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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
三部*一章 消えたナユ

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07

     *


 両手を広げた少年にミツルは視線を向けた。顔だけではなく、服の隙間からのぞく手足にも殴られたような跡が見えた。しかも服のあちこちに血が飛び散っている。あまりの痛々しさにミツルは顔をしかめた。


「そのけがは?」

「これは変なガキにやられた」


 変なガキと言われ、やはりミツルは嫌な予感しかしない。


「妙に耳障りな甲高い声のガキか?」


 ミツルの質問に、三人が同時にうなずいた。

 そんな特徴的な人物が二人も三人もいたらたまったものではないから、サングイソルバのあの団長と確定して問題ないだろう。


「そいつはほかになにか言ってなかったか」

「そいつが! エストの身体を持っていったんだ!」

「エストとは、亡くなった人か?」

「そうだ」

「なるほど。……同じヤツだと思うんだが、シニクスでも死体を盗まれた」

「ええっ?」


 三人と小屋の中にいるイルメラの驚愕の声にむぅっとミツルは呻き、それから中にいるイルメラに声をかけた。


「イルメラは甲高い声のガキを見たのか」

「いえ、ここについたらすぐに小屋に案内されて、しばらく隠れていてほしいと言われました」


 イルメラが村に到着した時点ですでに団長はここに来ていたということになるのだが、シニクスとリティラで人が亡くなったということをどうやって知ったのかという疑問が出てきた。

 いや、それよりも、どうして死体を盗んでいくのか。


「ところで、そいつは一人だったか?」

「いえ、複数人でしたけど、様子がおかしかったです」

「様子がおかしいとは?」

「それが、ガキの後ろにぼうっと突っ立っているだけでして、ですがガキの命令には大人しく従ってるって感じで……」

「あと、すっげー臭かった!」

「臭い?」


 その意味するところが分からなかったが、死体はその気持ちが悪い集団が無言で運んでいったという。


「どちらにしても、あいつらから死体を取り返して亡くなった人を地の女神の元に送らなければならない」

「……そうですね」


 そうと決まればここにいつまでもいても仕方がない。ミツルはフードを改めて深く被り直すと、村人三人を一瞥した。


「それでは、俺たちは盗まれた死体を取り戻しにいってくる。イルメラ」

「はい」

「行くぞ」


 名を呼ばれたイルメラは小屋から出る前にミツルと同じようにフードを被り直した。扉を開けて出ようとしたところでイルメラをここに連れてきた人物が口を開いた。


「少しこの件とは別でお願いしたいことがありまして」


 それはインターだという少年の件だろうか。

 ミツルは盗まれた死体探しにこの少年を連れていくつもりであったのだが、ミツルが今までに遭遇してきた状況と違うように感じて少し疑問に思っていたのだ。


「うちはすぐそこですから」


 という誘いにミツルは焦る気持ちがあったものの、素直に従うことにした。


     *


 イルメラを小屋へ隔離してくれたのはこの村の村長だった。そして団長と思われる人物に殴られたインターだという少年は村長の息子。

 村長の家に案内されて中に入っても、ミツルとイルメラはフードを取ることはなかった。コロナリア村でフードを被っていなかったのは、本部でナユに会ってその勢いのまま行ったからだ。いつもどおりであったならば、村に入る前に被っていただろう。

 二人がフードを外さないことを特に気にする様子もなく、村長は口を開いた。


「大きな声では言えないのですが、実はこの子がインターだというのはわたしも妻も知っていまして、でも、唯一の息子ですので黙っていました」


 インターだと言っても、見た目は普通の人となんら変わらない。ただインターの持つ力のせいなのか、普通の人たちより死に遭遇しやすいのと、インターが死んだときに厄介だというだけだ。それもきちんと対処すれば問題ないものだとミツルは思っている。


「いつ分かった?」

「三年前の流行病のときに」


 ベルジィたちもあの流行病で自分たちがインターだと発覚したという話だった。

 あの流行病はいろんな人の人生を狂わせたということかとミツルは遠い目になりそうにだったが、今はそれどころでなかったから、質問を重ねた。


「この村にほかにインターは?」


 という質問に、村長は首を振った。三年前の流行病のときにインターだと発覚した人たちは追い出されたのか自主的に出て行くかしたのだろう。


「それで、彼がインターだというのを知っているのは」

「わたしと妻だけでしたが……」


 村長はそれだけ言うと、深いため息を吐いて黙った。

 さっき、少年が来たとき、ミツルにだけ聞こえるように告げた言葉を思い出す。

 村長は息子がインターだとばれないように死体には近寄らせてないはずだ。だから本来ならば、彼がインターであるということはバレないはずだった。ところが、団長はなんらかの手段でインターが分かるという。

 ユアンはインターが分かると言っていたが、団長もそうなのだろうか。

 と考えて、いや、それはないと思い返した。

 サングイソルバでミツルのことをインターだと指摘した人物は団長ではなかった。団長がミツルをインターだと見抜いた場合、団長の性格からして他人に指摘させるとは思えない。

 ということは、団長にユアンのように見分ける力があるわけではないということになる。それでは、自警団員の中にインターを見分けられる能力を持った人物がいるとしたら?

 なんだかそれも違うような気がしたし、あの町で騒動に巻き込まれてからこちら、ずっとなにか引っかかるものがあったのだが、それがなにか分からない。そのなにかを見落としているようで、苛立ちが募る。


「それで」


 村長の声にミツルは思考の海に沈みそうになっていたのを引き戻された。

 そうだ、今は死体を盗んでいったあのガキを追いかけているところだった。

 ミツルは頭を切り替えて、村長に向き直った。


「甲高い声のガキの他に複数人いたということだが、もう少し詳しく教えてもらえないだろうか」


 ミツルの問いかけに、村長は思い出すように宙を見つめた後、慎重に言葉を選びながらミツルとイルメラに、騒動が始まって先ほどまでのことを話してくれた。


 エスト──この村で生まれ育った老人──は、数日前から体調が優れず、床に伏せていたという。

 彼はあの流行病の時に妻と子ども、そして孫も亡くしていたけれど、亡くなった人たちの分まで生きるとその一心で頑張っていたという。


「エストはおれのことを孫だと思っていろいろ面倒を見てくれていたんだ!」


 とは村長の息子。


「エストの孫とこの子は歳が近くて、仲がよかったんです」


 体調が優れない老人エストの世話を、今までの恩返しと称して村長の息子がしていたという。


「それでおれ、エストが急に苦しみだして……そして」


 そのときのことを思い出したのか、村長の息子は急に震えだした。


「エストがおれに手をさしのべて……でも、なんかわかんないけどおれの中から変な感じのものが溢れてくるような感覚があってそれが怖くて、震えているうちにエストはそのまま寝具の上で力つきた」


 それを見て、エストの命が尽きたことを知った村長の息子は自分の中からあふれ出しそうななにかも怖くて、エストの家を飛び出して村長にエストが亡くなったことを伝えたという。


「……エストが亡くなったら、おれが地の女神の元に送ってやるって心に決めていたのに、それをしないで、そればかりか、苦しんでいたエストの手を取ることもしないで、ひとりで淋しく死なせてしまった」


 村長の息子の述懐に、部屋の中が静まりかえった。

 ミツルには村長の息子がいう怖さがなにか分からなくて、首を傾げた。


「おれがすぐにエストを地の女神のところに送っていれば、エストの身体は盗まれなかった……!」


 村長の息子のその一言に、部屋はしんと静まり返った。




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