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06

 ユアンは唇を舐めると、口を開いた。


「改めて質問します。人が死にました、周りに土はなく、動く死体になる心配はまったくありません。しかし、近くにインターはおらず、死体はそのまま放置されてしまいました。時間が経ったらその死体はどうなるでしょうか」

「今の話によれば、腐るというのが正解か?」

「はい、そうです。……といっても、私も死体を腐らせたことはないので憶測ですけどね」


 だれにも気がつかれずに死んでしまい、朽ちていく死体。その様子は想像が難しかったが、ずいぶんと淋しい光景のような気がした。


「それが普通の人ならば放置していても問題はないのです。ここで問題なのは、インターが亡くなった場合です」

「インターだと問題なのか?」

「大問題ですよ」


 なにが問題なのか見当もつかず、ミツルは他の人たちに視線を向けたが、首を振られた。しかし、ノアは知っているのか、辛そうに目を伏せた。


「ノアは知っているのか」

「はい、知っています。一度だけ、インターの死に目に遭いました」

「そのときはどうなりましたか」

「かなり時間が掛かりましたけど、どうにか地の女神の元へ送ることができました」

「特に問題はなく?」

「問題はありましたけど、どうにかって感じでした」

「その問題ってのはなんだ」


 ユアンとノアのやりとりを黙って聞いていたミツルは、ノアに質問をした。ノアは困ったように笑みを浮かべた後、答えた。


「相手がインターだからなのか、地の女神の元へ送るのを拒否されたのです」

「拒否……?」

「拒否というか、抵抗と言った方が適切かもしれません」

「抵抗される……?」


 そう言われ、ミツルはなにか思い出したようだった。ああ、そういうことだったのか、と呟いた。


「じじいが亡くなった後、地の女神の元へ送ろうとしたんだが……なんかこう、いつもと手応えが違っていたんだ。あの時はじじいが死んだことが悲しくてきちんと力が出せてなかったのかと思っていたんだが……。抵抗と言われてみればそうだな」

「強い抵抗があってこちらがぼろぼろになるほどでしたけど……本部長は?」

「そこまではなかったな」

「やはりミツルは規格外、と」

「をい」

「僕は見知らぬインター相手でしたし、相手の方がそれほど強い人ではなかったのでどうにかなりましたけど、かなり手こずりました」

「私は両親を同時に二人でしたからね。ぼろぼろになって、ミツルに助けられて、ミツルに両親を託したので後は分かりません」

「あの二人はおまえの両親だったのか」

「はい」

「……ひどい惨状だったが、あれはおまえのせいか?」

「いえ、違います。話が逸れまくりましたけれど、ここであの鈍色の男が再登場します」

「ずいぶんと唐突に繋がるな」

「はい、そうなんですよ」


 鈍色の男とインターが迫害される理由が繋がらなくて、ミツルはユアンを見た。


「誘拐されてから数年後にまたその誘拐犯に出遭うとは思わず。しかし、今度は私ではなく、両親が遭遇しました」


 どういう経緯で両親と鈍色の男が出会ったのかは分からずじまいだったという。しかし、ユアンが見たのは……。


「鈍色の男の足下に両親二人が倒れていました。男は私に気がついていながら、笑いながら去って行ったんです」


 ユアンは驚き、二人に駆け寄ったけれど……。


「すでに二人は事切れていました。どうして二人が死ななければいけなかったのか、分かりません。だけど去って行く男の周りに一瞬だけ紫の光が見えました」

「紫の……」

「はい、冥府の色ですね。だけど、そういう色が見えるのはインターだけでしたから、私は鈍色の男もインターではないかと推測しました。そして昔、聞いたことがあったのです。インターを殺して回っているインターがいると」

「なんっすか、それ」


 それまで黙っていたベルジィが口を挟んできた。


「インターがインターを殺すって……そんなこと」

「あり得ないと思いたいのですが、中にはいるのです。はぐれインターと呼ばれているのです」

「はぐれインター……」

「私は悲しいと思いながら、理不尽な死に襲われた両親二人を地の女神の元に送ろうとしたのですが……」

「抵抗されたのですか」

「そうです。ひどく抵抗されて……必死に地の女神の元へ送ろうとしたのですが、そのうち、その抵抗が強くなってきて、私はずたぼろになり、私の手に負えないと分かって……私は両親をその場に捨てて逃げました」


 しん……と部屋が静まり返った。


「とそこへ俺がたまたま通りかかって、ユアンを保護した。もうろうとするユアンからどうにか二人のことを聞き出し、まあ確かにひどいことにはなっていたけれど、問題なく地の女神の元へ送れたが……」

「私が会ったのが規格外のミツルでよかったと思いました」

「をい」

「あのまま両親を放置しておいたら、あのあたりは冥府の入口になっていましたから」

「……は?」

「インターが死ぬと厄介だって聞いたことはありませんか」


 それはここにいる皆が聞いたことのある言葉だった。


「インターは殺すなと言われたな」

「だけど、だれもどうしてインターを殺してはいけないのかは知らないんです。そしてこれが、インターが忌み嫌われる理由なのですよ」

「インターが死んだらそこが冥府の入口になるのがか?」

「はい。しかも生きている人たちまでもが冥府送りにされてしまうのです」

「…………」


 自分がインターだと知れば、インターであるということを隠して生きていく。

 それにはインターが忌み嫌われているからだったが、どうしてそうやって嫌われているのか、インター自身も知らない。

 しかし理由を知れば、忌み嫌われていなくても人から離れて生きていかなければならないと分かってしまう。


「ダウディというそうです」


 とそこでふとミツルは気がついてしまった。


「ユアン、ちょっと待て。おまえはさっきから俺に何度もしつこいくらい規格外と言っていたが」

「はい」

「もしかしなくても……俺が死んだら、どうなる」

「だれもあなたを地の女神の元へ送れなくて、大変なことになるでしょうね」

「…………」

「ですから、ミツル。あなたは本部長であると同時に、死んだ後、とんでもないことになるので、死なないでくださいね」

「や……まあ、分かったが。だが、生きている限り、いつかは死ぬが」

「それまでに後継者を作ることですね」

「……なんだそれは」

「あなたのその規格外の力を受け継いだ人物に、地の女神の元へ送ってもらえば問題ないですよ」

「じゃあ、頑張ってナユちゃんをくどき落とさないとねー」

「…………」

「ふふふふ、すっごく楽しみだわー」

「ねーさん、黒いっすよ!」

「いい女を振った罰に決まってるじゃない?」

「なんですとっ! アニキはねーさんを振ったんっすかっ?」

「ええ、そうなのよ。この幼女趣味ロリコンが!」


 ミチの罵りにミツルは反論しようとしたが、扉が開く音で言葉をのみ込んだ。


「お疲れさまーっ」

「あれ、ナユちゃん。今日はお休みだって聞いてたけど、どうしたの?」


 それまでミツルをもてあそんでいたミチはナユの登場に満面の笑みを浮かべて近寄っていった。

 ナユはミチを見て、すたすたと近寄るといきなり抱きつくなり、その豊満な胸に顔を埋めた。ミチは少し驚いたが、ナユにされるがままになっていた。


「どうしたの、ナユちゃん。そこの朴念仁ミツルにでもいじめられた?」

「朴念仁……」

「ミツルが意地悪なのは今に始まったことじゃない」

「ナユ……おまえ」

「ミチさんの胸に癒されに来ただけです」


 ミチの胸の間に埋まって柔らかさを堪能しているナユの首根っこをミツルはむんずと掴むと、ぺりっとはがした。

 むにむにと楽しんでいたナユは引きはがした人物を睨み付けた。


「なにすんのよ」

「なにすんのはこちらが言いたい。いきなり入ってくるなり、ミチの胸に顔を埋めるな」

「いいじゃない、減るもんじゃないし」

「ミチの胸に顔を埋めたらおまえの胸は増えるのか?」

「う……」

「そんなに胸がほしいのなら、ほら、いくぞ」


 そういってミツルはナユの身体を担ぎ上げ、歩き始めた。


「話は以上だよな?」

「あ、ミツル! まだ話は半分しか聞いていませんよ!」

「分かった。ちょい休憩に入ろう。また戻る」


 そういうとミツルは大股で部屋を出て行った。

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