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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 新たな仲間

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06

 ミツルはベルジィの円匙を片手に持ち、凶悪な笑みを浮かべて団長に視線を向けていた。

 三対一の上、ミツルたちは人相が悪い。団長は背が低いために、遠目から見ると子どもがいじめられているようにも見えないこともない。どちらが悪役なんだかという図である。ナユがいたならば絶対に突っ込まれていただろう。

 しかも間が悪いことに、人が近づいてくる気配がしてきた。


「ベルジィ、アグリス」


 二人も気配に気がついたようだった。

 アグリスはミツルが真っ二つにした自分の円匙を拾い上げると団長に警戒しつつ、ミツルに目配せをして撤退するように指示をしていた。

 ミツルはそれを見て、うなずきを返した。


「ははは、腰抜けめ!」


 三人が逃げることを察した団長はミツルたちにそんな言葉を投げかけてきたが、三人は無視して森の奥へと消えていった。


     *


 アグリスが先頭に立ち、本来の目的であったナユがいるという牢屋へと向かっていた。

 あまり人が入り込んでいないようで、木々が鬱陶しいほど生えてきていた。移動し辛かったが、まだかろうじて歩くことが出来た。

 ここは先ほどいたところよりも葉の密度が濃く、光が届かないのでとても暗い。

 足下に気をつけながら、慎重に進んだ。

 歩いていると、森の奥にたどり着いたようだった。

 牢屋と聞いていたから薄暗くて汚いと思っていたが、ここは逆に周りより明るくて戸惑った。


「ここです」


 アグリスは足を止め、ミツルに道を譲った。

 ミツルはほのかに明るい扉を見つめた後、躊躇することなく開いた。


「来てしまいましたか」


 扉を開けた途端、中から聞いたことのない男の声がしてきた。知らず、ミツルの背筋は凍り付いた。


「今回は仕方がありませんね」


 かつん……と木の板を打つ硬い音に、ミツルは扉の向こう側をにらみつけた。

 そこには、鈍色の髪に碧い瞳の男が、満面の笑みをたたえて立っていた。華奢な身体には見たことのない碧い長衣を羽織っていて、その胸には碧い刺繍が施されていた。

 しかし顔は笑っているのに、ミツルにはその男から感情を感じられず、ぞっとした。しかも笑っていても驚くほど顔が整っているのが分かる造作に、さらになぜだか背筋が凍った。


「あなたがミツルですか」


 男に名を呼ばれ、ミツルはなにかに縛られるような感覚を覚えたが、必死にあらがった。それは身体全体にまとわりつく、柔らかな棘のある蔓のようだったが、ミツルは必死にそれを断ち切った。


「ほう? これを断ち切れるとは、なかなか一筋縄にはいかないということですか」


 男はそう言うと、目を細めてミツルを見た。

 感情の宿らないその表情はぞくりとしたが、ミツルは頭を振り、口を開いた。


「俺の大切な者を返せ」


 ミツルは本能的に、この男に名前を渡してはならないと察知した。

 男はミツルがそのことに気がついたのが面白かったようで、ようやく感情を乗せて笑った。


「ははは、なるほど。ここまで生き延びてきたのは伊達ではないようだな、若きインター」


 面白そうに笑うと、男はミツルに道を開いた。


「次は返しませんよ?」

「うるせえ。ふざけんなよ、てめぇ」


 ミツルが構えたのを見て、男は大仰に仰け反って見せた。


「ここでやりあう気はありませんよ?」

「…………」

「だけど、次は必ず手に入れます」


 男はそれだけ告げると、重さを感じさせない足取りでミツルの横を通り過ぎ、後ろにいたベルジィとアグリスをちらりと見て、出て行った。


「おいっ、なんだあれはっ!」


 気配が遠ざかり、呪縛から解放されたようにミツルの身体が動くようになった途端、二人に噛みついた。


「オレたちも知らない。金は前金だったし、破格だったから引き受けただけだ」


 二人も青い顔をしているところ、ミツルと同じようになにかに縛られかけていたのかもしれない。

 特になにか危害を加えられたわけではないのに、恐怖を覚える存在だった。

 ミツルは得体の知れなさを振り払うように頭を振り、ベルジィを見た。


「この奥か?」

「そうだ。鍵はそこにある」


 指し示された先にある鍵を掴むと、ミツルはわざと足音を立てて奥へと進んだ。


     *


 ナユとシエルの耳に乱暴な足音が聞こえてきた。

 シエルはその音を聞いて、今、ナユの身体はどこかの牢屋らしきところに入れられていたのを思い出した。


「ナユ、起きましょう」


 シエルの言葉にナユは首を傾げた。

 今、ナユの意識ははっきりしていたし、寝ているとは思えなかった。


「起きる?」

「そうよ。あなたは今、眠りの魔法で寝かされてるの」

「眠りの魔法……?」


 ナユは眉間にしわを寄せると必死になって思い出そうとしたのだが、シエルと話をして、歌を教えてもらったことしか思い出せない。

 うんうんと唸っていると、ばたんという音が聞こえた後、だれかが遠くから名前を呼ぶ声がした。覚えのある、低くて落ち着く声。

 これってだれの声だっけ? と悩んでいると、また別の声が聞こえてきた。

 そちらは聞いたことのない声だったが、ドスの利いた声でアニキという言葉が聞こえた。


「……アニキ?」


 アニキってだれ? とナユはシエルに視線を向けたが、シエルも思い当たらないのか、訝しげな表情を浮かべていた。


「一人……二人、三人? の気配がするけど、一人はたぶん、ミツルなんだけど……残り二人はだれかしら?」


 そう言われて、覚えのある声がミツルだと気がついたナユは、顔を真っ赤にした。

 大嫌いなミツルの声を聞いて、ほっとしてしまったことにナユは恥ずかしくて仕方がなかった。


「どうしたの、ナユ? ああ、ミツルが来てくれて嬉しいの?」

「ちっ、ちがっ……!」

「あんまり趣味がいいとは思わないけど、ミツルは信頼できるから、あたしはいいと思うわよ」

「あなたに言われたくないわよっ!」

「まあ、そうね。見た目がよければ性格は二の次のあたしに太鼓判を押されても不安かもしれないけど」


 シエルの自虐的な言葉にナユはなんと返せばいいのか分からないでいると、シエルは続けた。


「ミツルはあなたを裏切らないわ。地とは違う。信じても大丈夫。あたしもいつまでもあなたと一緒にいられないから、ミツルにあなたのことを託そうと思ってるの」

「な……に、を、シエル」

「気になるのよ、あの男。ナユをここに連れてきたあの男。もしもあたしの推論が正しかったら……かなりまずいことになってると思うのよ」

「あの男って、だれ?」


 ナユはそう聞いておきながら、急に思い出した。

 宿屋で部屋の扉を開けたら立っていた、鈍色の髪の男のことを。

 碧い瞳を見て、背筋が凍った。

 逃げなければと本能が告げていた、あの男。


「シエルは知っている、の?」

「知らないけれど、あいつは危険よ。だからナユ。しばらくあたしはあなたたちの側から離れるわ」

「え……。やだ、シエル! せっかく仲良くなったのに!」


 そう言ってナユはシエルの身体に抱きついてきた。

 シエルに抱きつくと、柔らかくて温かな感触があって、母のラウラを思い出す。


「心配しないで。あなたにはミツルがいるわ。それに、なにかあったらあたしの名前を呼んで。すぐに行くわ」

「だってまだ、宿泊代をもらってない!」


 え、そこなのっ? とシエルは思ったが、出来るだけ笑みを浮かべてナユを見た。


「それはミツルからもらって」

「……ミツルもお金持ってない」

「ふふっ、あなたのためならミツルは頑張って稼いでくるわよ」

「……訳が分からないんだけど」

「それに、あたしがいたら、あなたたちの邪魔になるから」

「余計にわかんない、それ」


 シエルはくすくすと笑い、ナユの髪の毛を撫でた。


「大丈夫よ、ナユ。しっかりミツルを振り回しなさい」

「当たり前じゃない。男はみんな、ナユさまにかしずかなくてはならないのよ!」


 いつもの調子に戻ってきたナユを見て、シエルは笑った。


 

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