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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 邂逅

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02

     *


 ナユは朝が来たのに変わらず眠っていた。

 さすがにシエルもあまりにも起きないナユに焦ってきた。

 どうにかしてナユを起こさなければと思うのだけど、今までナユの意識を乗っ取って勝手に身体を動かすことはあったけれど、シエルからナユに接触しようと思ったことがなかったのでどうすればいいのか分からなかった。

 どうするのがよいのか分からずに唸っていると、腕を強く引かれたような気がして焦った。

 ここはナユの精神世界。とはいえ、シエルしか存在していないはずである。


「ねーねー、あなた、だぁれ?」


 聞き覚えのある声に呼びかけられ、シエルは慌ててそちらに視線を向けた。

 金色の髪に碧い瞳。シエルより低い身長。そしてやっぱり残念なほどに真っ平らな胸。

 そこには、鏡越しでしか見たことのないナユが立っていた。


「どうして……?」


 思わずそう聞くと、ナユは小さく首を傾げた。すると金色の髪が揺れた。それだけの動作にもかかわらず、なぜだか保護しなければという気持ちを激しく抱かされた。

 確かに端から見ていると、儚げな風情のある少女だと思う。助けてあげなければならない気持ちになるのだから、すごい。


「で、あなたはだれなの?」


 だれなのかと問われ、シエルは言葉に詰まった。

 そういえばミツルに初めて会ったとき、なんと説明したのだろうか。初めから名乗った覚えはなかった。

 しばらく考えて、なにも説明しなかったことを思い出した。

 聞かれなかったというのもあるけれど、ミツルはそばにいるのはだれでも良かったようだ。それがたとえ、死神だったとしても、あのときのミツルはなにも聞かずにそばにいさせてくれたと思う。

 そんなことを考えていると、ナユが突然、シエルの身体をぺたぺたと触り始めた。いきなりでシエルは動けなかった。

 ナユは容赦なくシエルの身体を触りまくった後、にひひと嫌な笑いをひとつした。シエルにはナユがなにを考え、喜んだのか分かってしまった。


「あなたはわたしの仲間ね!」


 そういった後、ナユは真っ平らな胸を主張するように胸を張って見せた。

 人が気にしていることをそうやって真正面から見せつけた挙げ句、仲間呼ばわりされたことにシエルは悲しみを覚えたが、そこは覆せない事実だ。


「……仲間だと認めてもらえて光栄よ」


 シエルは半ばやけくそになってナユにそう返した。


     *


 ナユは暗闇の中を漂っていた。そこはとても暗くて、冷たくて、淋しい場所だった。

 最初、もしかして死んでしまったのだろうかと思ったのだけど、なんだか違うようだというのは分かった。

 ただ、ここはとても嫌な場所だったのでナユは必死にあがいてあがいてあがきまくって抜け出そうとした。

 だけどまったく動いている様子もなく、それでもナユは必死に足を動かした。

 そういえば、町に行くときにミツルが手を繋いでくれた。硬い手をしていたけれど、それは父と兄たちと同じ手だった。それに大きくて温かくて──安堵できる、手。ミツルがそばにいてくれたら、淋しさを忘れることができた。

 ミツルは気にくわないけれど、でも、きっとこの手は離したら駄目なんだとナユはなんとなく分かっていた。

 ずっと繋いでいたい──なんて、そんなことを考えていたからなのか、黒しかなかった空間にほんのりと明かりが見えてきた。

 ナユはそこに向かってひたすら移動して、そこで茶色い髪の女性と出会ったのだ。


 だれかと尋ねても答えは返ってこなかったけれど、とても懐かしい感じがしたし、そしてなによりもナユと同じで真っ平らな胸に共感を覚えた。

 きっとこの人はわたしの仲間だ。

 ナユは勝手にそう判断して、女性の手を取った。


「わたしはナユっていうの」

「……知っているわ」

「えっ、どうしてっ? あなた、もしかしてわたしの……」

信奉者ファンではないからね!」

「違うの? それならどうして知っているの?」


 普段は警戒なんてしないナユに警戒をされてしまったシエルはどうしたものかと悩んだ。

 ここは素直に名乗っておくか。相手はナユだし。

 シエルはそう決めて、ナユを見た。

 ナユはなぜか期待に満ちた目でシエルを見ていた。


「あのね、あのねっ」

「……はい、なんでしょうか」

「わたしが名前をつけてあげる!」

「いえ、遠慮いたします。あたしにはきちんと名前があるの! シエルっていうのよ」


 この名前はそう、あの人がつけてくれたもの。

 それまではたった一人きりで名前さえもなかった。


「シエル……?」

「そうよ。ナユ、困ったことがあったらあたしの名前を呼ぶといいわ」

「呼んだらなにかいいことでもあるの?」

「あるわ。あなたを助けてあげる」

「ふーん?」


 シエルとナユが立っている場所は真っ暗だったけれど、いつの間にか明るくなり、そよ風の吹く平原に立っていた。側にはちょうどよく切り株が用意されていた。

 シエルはナユを誘い、そこに座った。


「あのね、シエル」

「はい」

「最近知り合った人がとても意地悪なの。そいつって、顔がすごくいいからってそれを自慢していて、威張ってるのよ」


 いきなり話始めたナユにシエルは驚いたけれど、話を聞くことにした。

 シエルはナユのことをよく知っていたけれど、こうして直接、話をするのは初めてだ。

 実際、話をしてみると、周りがナユを甘やかす理由がなんとなく分かった。

 見た目が大きいのは確かであるが、なんだかとても危なっかしくて世話をしたくなるし、甘やかしたくなる。ミツルがついつい意地悪したくなる気持ちもシエルにはすごくよく分かった。


「わたしはとにかくちやほやされたいのよ! せっかくかわいく生まれたんですもの、これを生かして人生、楽に生きたいじゃない?」

「そ……そうね」


 ナユの言い分はシエルにはまったく分からなかった。

 そもそもがずっと独りだった。だからちやほやされるというのがよく分からない。いや、ナユとともにいたからそのちやほやとはどういう状態なのかは知っている。だけどそれは嬉しいことなのだろうか。

 シエルはずっと独りだったから、だれかが側にいてくれるのはとても嬉しい。だけどシエルはすでにナユとともにいるという状態が独りではないから、それだけで幸せなのだ。たくさんの人に囲まれて甘やかされたいかと聞かれると、そうは思わないと答えると思う。


「だけどね、ミツルはそうしてくれないの」


 あ、やっぱりその最近知り合った人ってミツルなのね、とシエルは思ったけれど、あえて突っ込まなかった。


「わたしにすっごい意地悪するし、特別に扱ってくれない」


 ナユの言っていることはシエルにも心当たりがあった。

 シエルもミツルのやさしさがほしくて、色々と頑張った覚えがあったからだ。


「まあ……ミツルはそういう人だから」


 シエルの呟きにナユは驚いて顔を上げた。


「えっ、シエルはミツルのことを知ってるの?」

「知ってるもなにも、小さい頃から知ってるわよ」

「それじゃあ、シエルとミツルは幼なじみなの?」


 そう来るか! と思ったけれど、シエルの見た目はミツルと同じくらいの年齢に見える。


「んー、まあ、違うけど似たようなものかなあ」

「へー、そうなんだ。で、ミツルの小さい時ってどうだったの?」


 思わぬ質問にシエルは思わず笑みを浮かべた。

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