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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 港町・ルベルム

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02

 乗り合いに乗ってしまえば、港町まであっという間だった。

 乗り合いは思ったより空いていたのはよかったが、同乗した女性たちがミツルに色目を使っていたため、ナユは不快な気分になった。

 しかしナユはここでどうして不快に感じたのかは追求しなかった。

 ミツルとしてはナユが思ったよりも積極的にべたべたしてきてくれたのは嬉しかったのだが、戸惑ったのも確かだ。

 そんなことはあったが、港町には無事にたどり着いた。

 港町・ルベルムは城下町より大きく感じた。それはどうしてかと少し悩んだが、すぐに分かった。城下町に比べると道幅が広く取ってあるから開放的で、大きく感じたようだ。

 同じような木の建物が並んでいても、道幅の差でこんなにも印象が違うことを初めて知った。

 乗り合いの降車場から木の板が敷かれた道をそれほど歩かずについたのは、クロス商会と看板がでている建物だった。

 ミツルから今回の目的はルベルムにあるミツルの実家に借金の一部を返済すると聞いていたので、どうしてここに立ち寄るのか分からず、戸惑い、思わず握っていた手をきつく握りしめた。

 それはミツルにも伝わり、ナユを見下ろすと不安そうな表情を向けられたので、安心させようと笑いかけると、ナユはなぜか真っ赤になった。


「ナユ?」


 どうしてそこで赤くなるのか分からなかったミツルは首を傾げたのだが、ナユはさらに真っ赤になってうつむいた。

 どうしてそこで笑いかけてくるのよ! というのがナユの言い分だが、それさえも口に出来ない。


「行こうか」


 どこにという質問も出来ないまま、ミツルに連れられてクロス商会の建物内へと足を運んだ。


「いらっしゃいませ」


 中へ足を踏み入れると、きれいな女性が笑顔を乗せて二人に近寄ってきた。

 ナユは近寄ってきた女性に目を向け、主張する豊満な胸に嫉妬した。

 あんなものは飾りよ、飾り……! とナユはいつもの呪文を心の中で唱えていた。

 対するミツルはというと、女性を一瞥すると事務的に用件を告げた。


「昨日の予定で来訪を予定していたサトチ・ミツルだが、所用で到着が遅れてしまった。遅れるという連絡も出来ず申し訳ない。クロス・アラン殿はいらっしゃるだろうか」

「サトチさま、でございますか。……少々お待ちいただけますか」


 やはりどうしてここに寄ったのかナユには皆目見当もつかなかったが、大人しくしておくことにした。城下町でさんざん城に連れて行かれた結果、黙っていた方が物事は早く済むと学習していたからだ。

 それほど待たずに対応していた女性が戻ってきた。その表情は訝しげだ。


「お待たせいたしました。裏で待っていると伝えれば通じると伝言を承ってますが……?」


 伝言を聞いたナユはさっぱりだったが、ミツルには分かったようだった。


「それでは、裏に回ります。ありがとう」


 ミツルは女性に事務的な笑みを浮かべると、ナユの手を引いてクロス商会の建物から外へと出た。


「ミツル……?」


 さっぱり分からないナユは疑問を含んでミツルの名を呼んで見上げると、「どうした?」という表情を返された。


「どこに行くの?」

「どこって、実家」

「え……と?」


 実家?

 ってここは商会だけど? と視線に疑問を乗せてナユはミツルを見ると、不思議そうな表情を返された。


「あれ? 俺、説明してなかったか?」

「なにを?」

「ここ、俺の実家」


 そう言ってミツルはクロス商会の建物を指さした。


「は? だって、名前」

「あぁ、俺は祖父の名字を名乗ってんの」

「え……?」

「いろいろとあるんだよ。……っと、ほら、裏はこっちから」


 ミツルはそう言うと、ナユの手を引いて裏口から敷地内へと足を踏み入れた。

 目の前に広がるのは、白い木の板を敷かれた広い庭。その奥には床板と同じ木で出来た白い家があった。

 生前のアヒムが、白い木は固くて腐りにくいのでとても高く売れるけれど、なかなか生えていないと話していたことをナユは思い出した。

 そんな木をふんだんに使った家に住んでいるなんて、どれだけの金持ち? とナユは思ったが、それはすぐに女性の声で思考を遮断された。


「まあまあまあ! ミツル、よく帰ってきてくれたわ!」


 裏口と思われる場所から、これまた白いレースのワンピースを着たとても細い女性が出てきて灰色の髪をなびかせて駆け寄ってきた。

 ナユは見逃さなかった。身体は細いのに、それに反してゆさゆさと揺れる胸があることを。

 父と兄にナユの胸がないのは細いからだと慰められていたけれど、細くても胸がある人だっているじゃないの! と思わず記憶の中にいる家族に向かって吠えた。

 そんなナユの葛藤なんてミツルはもちろん知る由もなく、裏口から飛び出してきた女性に対して及び腰になっているのを見て、ナユは意外に思っていた。ミツルでも苦手な女性がいるんだ、と。


「え……と、連絡もなく遅れてすまない」

「もうっ、どうしてこの子ったらそんなに他人行儀なのかしら。お父さまもお待ちよ。早くいらっしゃい」


 この女性はだれ? というナユの疑問の視線をミツルは拾うことなく、困ったように頭を掻きながら女性に素直について行っていた。

 ナユは呆然と立ったままその様子を見ていたのだが、ミツルはようやくナユがついて来ていないことに気がついたようだった。


「ナユ、どうしてついてこない?」

「どうしてと言われても……」

「詳しい話は中でする。外だとだれが聞いているか分からないからな」


 ミツルはそういうと戻ってきて、ナユの手を取ると軽く引っ張った。ナユは戻ってきたミツルの温もりにほっと安堵のため息を吐き、素直に従った。


     *


 裏口から入り、廊下をすぐに右に曲がった。少し薄暗い場所を通り抜けると日射しが降り注ぐ暖かな部屋へと通された。

 やはりこの部屋も白い壁に白い床だった。窓辺には薄手の白い遮光布カーテンが掛けられて、外から光が入ってくるのを柔らかく受け止めていた。

 部屋へ入ると細いのに胸のある女性は満面の笑みをナユに向けてきた。


「あなたがミツルが連れてくると言っていたお嬢さんね」


 ミツルがナユのことをどう伝えているのか分からなかったが、今は大人しくしておいた方が良さそうだと判断して、名乗ることにした。


「……初めまして。ヒユカ・ナユと申します」


 名乗った途端、女性がいきなり抱きついてきた。ナユよりもかなり背も高いため、そうされると顔が胸に埋もれて息ができない。胸と胸の間に挟まれ、ナユは苦しさのあまり手足をばたばたとしたが、離される様子はなかった。


「もうもう、とってもかわいい子ね! ほんっとミツルってば、見る目があるわねぇ」

「あの……ユリカさん、ナユが苦しそうなんだけど」

「ああっ! ミツルったらほんと、どうしてどこまでも他人行儀なのかしら! ユリカさんだなんて、味気ない。お母さまって呼んでよっ」


 どうやらこの女性の名はユリカというのは分かったが、それよりも衝撃的な発言にナユは息が苦しくてあがいていたのを忘れ、思わずユリカの胸をわしっと掴んでいた。

 必死に顔を上げ、ユリカの顔を見上げる。

 腰に届くほどの長い灰色の髪はミツルと同じ色だ。見上げている状態なので顔はよく見えないけれど、なんとなく顔の造作が似ているような気がする。

 ユリカを最初に見た時、胸に視線がいっていて顔をあまり見なかったのだが、どこかで見たことのある顔だなと一瞬、思ったのも確かだ。

 この女性がミツルの母親であるのなら、顔が似ていても不思議はない。

 ナユは嫌いではあったが、ミツルは確かにいい男イケメンである。その母であるユリカもとても綺麗な人であるから、ミツルは母に似たのだろう。

 そんなことを考えていたら、扉が開いてだれかが入ってきたのが分かった。

 ナユはユリカの胸に挟まれたままの状態で振り返り、扉の向こう側に立っている人物を見て唖然とした。


「ミ……ミツルがふたりいる!」


 ナユは思わず、左右を見比べていた。


 

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