表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 新たな仲間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/129

04

 ミツルの回し蹴りを食らった動く死体だが、少しよろけただけだった。

 昼間、町で遭遇した動く死体はこれで倒れたのに、ならず者は鍛えていただけあり思っている以上に手強そうだった。

 動く死体を数えていないが、もしもならず者がベルジィとアグリス以外の全員がなっていたら、八体も相手をしなくてはならないのだ。


「おい、おまえら。動く死体を地の女神のところへ送ること、できるか」


 ミツルの問いに、ベルジィとアグリスは即答した。


「できない」


 と。

 分かりきっていた答えではあったが、さすがにこれら八体を全部、相手にするのは無理だ。一体であったとしても、かなり手こずるだろう。


「……だよな」

「アニキはできるのかっ」

「ああ、できる。動きが止まっていればどうにか」

「アニキって一体、何者……」


 その呟きに、ミツルはこんな場面だというのに思わず胸を張っていた。


「ふははは、恐れ入ったか!」

「え……と、はい」


 反応が薄かったが、それでもミツルは満足した。それと同時に冷静になれた。

 そうだ、俺はすごいインターなのだ。こんなクソ野郎に感情を揺さぶられるなんて、まだまだ修行が足りないようだ。

 そう思うと、ミツルはだんだんとおかしくなってきて、笑った。

 ここでいきなり笑い出したミツルに、ベルジィとアグリスだけでなく、団長まで顔を引きつらせた。


「はーっはっはっはっは、そうだ、こんなクソガキ相手に本気で怒るなんて、大人げなかったな。あー、はいはい、すごいすごい。インターさまでないあんたが冥府に俺たちを送れるんだ? 是非とも送ってほしいねぇ」


 くーっくっくっくとも笑いだし、ベルジィとアグリスはなんだか厄介な人に捕まったな……と後悔していた。


「あと、燃やすのは勘弁な? あれ、火消し隊まで出動して大騒ぎになるから、大変なんだよねぇ」


 ミツルはコロナリア村でのことを思い出し、遠い目になりながら呟いた。

 あれは死体を燃やすためではなくカダバーが魔法陣で森に火をつけたせいだったが、大変だった。炎のせいで火傷をしてしばらく痛かったのを思い出し、ミツルは顔をしかめた。


「おまえは気にくわないけど、俺は罪を犯したくないから殺さないけど、その様子だと相当の恨みを買ってそうだから、暗闇と後ろは気をつけろよ?」


 ミツルはそう言ってくすくすと笑った。

 ナユがいつもその笑いを怖がっていたが、ベルジィとアグリスの背筋もぞっと凍った。

 同じインターのはずなのに、力量の差が圧倒的にあることを二人は悟った。


「インターのくせに生意気な……!」


 それまで黙っていた団長も、ミツルのくすくす笑いで冷や汗をかいていた一人だった。しかし、その恐ろしさが過ぎ去ってしまえば怒りがぶり返すように襲ってきた。

 自分よりも格段に下のくせに、脅してくるとはけしからん。そう思うと怒りがふつふつとわき上がってきた。


「……許さん」

「別に許してもらわなくていいぞ」

「きさま……っ」


 団長はすっかり頭に血が上ってしまったようだった。


「おまえたち、あの生意気なインターを捕まえろ!」


 団長の命令に木の陰からゆらりと動く死体が現れた。その数、八体。

 やはりならず者たちはベルジィとアグリスを残して全員が殺されてしまったようだ。

 あの短時間に八人も殺された上、動く死体にされてしまったことに、ミツルは悔しさのあまり唇をかみしめた。

 貴重な人材を一度に奪われてしまった、怒りと悲しみ。

 そして、人が人の命を奪うという理不尽さ。

 カダバーもだったが、どうしてこんなにも安易に人の命を奪うことが出来るのだろうか。

 ミツルには分からなかったし、分かりたくもなかった。

 人が死ぬと、インターへの憎しみが深くなるだけ。だからできることなら人には死んで欲しくなかった。しかし、人はいつか死んでしまう。

 インターは人の悲しみを背負って生きているのかもしれない。


「インターなんて、みんな死んでしまえばいい!」


 団長の叫びに、ミツルたち三人は顔を見合わせた。


「……だとよ?」

「人はいつしか死にますから、別になんとも」

「アグリス……おまえ」


 アグリスの発言を受け、ベルジィは絶句しているようだったが、ミツルは面白くなって腹を抱えて笑った。


「あっはっはっ、言えてるな!」


 団長の言葉に腹が立っていたが、アグリスの言うことがもっともで、相手にするのも馬鹿らしくなった。


「なるほど、死体しか友だちがいないぼっちか。そりゃあそれだけ性格が悪ければだぁれも近寄ってこないよなあ」

「ボクのことを侮辱したなあ!」

「怒るということは、当たりなのか」


 団長をどうすれば怒らせられるのか分かったミツルは、次から次へと怒らせるような言葉を続けた。


「団長の座もパパにでも買ってもらったのか?」

「おまえ……!」

「それとも、死にたくなければ団長にしろとでも脅したのか?」


 団長からはなにも返ってこなかった。今、ミツルが口にしたのが真相なのだろう。


「とんだ団長だな!」


 恐怖で支配するなんて、最低すぎる。


「うるさいうるさいうるさい!」

「そうやってだだをこねれば要求が通ると思ってるあたり、ほんと、おこちゃまだな」

「うるさい! おまえも殺してやる! 早く捕まえろ! ほんっと、おまえたちは死んでも役立たずだな!」


 団長はそう言うと、近くにいた動く死体を背中から蹴った。

 動く死体を後ろから攻撃するのは有効だが、しかし危険も伴う。


「馬鹿かっ! 後ろから攻撃するな!」


 動く死体は背後から攻撃されるのをもっとも嫌う。いくら動く死体に命令できたとしても、動く死体の本能までは制御できないはずだ。

 案の定、団長の蹴りでは動く死体は倒れず、反射的に翻って口を開けたのが見えた。


「逃げろ!」


 いくら憎くても、インターが人の死を願ってはならない。


 それもミツルが、祖父から何度も聞かされていた言葉。

 団長は憎い。祖父の言いつけを破って死んでしまえと思ったが、それでもやはり、死なれてしまうと困る。

 だからミツルは叫んだのだが、団長も懲りてないというか、分かってないというか、自分の力を過信しているようで、立ち止まっていた。


「くそっ」


 ミツルは小さく叫ぶと、枯れ葉を蹴って動く死体を止めようとしたのだが、目の前には何体もの動く死体がいて、容易には届かない。

 とりあえず目の前の動く死体に体当たりをして倒そうとしたのだが、大きく腕を振り上げてミツルの身体を払おうとしているのが視界に入ったので、腕が当たらない手前で枯れ葉を蹴り、後退した。動く死体とミツルの間に枯れ葉が舞う。

 そうすると今度は右側に別の動く死体がいたので左側へ行くと、そこにもいた。後ろへ跳び、動く死体の攻撃が届かないところまで移動すると、団長との距離が空いてしまった。

 ミツルがそうやって避けている間、団長は動く死体の声に縛られ、身動きがとれなくなっていた。妙な格好で固まっているのが動く死体の間から見える。


「アニキ、あんなのほっときましょう」


 ベルジィの声にミツルは大きく頭を振った。


「駄目だ。あいつらにこれ以上の罪を犯させるわけにはいかない」

「……アニキ?」

「あんなのでも一応は人のようだからな。殺したら地の女神の元へ送れない」

「どういう……?」


 ミツルの言葉にベルジィは戸惑っているようだった。


「生きているときもだが、動く死体になっても、人を殺すと冥府の色に染まって地の女神のところにすぐにはいけなくなる。あんなくそのために、そんな罪をかぶるなんて、あいつらがかわいそうだろう?」


 ベルジィはミツルに言われ、思い当たることがあるようで目を見開いた。


「村で紫色をした動く死体がいた……! あれはそういうことだったのか!」

「そういうのをルドプスと言うんだ」

「ルドプス……」

「殺しただけ色が濃くなり、最後は真っ黒になる」

「真っ黒に」

「そうなったら、冥府にも送れなくなる」

「では、どうするんだ……?」

「動きを止めて、封印するしかない」

「…………」


 ミツルの言葉に、ベルジィは無言になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。










web拍手 by FC2









― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ