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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
三部*一章 消えたナユ

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03

 ミツルは自分を騙し、どうにか眠りに就くことはできた。

 とはいえ、何度もナユの夢を見て飛び起きるというていたらく。

 ──ようやく見つけたと思ったら、あなただれ? と言われてしまう夢に、探しても探しても見つからない夢。あるいは、死んでしまったばかりか、動く死体になって、さらにはルドプスになり、ユアン、ミチ、ノア、ベルジィ、アグリスを殺していき、真っ黒になってしまう……。

 もしもそんなことになってしまったら、ミツルは果たして、ナユを冥府へ送ることはできるのだろうか。

 どんな形であれ、ナユがいてくれればいい──。

 そう願ってしまう自分に身震いした。

 愛する人が死んでしまう。それだけでも悲しいのに、インターは愛する人を奪っていく。

 好きな人ができて初めて、ミツルはその辛さを身をもって知ることになった。

 だからといって、死体をそのままにしておくのはもっと悲劇を生む。

 死体が土に触れてしまったら、動く死体になってしまう。動く死体は本能に従い、仲間を作っていく。

 そうなると、動く死体にはなんの罪がないのに恨みを買ってしまう。負の連鎖を断ち切るのがインターだというのは分かっている。

 だけど。

 もしも好きな人ナユが死んだら、ミツルはナユを地の女神の元へ送ることができるのか。

 答えは──そのときにならないと分からない、としか今のミツルには答えを出せなかった。

 祖父が亡くなったときは迷うことなく送ることはできた。悲しかったけれど、それよりもこれが自分の使命だと自負を持って対応した。

 あまり他人に興味のないミツルではあるけれど、祖父のことは尊敬していたし、好きだった。その相手を悲しみにのまれることなく送ることができたことでミツルはさらに自信を持ったのだが。

 ナユのことを好きだと自覚してからこちら、その自信はもろくも崩れ去っていた。

 死体があればインターとしての役割を全うする。それはほぼ本能と言っていいだろう。

 しかし、ナユのことになると話は違っていた。

 考えたくないけれど、ナユの死体を目の前にしたとき──。

 とそこまで考えて、ミツルは頭を振った。

 まだ来ていないもしもを今から考えたって仕方がないのではないか、と。

 だけど、そのときが来てから考えるなんて悠長な時間があるとは思えない。

 好きな人ができた時点で、いや、好きな人ができる前にその覚悟をしておかねばならなかったはずだ。

 覚悟もなにもないまま、ナユを好きになった。

 だけど、と思う。

 前もって覚悟があれば割り切って地の女神の元へと送れただろうか。

 覚悟があろうがなかろうが、送れるわけがない。

 祖父は、祖母を亡くしたとき、どうしていただろうか。

 ──と考えて、思い出した。

 そうだった、祖母が亡くなったのは──。

 そこまで考えて、ミツルの頭がずきりと痛んだ。思い出そうとしたら、頭がずきずきと痛む。どうしてだ。

 祖母が亡くなったのは、あれは……いつ、だった?

 祖母はとても優しい人で、それでいてインターに対して偏見も持っていなかった。むしろ誇りに思っていいとミツルに何度も言い聞かせてくれた人だった。

 祖父と祖母の馴れ初めは聞いていないけれど、二人は誰が見ても羨むほどに仲睦まじかった。

 しかも祖母の人徳なのか、祖父がインターであったにも関わらず、大した差別は受けてこなかったように思う。

 その祖母の死を思い出そうとしたら、どうしてこんなにも頭が痛むのだろうか。

 ミツルは分からなくて軽く頭を振ると、寝台を離れた。


 ミツルは毎日、目が覚めたら起きるという、大変適当で怠惰な日々を送っていた。

 というのも、インターというのは職業ではなく、ましてや仕事でもない。持って生まれた能力であるので、なりたくても力がなければなれない。──忌み嫌われているものに好き好んでなりたがる物好きはいないだろうが。

 なので、依頼があれば駆けつける。なければ待機。請われてすぐに動けるのなら、寝ていようがなにしていようが基本は問題ない。

 規則正しく寝起きしないと調子が悪くなることもないし、そんなかっちりした性格でもない。決まりがなければだらける。それに、今まで、これで困ったこともないし、だれかに指摘もされていない。だからミツルは改めようとしていなかった。

 しかもだ、こうして本部を設置していても、人が亡くならない限り、用のないのがインターだ。

 少しずつ浸透してきてはいるものの、本部があるのを知る人も少ないのもあり、ここに直接、依頼があるのはまだ少ない。だからずっと待機なのだし、特に何かしなければならないわけでもないから、基本は自由だ。だからミツルは予定が入っていない限り、日々を適当に過ごしていた。


 そのミツルが、陽も昇らないうちから起き出して、インターの本部内をごそごそと動き回っているのだ。

 ミツルとは違って規則正しい生活を送っているユアンは、いつも通りに事務室へと向かってミツルがすでに仕事を始めていたことに驚きの声を上げた。


「どうしたんですか、ミツル? やっぱり昨日、倒れたときに頭を打ちましたか?」

「あのな」

「駄目ですよ、拾い食いは」

「いや、だから」

「あぁ、その辺りの書類はまだ触らないでくださいね。今日、処理する予定のものですから」


 書類、と言われてミツルの動きは止まった。

 そうだ、ナユにはここで事務の手伝いをしてもらっていた。もしかしたら、なにか残っているかも。


「おい、今まで処理した書類は」

「……はい?」

「半年……そこまで前のは要らないか。ここ一ヶ月の書類」


 ミツルの突然の申し出に、ユアンは訝しく思いながらも、処理日別に仕分けておいた書類の束の在処を指さした。ミツルは無言で束を引き抜き、無造作に開いた。

 ぱらぱらとめくると、そこには見覚えのある文字。書き慣れていないというのが一目で分かる特徴的な文字に、ミツルの頬は思わず緩んだ。

 クラウディアの元で働くようになってから文字の読み書きを習い始めたと言い訳がましいことを言っていたが、コロナリア村でのナユの生活を想像すればそれは事実かもしれない。村では、その日の食べ物さえ困っていたと言っていた。生きていくだけで手一杯だったのだろうし、極端な話、しゃべれさえすれば問題なかったのだから、金と時間のかかる読み書きを習うなどしていなかったのだろう。

 それを考えれば、祖父母はミツルに手間暇掛けてそれらのことを根気よく教えてくれていたのだなと、今更ながら感謝の念が沸いてきた。

 特に祖母は──。

 そこまで考えて、またもやずきりと頭が痛んだ。

 祖母のことを思い出すと、どうしてこうも頭が痛むのだろうか。


「ミツル、そんなに難しい顔をして、なにか見つけましたか?」


 ユアンの声にミツルは見ていた書類から目を外した。

 開いた場所をじっと見つめていれば、そう思われても不思議はない。むしろ、なにかあったのではないかと思われてしまう。


「この書類を作ったのは誰だ?」


 ナユはいたはずなのに、だれもが知らないと言い、ミツルの記憶の中にしかいない。そうなると、ミツルの妄想だったのではないかと思っていたが、しかし、こうして証拠が残っている。だからユアンにそう聞いたのだが。


「なにか不備でもありましたか」

「……いや」


 そう返されると、それ以上はなにも言えなかった。


「そこの書類は特に難しいものはないですよ。ここ数ヶ月、インター本部に依頼のあった記録だけですから」


 そう言われ、閃いた。ナユはコロナリア村の件の時、ここに駆け込んできた。その後処理でユアンが書類を作っていた。ミツルはそれが入った束をたまたま手にしたようだ。

 ユアンは数ヶ月と言っていたが、書類の束はそれほど厚くない。やはり、それほど依頼がないのだろう。

 ミツルは一枚ずつめくって確認していく。

 そして、何枚かめくったところで件のコロナリア村での騒動の書類を発見した。

 他の書類は一枚紙だったのに、これは複数人が亡くなったのと事件性があったのと合わせて、数枚にわたっていた。

 書類には、神経質そうな文字。ミツルにはそれがすぐにだれの筆跡によるものか分かった。ユアンの字だ。

 ミツルはその書類を、思わず舐めるように見た。

 依頼者の名前はヒユカの後ろはなぜか滲んで文字が消えていた。


「おい」


 ミツルは顔を上げて、ユアンを睨みつけた。目が据わっているのが自分でも分かった。

 ユアンもこういうときのミツルのあしらい方を知っているだけあり、すぐにやってきた。


「ここ」


 ミツルはなぜか滲んでいる書類に指を指し、それからユアンを射抜きかねないほどの強い目線を向けた。


「どうして滲んでいる」


 ミツルに言われ、ユアンはミツルが指す先を見つめた。

 書類を片づけるとき、間違いや不備がないことを確認してから挟み込んでいる。ここに挟まれているということは、挟んだ当時は問題がなかったことを意味するのだが。


「……おかしいですね」

「おかしいでは済まないだろう。他の書類は?」

「問題ないはずですが」

「はずでは困るだろう!」


 ユアンの一言にミツルの苛立ちが最大になった。


「書類の再点検を全員でしろ!」


 事務室内にミツルの怒声が響いた。



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