではなかった」


 それはユリカとの結婚が顕著だったという。


「ユリカとの結婚は、予想どおりにユリカ側の親族が大反対をした。だから私はユリカと……いや、結婚自体を諦めていたのだが、父はなぜか赦してくれなかった」

「……え?」


 思っていなかった言葉に、ミツルは目を見開いた。


「一族にインターがいると、その親族はインターが出やすい家系となる。インターがいないと困るのは生者だというのに、インターを排出することを嫌うという矛盾した心理。インターがいないと困るということは父はいたいほど知っていたようで、私にはなにがなんでも結婚をさせるつもりだったようだ」

「……………………」

「父と母はユリカに私との結婚の前になにかお願いをしたようだ」


 その願い事というのは、必ず子を作り、インターを産むようにだった可能性が高い。そうでなければアランが『結婚をしない』と決めたとき、反対するとは思えなかったのだ。

 そしてユリカはアランと結婚して、子どもを産んだ。上三人はインターではなかった。きっと上三人のだれかがインターであれば、ミツルは産まれることがなかったかもしれない。


「その願い事がなんであったのか、ユリカは私にさえ話してくれない。そして……おまえが産まれ、母がすぐにミツルはインターだと言って、引き取った」

「あ……ばあさんが?」

「あぁ、そうだ。ミツルが産まれたと聞いた母はすぐに来てくれて、それから涙を流しながら『眩いくらい金色に輝いている。これであの人も安心して死ねる』と」

「……………………」


 アランのその一言に、ミツルは小さく頭を振った。

 ユアンからインターが忌み嫌われる理由を聞いたとき、ダウディという言葉を口にしていた。祖父の口から一度、その言葉を聞いたことがあった。

 ……ということは、祖父はインターが死んだ後、どうなるのか知っていたのだ。だからこそアランにどうあっても結婚させて、子どもを作らせたとしか思えない。


「それよりも、アラン殿」

「おまえはいつまで私のことを名前で呼ぶのか。ユリカを母さんと呼ぶように、父さんとは呼んでくれないのか」

「……あ、いや。その……アラン殿は俺がインターであることは」

「あぁ、気にしているのか? おまえがインターであろうがなかろうが、いや、むしろおまえがインターであることで要らないものを背負わせてしまった負い目が私にはある」

「…………」


 だから、とアランは続ける。


「いまさら虫がいい話かもしれないが、父さんと呼んでほしい」


 ユリカだけでなく、アランもミツルの父であるときちんと言葉にしてくれた。

 それが嬉しかった。


「それでは……父さん」

「うむ。なんだかこそばゆいな」


 それはミツルも同じ気持ちだった。

 同じ表情で向き合っていると、やはり鏡を相手にしているような気分になってくる。


「……で、その、ばあさんのことなんだが」

「ん、ああ。なんだ」


 ミツルが祖母について覚えているのは、いつも控えめに祖父の後ろにいて笑っていたことくらいだ。それ以上の祖母の記憶があるはずなのに、思い出そうとするとなぜかひどく頭が痛む。

 ミツルはそのいつもの症状が出てくるのを自覚しながら、こめかみを押さえながらアランに質問した。


「ばあさんは、インターかどうか分かったのか」


 そう口にした途端、今までにないほどの痛みが頭を襲った。耐えきれず、頭を抱えると崩れ落ちた。

 そばにいたアランは、そんなミツルに慌てて駆け寄り、倒れ込まないように支えた。


「おい、ミツル!」


 その声は玄関広間だけではなく、階上にも聞こえたようだった。

 階段に一番近い部屋にいるユアンの耳に届いたようで、飛び出してきて、階下を見て──ミツルが二人いることにまずは驚き、ついでうずくまっているミツルを見つけ、ベルジィとアグリスの部屋の扉を強く叩いた。


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