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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *五章 次へ

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03

 いつの間にかイルメラが戻っていて、お茶を出してくれた。

 それを飲みながら、村長は話を続けた。


「アヒムがそうして受け入れて、必死に育てているのを村人は見ていました。そしてアヒムはいつしか、村人の信頼を勝ち取っていました」


 ここまで身をていしているのを見れば、馬鹿だと思いながらもなにも言えない。


「あなたが本部を作って、国がインターを常駐させよなんてお達しを出して、そして城下町から近いここにインターが来ることになりました」


 本部を設立してからのそこまでの経緯を思い出し、ミツルは少し遠い目になった。

 本当にあれは大変だった。

 しかし、国からお達しを出してくれるまでどうにかこぎ着け、城下町から近いところからインターの常駐が始まった。


「申し訳ない話、我が村も受け入れるか否か、揉めました」

「まあそうだろうな」


 そもそもがそれまで、インターは忌み嫌われていてどこにも住めない状態だったのだ。国から言われたからといって、素直に受け入れられるのならインターはこんなに苦労はしていない。


「しかし、アヒムの一言で受け入れることになりました」

「それほどアヒムの発言は村に影響力を持っていたのか?」

「影響力はありました。なんといっても、村の稼ぎ頭でしたから」


 アヒムはどれだけの努力をしてきたのだろうか。本当に計り知れない。


「受け入れることが決まり、イルメラさんの赴任が決まって後数日というところで、ラウラが亡くなりました」

「ああ、それは覚えている。前倒しで赴任して、インターとしての仕事をこなしたのは報告書で読んだ。そうか、あれはナユの母だったのか」

「アヒムはラウラが亡くなるのを予感していたのかもしれません。いつ亡くなってもいいように、インターを受け入れることにしていたのかもしれないですね」


 そういう経緯があったにも関わらず、コロナリア村はイルメラの常駐を認め、現在に至っている。


「それに、ラウラの件で確信したことがあったんです」

「なんだ」

「死んだら必ずインターにお世話になる。だったら、見ず知らずのインターにお世話になるよりは、知っているインターの方がよいのではないかと」

「なるほど」

「私たちは、死を畏れるあまり、インターを遠ざけようとしました。結果、インターというだけで辛い目に遭わせてきてしまったのではないかと」

「……そう思ってくれる人がいるだけで、俺たちは救われる」


 思ってもいなかった言葉がぽろりと出てきて、ミツルは戸惑った。しかし、村長はミツルの言葉に笑みを浮かべた。


「ですから、わたしたちはあなたたちインターと縁を切ろうなんて思っていません」

「ありがたい」


 部屋の片隅では、イルメラが泣いていた。

 普段はとても明るいが、やはり彼女もインターだ。大変な苦労をしてきているのだろう。


「インターを受け入れて、良かったと思ってます」

「本当にそう思うか?」

「はい。もしもイルメラさんがいなかったら、あなたたちがここに来るのが遅れて、村そのものがなくなっていたかもしれません」

「…………」


 村長はそれでよかったと言っているが、本当ならば犠牲者はアヒム一人で済んでいたかもしれない。そう思うと、悔やまれて仕方がない。


「後は、ナユのことですが」

「ああ」


 そう言えば、村長から支払いとナユの件と聞いていた。てっきりヒユカ家の話で終わりかと思っていたのだが、違っていたようだ。


「あの子は、天涯孤独の身になってしまいました」

「……ああ」

「アヒムに恩義があるので、養子として迎え入れる話を親族にしたのですが、全員一致で断られました」

「なぜ」

「……ラウラの出自が不明だからです」

「あー……」


 いくらアヒムの子だとしても、ラウラがどこのだれか分からない以上、村長の家族にするわけにはいかないようだ。


「親権者が必要ということか」

「はい」

「ナユは今、町の宝飾店に勤めているというが、そこはどうなんだ?」

「あの人ですか……。悪くはないと思いますが。……推薦状を書きましょう」


 村長はそういうとお茶を飲み干し、立ち上がった。


「あと、大変申し訳ないのですが、一部の村人がナユを拒否してまして」

「プミラか?」

「……お恥ずかしながら」

「まあ、ナユも村から出て行くといっているし、行き先がないわけではなさそうだしな。あとは、生前のバルドと約束したことがある」

「約束……ですか」

「ああ。ナユを借りるとな」

「はぁ。ナユは不器用ですよ」

「知ってる」

「物覚えは悪くないですが、なにせ不器用ですから」

「後、とんでもなく方向音痴だ」


 歌が下手くそなのもミツルは知っていたが、それはあえて口にしなかった。


「根性と責任感だけは父のアヒムに似てありますから、使えると思ったら使うといいです」

「分かった。身の保証はしよう」


 村長はそれだけ聞くと、待機所から出て行った。


「本部長、いいんですか、あんなこと言って」

「あんなことって?」

「ナユちゃんのことですよ」

「あー。外堀から埋めて、逃げられないようにしないとな」

「はい?」


 ミツルは楽しそうに笑うと、イルメラを見た。


「さて、そろそろ腹が減ってきたんだが」

「はい、夕飯ですよね」

「俺も手伝うぞ」

「えっ? 本部長、料理できるんですか?」

「できるぞ。俺は本部長だからな!」

「まあ、さすがですわ、本部長!」

「当たり前だ! ふははは、もっと褒め讃えるがいい!」


 方向性はやはりナユと一緒だった。


     *


 ミツルが手伝ったおかげで夕飯は早くでき、さらにはなぜか村人が次から次に来て食べ物を置いていくので食べきれないほどだった。

 イルメラが作ったチューレが大人気で、すぐに売り切れてしまった。


「イルメラさん、今度、作り方を教えてね」


 それまでは遠巻きでしか見ていなかった女性陣もチューレの美味しさに虜になり、イルメラはたくさんの人に囲まれていた。

 その様子を見ていたミツルは目を細めて眩しそうにしていた。


「ちょっと、ミツル」

「ん、なんだ?」

「村長から推薦状なんてもらったんだけど、なにこれ?」

「村長から聞かなかったのか?」

「うん、ミツルから聞けって」


 面倒ごとをこちらに投げやがってと思ったが、書いてもらえただけありがたい。


「村長と今後とおまえの身の振り方を話したんだよ」

「本人不在で?」

「あー、悪かった。そうだよな、呼べば良かったな、すまん」


 ミツルから素直に謝られて、ナユは戸惑ったものの、続きを促した。


「ナユはこの村に残りたいか?」


 ミツルの質問に、ナユは小さく首を振った。


「ここは辛いから、町がいい」

「それなら良かった。今まではアヒムが親権者だったけど、亡くなったからな。村長がなってもいいと言っていたが、そのな」

「母さんの件があるから駄目なんでしょ」

「……おまえ、知ってたのか」

「知ってるに決まってるでしょ。母さんが寝てる時に限って嫌がらせのように起こしに来ていたのよ?」

「そか……」


 村長の話しぶりからするとそんな大変そうに思わなかったが、自分たちに都合の悪いところは端折っていたのだろう。


「たぶんミツルが村長から聞いた話、全部知ってる。父さんとも血が繋がってないのも」

「ナユ……」

「でもね、わたしの父さんはアヒムだし、兄さんもバルド、カール、クルトなの」

「うん、そうだな」


 破天荒な言動に隠れていたけれど、ナユもとても傷ついてきていた。

 知っていた上でわがままに振る舞っていた。


「わたしの自慢の家族なの」

「うん、自慢できる」

「でしょっ? 筋肉は正義なのよ!」

「あー、はいはい」


 ミツルが流したことでナユはミツルを叩いたけれど、手を止めた。


「それで、これをどうしろと?」

「いろいろ相談しないといけないんだが、宝飾店の店長は保護者代わりになれないのか?」

「んー、どうだろう?」

「俺はインターだからな。いろいろと制限があって無理だ」

「へ? そうなの?」

「インターは人にあらずだからな。今、それを改善させるために掛け合っている」

「……ひどいんだね」

「まあな。だから今は結婚は無理だけど、子作りは出来るぞ」

「なっ?」

「さて、と」


 さらっとミツルはシモなことを口にして、何事もなかったように伸びをした。


「明日、戻るんだろう?」

「え、あ、うん」

「送っていってやる」

「あ……うん」


 ミツルはナユの頭を軽く撫でると、手を振って離れていった。


「ちょっと、なにあれ」


 触れられたところに手を当てて、ナユは真っ赤になっていた。


 

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