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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 邂逅

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07

 動く死体は動く者にしか反応しない。しかし、例外がある。

 あまり知られていないが、動く死体の後ろから近寄って見つかると、奇声をあげて相手を止める。そして動く死体はゆっくりと近寄り、止まっている相手に攻撃するのだ。

 こうなると身体が動かないため、たいていの者は殺されてしまう。

 それを知っていたミツルはとっさに逃げたのだが、そのことを知らなかった団長は自ら近寄っていってしまった。

 こうなってしまったら、動く死体にとどめをさすか、止められた人間に触れて呪縛を解くか。

 この場合はどう考えても後者の方が簡単であるので団長に近づいたのだが。


「近寄るな! 腐る!」


 罵りの言葉にミツルはとうとう切れた。

 手の甲に指先で触れようと思っていたのだが、そんなことは吹っ飛び、ミツルは団長に後ろ回し蹴りをお見舞いしていた。

 防御もできない状態でミツルの渾身の蹴りをくわえたらどうなるのか分かっていたのに、さすがに手加減はできなかった。

 団長の身体はミツルに蹴られて真っ直ぐに吹き飛び、建物にぶつかって止まった。

 うぐぅと呻き声はしたが、気を失ったようだった。

 まったくもって、腹立たしい。

 団長が邪魔をしなければ今頃は動く死体は地の女神の元へと送られていたというのに。

 動く死体はミツルに邪魔をされたことが不愉快だったようで、またもや身構えたことに気がつき、慌てて後退した。

 周りに人の気配があるのは分かったが、動く死体が怖いのか、だれも動く様子はない。

 そのまま出てくるなよと願いながら、ミツルは動く死体との距離を測りながら力をため、じりじりと近寄って間合いを詰めてくる動く死体と対峙していた。

 動く死体を地の女神の元へと送るにはそう簡単にはいかない。

 コロナリア村ではシエルが手伝ってくれたからあっさりと終わったように思えたが、普段は時間がかかる。

 ゆっくりと近寄ってくる動く死体から目を離さずに、そして周りの気配を気にしつつ、一発で地の女神の元へと送ることができるだけの力を貯めなければならない。

 先ほど、団長に邪魔をされた時に力がかなり散ってしまったが、どうにかかき集めてもう少しというところでまたもや団長の邪魔が入った。

 壁にぶつかって気絶していたかと思ったのだがむくりと起き上がると、きしししと嫌な笑い声をあげながらミツルに襲いかかってきた。

 襲いかかる先が違うだろう! と思いながらミツルはかろうじて避けた。避けたときに後ろから蹴りをお見舞いしておいた。

 まったくもって、一度ならずとも二度も邪魔しやがってとミツルはさらに切れていた。


「クソガキがっ」


 ミツルはそれだけ吐き捨てると動く死体に向き直り、こちらにも団長に見舞った蹴りを叩きつけて木の床に転がし、横たわったところに金の光で包み込んで地の女神の元へと送りつけた。

 周りが不気味なほど静まり返り、痛いほどの視線を感じている中、ミツルは立ち上がると町の外へと通じている通りへと向かい、人混みに紛れて門を出た。


     *


 ミツルは町の外に出てから失敗に気がついた。

 自警団の牢屋に入れられたときに荷物とマントを奪われていた。

 ウィータ国の気候は穏やかなために夜になっても寒いということはないが、マントなしで外に出るのは、なんとなく心細い。

 それに荷物も取り返さなくてはならない。

 手間を増やしやがって……と思うが、混乱に乗じて詰め所内に戻って荷物を取り返しておけばよかったと思ったときにはすでに遅し。

 どうにかして奪還するとして、それよりこれからどうするかを考えなければならない。

 実家に返済予定の金は身体に巻き付けて服の下にあるのは確認したから、最悪な場合は荷物は諦めればいい。

 それと当面の旅の間の金は、なにかあった時のためにとこれまた服の下に隠し持っていたのでどうにかしのげそうだ。

 そうなると、最優先事項はナユの身柄確保となる。

 しかし、まったくといっていいほど手がかりがない状態だ。

 自警団はあてにならないことは痛いほど分かった。

 やはりあのナユをさらったヤツラを探し出してとなるのだが……。


「あ」

「あ」


 どうしたものかと悩んでいると、あのならず者たちと目があった。

 おいおい、なんでこんなところにいるんだよとミツルは思ったが、それは向こうも同じように思っていることだ。

 いきなりの緊迫感にミツルは身構えた。

 ならず者たちも同じように身構えてきた。

 夜からご飯も水も摂っていない最悪な状態だが、負ける気はしなかった。

 ミツルは右足を後ろに引くと木の床を蹴り、ならず者の中へと身を踊らせて手短にいる男を掴むと投げ飛ばし、その勢いで後ろ蹴りを加え、回転すると同時に軸足とは逆の足で蹴り倒した。

 向こうももちろん、棒立ちでミツルの攻撃を受けていたわけではない。前にやりあっていることもあり、多勢に無勢とのんきに構えていたわけではないのだが、あっという間に木の板に転がる人が増え、カシラまで転がっていた。

 自警団にやられたことの鬱憤を晴らすかのような状況になってしまったことに若干の罪悪感はあったが、いや、それよりもこいつらがナユをさらったからすべてが悪かったのだということを思い出した。

 ナユの行方を聞き出そうとカシラのところまで行くと、起きあがってきたために身構えたのだが。

 カシラはいきなり土下座をするなり、叫んだ。


「アニキ! 恐れ入りましたっ!」


     *


 身体を一回貸すごとに百フィーネと叫んだナユにシエルは顔をひきつらせた。


「髪紐より安くていいんだ……」


 と思わず呟いてしまっていた。

 それを聞いたナユは、ない胸を反らして見せた。それ、悲しいから止めなさいよ、とシエルは思うのだが、そう突っ込みするのも野暮なような気がしたので止めておいた。


「そうよ。まけておいてあげたわよ」


 そこは威張るところなのだろうかと思いつつ、シエルは気のない返事を返した。


「はぁ……」


 払えといわれても、そもそもシエルはなにひとつ持っていないのだ。払えといわれても払えない。


「請求先はミツルにお願いね」

「なっ、なんでっ?」

「あたしは払えないわ」

「どうして?」


 どうしてとそこに噛みついてくるものなの? と思いつつ、シエルは律儀に答えた。


「お金なんて持ってないから」


 シエルのその一言にナユは無言で立ち上がると、横に座っていたシエルの肩をつかんだ。


「なにそれっ! わたしの身体にずっと無銭宿泊をしてたってわけっ?」


 無断使用から無銭宿泊になっていたが、シエルは頬をぴくぴくとひきつらせながらナユを見た。

 ナユは眉尻をあげてシエルを見ていた。

 すると急に儚げな雰囲気が吹き飛ぶのだから不思議だ。

 ナユの碧い瞳はぎらぎらと輝いていて、思わずつぶやきが洩れていた。


「……きれい」

「は?」


 ナユは怒り狂っていたけれど、シエルのズレた言葉に毒気が抜かれた。


「なるほど、ミツルがあなたを怒らせたがる訳が分かったわ。すごい……怒ってると瞳がきらきらしてすごくきれいなの」


 褒められていると微妙にとれないシエルの言葉に、ナユはますますむっとしかめっ面をした。

 怒ってるのがきれいと言われても、正直、うれしくない。だれが怒り顔がいいと言われて喜ぶというのだ。笑顔がかわいいと言われる方がうれしい。


「あなたといい、ミツルといい、最低ね」

「ふふっ、そうかもね。──ということで、請求はミツルにしてね」

「なっ……!」

「あと、そのまっ平らな胸を気にしているのなら、ミツルにかわいくねだってご飯にでも連れて行ってもらいなさい」

「どうして!」

「どうして、なんて野暮なことを聞くんだ? 分からないってことは、まだあなたがお子ちゃまってことね」


 くすっと笑われてナユはむっとしたけれど、反論すればさらになにか言われそうだったので黙っておいた。


「無事に城下町に戻れたら、適当な理由をつけてミツルに連れて行ってもらいなさい」


 シエルの助言アドバイスに賛同はしかねたけれど、美味しいものは食べたいのでうなずいておいた。



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