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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
二部*一章 穹(そら)の民

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06

 腰掛けた目の前の男にミツルは視線を向けた。

 年の頃はミツルより上に見えるが、それほど離れてなさそうだ。茶色の短髪に意志の強そうな光を宿した茶色の瞳。そして自警団員というだけあり、がっちりとした身体をしていて、筋肉もよくついているようだった。

 ナユが見たら、筋肉! と喜びそうだと思ったら、少しむっとした。

 そうだ、先ほどのカシラも筋骨隆々としていたのも苛立ちの原因だったと気がつき、シエルに『ナユは筋肉好きだから鍛えろ』と言われたことを思い出した。

 この先、身体つきのいい男を見たら片っ端から嫉妬していきそうな勢いだと気がついたミツルは、そうならないためにもっと鍛えようと心に決めた。


「お連れの方は金色の髪の少女ですか」

「そうだ」


 ミツルの証言に自警団の男は疑いの視線を向けてきた。


「ところで、その方とはどういったご関係で?」


 そこでミツルは気がついた。


 ──もしかして、俺も疑われている?


 なんだか雲行きが怪しいと感じながらも、ミツルは口を開いた。


「……従業員だ」

「従業員?」


 ますます疑いの視線を向けられ、ミツルは焦った。

 ナユとミツルの関係は、今のところは雇い主と雇われ者の関係でしかない。

 ナユにはナユがインターの本部で働くのは村での騒動代の利子だと伝えたけれど、きちんと給金は払っている。

 まさか給料がもらえると思っていなかったらしいナユの驚いた顔を思い出してにやけそうになったが、今はそれどころではなかった。


「証明するものは?」


 と言われても、そんなものはない。


「ない」

「ふむ……」


 馬鹿正直に答えてしまったかと思ったが、男はそれ以上は聞いてこなかった。


「それで、借りていたお金を返済するためにルベルムまで向かっている途中だと」

「そうだ」


 ミツルの実家のある港町・ルベルムは、この辺りでは城下町に次いで二番目に大きな町になる。城下町からルベルムに向かうには、この町を通るのが近い。


「……徒歩で?」

「そうだが、なにか問題でも?」


 ミツルの移動手段は主に徒歩になる。乗り合いも使うが、急ぎの時に限っていた。後は適宜、走ったり駆け足だったりで対応していた。


「いえ……あなた一人ならともかく、少女も徒歩とは」


 なんだか遠回しに甲斐性がないと言われているような気がして少しむっとしたが、事実なので言い返せなかった。


「それで?」

「それで、とは?」

「この町で宿を取ったところ、あなたが外出した隙にさらわれたと」

「…………」


 ぐうの音も出ないとはこのことを言うのだろう。さらに不甲斐ないとまで言われてしまい、さすがのミツルもなにも言い返せなかった。

 反論できない事実をつきつけてくるヤツは嫌いだ。

 とふてくされたいところではあったが、ミツル一人ではどうすることもできない状況であるから、どうにかして協力を取り付けたいところである。

 しかし、ミツルは『インターである』という弱みを常に抱えている。

 普段だったならばそれほど気にしないのだが、今回はナユの命がかかっている。インターだとバレたら協力を仰ぐどころか、ミツルさえ危険と思うと、気が気でない。

 いっそのこと、ここでインターであると告白した方がいいのだろうか。

 いつになく弱気な自分に苦笑しつつ、どうしたものかと思案していたら、自警団の男が口を開いた。


「それで、インターのあなたは嘘をついてまで金髪の少女を探している理由はなんですか」


     *


 ナユの荷物ともども取られた上に牢屋に突っ込まれてしまったミツルは焦っていた。

 こうしている間にもナユの身が危ないというのに、案の定、インターだというだけで捕まってしまった。

 いやそれよりも、どうしてインターだと分かったのだろうか。

 分からないことと苛立ちでミツルはむしゃくしゃしていた。

 やはり素直に乗り合いに乗れば良かったと思ってもそれは後の祭り。

 女連れの時はケチったら禄なことがないという教訓にすることにしたのはいいが、それは次に役立てることが出来るのか不明だ。

 インターがインターの世話にならなくてはならない事態になるのかと思ったら、笑うに笑えない。

 それにしても理不尽だとミツルは思う。インターがいなければ国が滅びるというのに、インターだというだけで牢屋に放り込まれるのだから。

 この仕組みを作ったヤツ、出てこい! とミツルはいつも思うのだが、出てきた試しがない。

 こんな綻びだらけの性善説に乗っ取った仕組みなんていかにも神が考えそうだよなと思ったけれど、そう貶めたところで神が現れる気配もない。

 やはりこの世には神も女神もいないのかもしれない。

 とはいえ、死体が土に触れた途端に動く死体になるし、草木の成長速度の異常な早さはやはり女神の力が存在するとしか考えられない。

 そんなことを考えたからといってここから出られるとも思えないし、ミツルがここにいるからといってナユが戻ってくる気配もないし、本当にどうしたものか。

 手紙を届けてほしいと言ったところで届けてもらえるとは思えないし、助けを求められる状況でもない。すなわち、ミツルは八方塞がりに陥っていた。

 なんだこの超上級ハードモードで一歩進んだだけで詰みまくるのは。

 それともなんだ、自警団はナユを誘拐していたヤツと手を組んでいるのか?

 いやそれより、どうして金髪の少女ばかりがさらわれている?


 考えなければいけないことがたくさんあるのに情報が少なすぎて、手も足も出ない。

 泣きたい。思いっきりわんわん言って泣きたい。今までそんな風に泣いたことはないけど、泣きたい。

 インターとして生まれたという時点で弱音は吐けないけれど、吐きたい。

 これならばまだ、殴る蹴るの暴行を受けて、あー、死ぬかもな、となった方がマシだ。

 中途半端に保護されているような状況なのはどうなんだろうか。


「……保護?」


 ミツルは自分が今、思い浮かべた言葉を思わず口にした。

 保護ってなんだよ、俺はインターだぞ? あっちに行けと言われて石を投げられるのは朝飯前、囲まれて数十人からぼこぼこにされたこともある。よく生きていたなと思ったけれど、後にも先にもあれが一番、酷かった。


 だから今は過去を振り返っている場合ではなくて。


 保護はあり得ない。保護ならばやはり牢屋には入れられないだろう。

 となると、やはりミツルはインターというだけで捕まったのだろうか。やっぱりなにかおかしい。

 ミツルからケンカを売ったものの、あいつらは人攫いだ。向こうが捕まるのなら分かるが、こっちは連れが連れ去られている。被害者だ。

 そういえば自警団の男はなんと言っていた?

 ミツルのことを嘘つき呼ばわりしていなかったか。

 嘘ってなんだ。

 まあ、半分くらいだましたような状況とはいえ、ナユの同意も兄を保護者と言っていいのか分からないが、家族の了承を得てインターの本部で働いてもらっている。少ないながらも給料は払っている。

 服だって貢いでいる。……ああ、これはミツルが勝手にしているだけの話で、私的なものだからそれは入れないとして。

 ミツルとナユの関係は、雇い主と従業員でとにかく間違いない。嘘はついていない。

 インターだと言わなかったのは、自分の身の保全だ。屁理屈といわれるかもしれないが、言ってないから嘘はついていない。

 どこに嘘があるというのだ?


 ミツルは苛立って牢屋の格子を掴んでみたが、木で出来ているのにびくともしない。何度か叩いたが、こんな程度で壊れていては、牢屋の意味がない。蹴っても自分の足が痛いだけだと分かり、ミツルは諦めた。


 あまり上等とは言えないが、身体を横たえることが出来る場所がある。ナユのことは気になるが、この様子では長期戦を覚悟しなければならないだろう。

 だからミツルはいろんなことを諦めて、眠ってしまうことにした。


 

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