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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
二部*一章 穹(そら)の民

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05



※後半、若干の下ネタを含みます。





 無駄とはどういうことなのだろう。

 いやそれより、今の言葉はだれに向かって言っているのだろうか。ナユは未だに呑気に夢の中だし、ほかにここに人がいるような気配もない。

 混乱していると、気配がさらに近寄ってきた。だけどある程度の距離になると、それ以上は近づいてこない。不思議に思っていると、がたんと硬質な音が聞こえた。

 そしてそれでシエルは気がついた。

 どうやら牢屋に閉じ込められているらしい、と。

 ナユが寝ているため、シエルの意識ははっきりしていても周りが見えない。耳は塞ぐことはできないから聞こえるし、匂いも分かる。だけど身体を動かすことができないため、目を開けて周りを確認することができないのだ。

 それならばナユの中から抜け出してミツルに伝えようとしたけれど、また、声がした。


「だから、無駄ですよ」


 だれに向かって言っているのだろう。


「身体の持ち主は当分、起きませんよ」


 その声は明らかにナユの中にいるシエルに向かってだった。

 今まで、だれにも気がつかれたことがなかった。シエルのことを知っているミツルには話をしたが、きっと言わなければ気がつかなかったはずだ。

 ずっと一緒に暮らしていた家族さえ気がついていなかった。

 それだと言うのに、どうして気がつかれた?

 なんだかとてもマズいのではと、もう一度、ナユの身体から抜け出そうとしたのだが出来なかった。


「あなたの動きは封じていますから、あがいてもむだですよ、そらから落ちた女神」


 忘れて久しい呼び方に、シエルはナユの中で息をのんだ。


     *


 シエルが窮地に陥っている頃、ミツルはこめかみに血管を浮かせながら、とある集団の話に聞き耳を立てていた。

 ちなみにここに至るまで、ナユが行方不明になってからそれなりに時間が経っていた。


 ──めぼしい酒場に入ってみたのだが、特に変わった様子はない。

 腹も減っていたし、食べながら軽く飲んで情報収集をしようかと思っていた矢先、店の外からざわめきがしてきて、もしやと思って出てみると、品のなさそうな集団が威張り散らして歩いているところだった。

 なんとなくこいつらではないかとこっそりと後を付けていくと、この辺りで一番大きな酒場に入っていくのが見えた。

 個室を取られたらマズいと思いつつも、しばらく外で待っていると、店内から騒ぐ声が聞こえてきた。

 そのことにほっとしつつ、ミツルは店内に入り、集団の近くへと席を取った。

 料理と酒を適当に頼み、つまみながら聞き耳を立てていた。

 集団の人数は十人。筋骨隆々とした厳つい男が集団のカシラのようだった。

 そいつを中心に、ガラの悪い男たちが大騒ぎしていた。最初はなにを話しているのか聞き取れなかったが、少しずつ内容が分かってきた。

 そして、この男たちがミツルの読み通りにこのところ世間で噂されている誘拐犯のようだと判断した。


「それにしても、今日の娘は今までで一番、きれいだったな!」


 カシラの言葉に周りの男たちが下品な声でそれに答えるように笑った。


「なんすか、カシラ。惚れちまったのかい?」


 そのヤジにカシラと呼ばれた男は酒に酔ったのとは別で赤くなっていた。

 それを見たミツルは苛立ちが募った。


 ガラになく照れてるんじゃねーよ、ナユは世界一かわいいに決まっているだろう!


 ……と思っている辺りはカシラと同等であるのだが、それはさておき。

 カシラは鼻の下を伸ばすと、ぐへへと下品な笑い声をあげた。ミツルの苛立ちがさらに募った。


「あの金色の髪も、華奢な身体も、碧い瞳も……よかったなぁ。儚そうな感じもそそるというか」


 中身は残念なんだけどな! とミツルは心の中で突っ込みを入れておいた。

 それにしても、他の男がナユの話をしていると思っただけでむかむかする。

 今すぐ飛びかかりたい衝動と戦いながら聞き耳を立て続けていたのだが、次の言葉で我慢の限界を超した。


「いやあ、啼かせたいなあ」


 カシラのその言葉に周りはどっと笑ったが、それと同時にミツルはぶつんと自分の中でなにかが切れた感覚がした。

 今までインターであることに対して侮蔑の言葉をさんざん吐かれたことがあったが、こんなに切れたことはなかった。

 耐えられなくて、ミツルは荒々しく立ち上がってテーブルを強く打ち付けた。

 食器はすでに下げられていて、卓の上には中身がなくなった木で出来た杯が置かれていて、衝撃に飛び上がって音を立てて床に落ちた。

 それからミツルはおもむろに背負っていた円匙スコップを構えると、カシラへ先の平たくて細い部分を向け、真っ直ぐに突き出した。

 周りにいた仲間たちは鋭い突きをかろうじて避けたが、周りの卓を突き飛ばしたり、巻き込んだりした。


「なんだっ!」


 カシラは背負っていた円匙を引き抜いて皿の部分でミツルの突きを受け止めたが、思っているよりも重たい攻撃に腕が痺れ、円匙を取り落としそうになった。

 さらにミツルは円匙を押しつけてカシラが均衡を崩したところに畳みかけるように円匙を振り上げて、叩きつけた。

 店内にきゃーっという声が響き、カシラの持っていた円匙は真っ二つに折れた後、固い音を立てて床に落ちて跳びはねた。


「おまえ……。オレサマの円匙になにしやがるっ!」


 二つに折れて吹き飛んだ円匙を見ても、ミツルの気持ちは治まらなかった。

 こいつらのせいでナユがいなくなった挙げ句、ナユを肴に酒を飲んでいたのが我慢ならなかった。


 ナユのことを話していいのは、俺だけだ。ましてや、啼かすだなんて、それも俺だけの特権だ!


 とミツルは腹の中で思っているわけだが、なんだかいろいろと間違っている気がするのはさておき。


 ミツルは円匙の先をカシラに向け、座った目で睨みつけた。

 そんなもので屈服するような連中ならば今頃こんな裏家業をしているわけもなく、引き下がるわけがない。


「おめーら、やっちまえ!」


 カシラの合図に酒場は乱闘騒ぎとなった。

 ミツルは一対多という状況にも関わらず、かなり好戦した。

 そして戦闘が始まって少ししてから自警団がやってきて、騒ぎは終了した。


     *


 自警団の詰め所に連れてこられたミツルは、ナユが先ほどの集団によって誘拐されたということを話した。

 ちなみにあのガラの悪い集団は、ものの見事に全員、逃げていた。


「……ふむ、そういう話をしていたと」


 ミツルの話を聞いた自警団員はうなり声をあげた後、部屋を出ていった。

 ようやく一人になることが出来て、ミツルはため息を一つ吐いた。

 一人でカシラを除いた九人を相手にしたためにあちこち殴られて傷を負っていたが、これくらいの怪我ならまだマシだと思ってある辺り、インターであるというのはなんとも不憫である。

 荷物をあさって傷薬を取り出し、殴られて切れている口の端や頬や額、まぶたに塗っておいた。あとは腕や肩、腹やら足を殴られたり蹴られていたが、傷にはなっていないと思われた。

 かなり痛いが、頭に血が上ってケンカをふっかけたのだから仕方がない。これで済んだのだからかなりマシだろう。

 身体の状態の確認が済んだ頃、先ほどの自警団員がもう一人を連れて戻ってきた。


「もう少し詳しい話を聞けないだろうか」


 男はそういうと、ミツルの前に腰掛けた。


 

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