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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 港町・ルベルム

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54/129

01

 ミツルは仏頂面でナユを背後に隠しつつ、ベルジィとアグリスを仕方なしに紹介した。


「へー、二人もインターなんだ」


 ミツルの後ろから感心したような声に、二人は戸惑う。


「ミツルは嫌いだけど、二人は歓迎よ」

「おいっ」

「だって、いい男でインターなあなたは大嫌いだけど、筋肉は正義だから、インターでも平気」

「…………」


 ナユの独自理論にどう反応すればいいのか分からない二人は、戸惑うばかりだ。


「おまえたち二人は城下町にあるインターの本部へ行け。そこにチセ・ユアンという男がいる。手紙を書いてやるから、そこで指示を仰げ」

「え……? 本部?」


 いきなりの話の飛躍に、二人は戸惑っているようだった。


「この男、こう見えてもインターの本部長なのよ」

「え……?」

「やっぱり見えないわよねぇ。ミツル、もう少しこう、ベルジィくらい筋肉つけた方がいいんじゃないの?」

「馬鹿者。充分、筋肉はあるだろう」

「いやいや、やっぱりこれくらいいかにもな筋肉が正義よ!」


 予想通りのナユの反応にミツルはベルジィをにらみつけた。

 ベルジィは最初は戸惑ったものの、ナユが筋肉をこよなく愛していて、ミツルはナユの気を引きたくて仕方がないということがわかり、にやにやとしながらミツルのにらみを受け止めていた。

 あれだけの圧倒的な力を持っていながら、好きな女の気をひとつも引けないミツルがおかしくて仕方がない。しかもミツルの足下にも及ばない自分に嫉妬しているのかと思うと、ちょっとだけ気持ちがいい。


「ナユさん、筋肉、触ってもいいっすよ」

「わー、ほんと?」


 碧い瞳をきらきらと輝かせている美少女はかわいいと思うものの、その対象が筋肉なのはどうかと思うが、触ってもらえるのは大変嬉しい。


「くそっ! そんなむさい男のを触るくらいなら俺のを触れよ」


 その発言はどうかと思うが、ベルジィも負けていられない。


「ほら、こうすれば……」


 腕を真横にして、握り拳を握ってぐぐぐと力を入れて力こぶを作ってみせれば、ナユはわぁと歓声を上げてつんつんとつついてきた。

 誇らしげな表情をミツルに向けると、すごい視線でにらまれた。

 そろそろ目線だけで殺されそうになってきたので、ミツルをからかうのはここらで止めておいた方が良さそうだと判断して、ベルジィは力を抜いた。


「あー! なんでっ」


 ナユに文句を言われたが、ベルジィは首を振った。


「夜も遅いですから、もう寝ましょう」

「えー」

「ナユさん、申し訳ないですが、寝る場所はそこしかないのでそこで寝てもらっていいっすか」


 ベルジィは牢屋を指してそう言ってきた。


「俺の寝る場所は?」

「隣の牢屋か、手前の部屋かしかない」


 アグリスの声にミツルは唸った。


「寝台は二つだけ?」

「はい」

「手前の部屋は床に転がって寝るしかないのか?」

「そうなりますね」


 ナユを救出できたことで安堵したせいで、ミツルはどっと疲れが出てきていた。だから寝台でゆっくりと寝たかったが、ベルジィとアグリスも表情を見れば疲れているのは一目瞭然だった。


「わたし、ベルジィと一緒に寝たい」

「ぶはっ」


 いきなりのナユの爆弾発言に、ベルジィは吹き出した。しかもなにかよからぬことでも考えたのか、鼻血を吹き出していた。

 アグリスが慌ててベルジィを甲斐甲斐しく世話を焼きはじめた。


「おまえたち二人は隣の牢を使え。二人、どうにか寝れるだろう」

「まあ、どうにか」


 アグリスはベルジィを抱えるようにして隣の牢屋へと向かった。

 それを見て、ミツルはため息を吐いた。


「ナユ、おまえはここで一人で寝ろ」

「え? ミツルは?」

「俺は隣の部屋であいつらの紹介状を書いてくる」


 ミツルはそれだけ言うと、隣の部屋へと行ってしまった。

 ナユは仕方なく牢の中へと戻ったが、牢の中というのはどうにも落ち着かない。

 それでも寝ようと身体を横たえたが、眠れそうになかった。

 しばらく寝返りを打っていたが、眠れない。

 だから仕方がなく起きて牢から出て、ミツルが入っていった部屋の扉を叩いた。


「どうした?」

「あの……ミツル、まだ起きてた?」

「起きてるが、どうした」

「眠れないの」

「……入ってこい」


 ミツルに促されて、ナユは部屋へと入った。

 薄暗い部屋の片隅で明かりを灯し、ミツルはなにか書いていた。

 近寄ってのぞき込むと、見慣れた流麗なミツルの文字。


「紹介状?」

「そうだ」

「ミツルって」

「なんだ」

「顔に似合わず繊細な字を書くよね」

「……おまえな」


 性格ががさつだし筋肉馬鹿だから、読めない酷い字を書くのかと思っていたが、予想に反して読みやすくてきれいな文字を書くことを初めて知ったとき、ナユは驚いた。


「もう少しで書き終わるから、少し待て」

「うん」


 そう言ってミツルは紙に視線を落とし、続きを書き始めた。

 真剣な表情をしているミツルを見て、ナユの心臓は急にどきどきとし始めた。そのことに戸惑ったのはナユだ。

 顔がよくて、しかもインターだなんて、ナユからすれば嫌いな要素しか持っていないはずなのに、なんでだろう、どきどきする。

 腕をまくって手紙を書いているため、腕の筋肉の動くさまがよく見える。

 ナユはいつの間にかミツルの腕の筋肉の動きに見とれていた。

 さらさらと書き付けていく筋肉にナユは触れたくなって、ミツルの腕に手を伸ばしていた。


「……ナユ?」


 ミツルの声にはっとして、ナユの動きが止まった。


「終わったぞ?」

「え……と?」

「なんだ、一人で寝れないのか? なんなら添い寝、してやるぞ?」


 ミツルはもちろん、からかい半分の冗談で言ったし、ナニ考えてるのよ! と罵声が返ってくると思っていたのに、ナユに素直にうなずかれてしまい、逆に戸惑った。

 なに言ってるんだ、冗談だと言いたかったのに、腕を捕まれて泣きそうな表情でこちらを見られたら、言えなくなった。

 なんという拷問と思ったが、ミツルは仕方がなくナユとともに牢の寝台へと戻った。

 以前、酔っぱらったときに酔いに任せて一緒に寝たことはあったが、今は素面だ。

 ナユは強引にミツルを布団に寝かせると、もぞもぞと腕の中に潜り込んできた。

 まったくもって危機感のなさに呆れたが、ナユの温もりに疲れも手伝って、ミツルはそのまま眠ってしまった。


 そして次の日の朝、ナユに絶叫され、頬を思いっきり叩かれて起こされることになる。

 ナユ本人が布団に引っ張り込んできたというのに、酷い濡れ衣だと思う。


「まあ、そういうことで、俺たちは乗り合いでルベルムまで行ってくる。おまえたちは一足先にコレを持って本部へ行け」


 ベルジィは手渡された紹介状見て、それからミツルを見た。


「これ」

「なんだ」

「アニキが書いてくれた?」

「そうだが」

「へぇ、意外ですね。きれいな字だ」


 その反応はいつものことなのか、ミツルは特に表情を変えない。


「そういえば、ミツル。わたしの荷物は?」


 紹介状のやりとりが終わったと判断したナユは、疑問に思ったことを口にした。


「自警団に取り上げられた」

「えーっ! あの中にお気に入りの服が入っていたのに!」

「服ならば、代わりを買ってやる」

「うー……」


 ナユとしてはそういう問題ではなかったのだが、取り返すのは大変なのだろうと判断して、諦めたくないけれど、諦めることにした。


「隣の町まで歩いて、そこで乗り合いに乗るぞ」

「荷物、取られちゃったんでしょう? 乗り合いに乗る余裕なんてあるの?」

「大丈夫だ。それにここで時間を食ったから、少し急ぎたい」


 そう言われればナユは反論できない。

 ベルジィとアグリスとともに森の外まで出て、それぞれに別れた。


 

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