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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *五章 次へ

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02

 頭を下げた村長に対して、ミツルはどうすればいいのか分からず、固まっていた。


「この度はありがとうございました」

「お、おう」

「プミラが失礼なことを申したのに、我が村のために尽力してくださった」

「いや……その。なんだ、うん」


 罵りの言葉ではない感謝の言葉はやはり慣れていなくて、ミツルは戸惑う。


「本日来たのは、支払いの件とナユの件できました」


 支払いといわれて、ふっかけた金額を思い出して思わず顔がひきつった。


「コロナリア村はご覧の通り、それほど裕福な村ではありません。しかも今回、稼ぎ頭を四人も失いました」

「おう……」

「森が焼けてしまったものの、村は無事でした。感謝してもしきれません」

「あ、あぁ」

「そこで、お願いがあるのです」

「なんだ」

「いえ、決して値切りに来たわけではなくてですね!」


 ミツルの顔色を読んだらしい村長があわててそんなことを口にした。

 別に値切られたらそれはそれでいいかなとミツルは思っていたので、ちょっと意外ではあったのだが、続きを促した。


「実はユアンさまとお話をしたとき、分割だと十回と言われたのです」


 二百万フィーネを十回に分けてということは、一度に二十万フィーネ。かなりきついのではないだろうか。


「申し訳ないのですが、回数を増やしてもらってもいいでしょうか……?」

「何回なら大丈夫だ?」


 ミツルの質問に、村長は顔をひきつらせながら口にした。


「一度の返済額を五万フィーネにしていただきたく……」


 となると、四十回。


「別にこちらはいいんだが、逆に聞くが、それだけ長い間、インターと関わることになるが、そちらはそれでいいのか?」


 ミツルの問いに、村長はこくこくとうなずいた。


「わたしたちはインターに対して誤解していたと分かりました」

「誤解」

「はい。インターがいるから人が死ぬのではなく、人が死んだからインターがいると。現にイルメラさんがここに常駐してからこちら、だれも死んでません」

「でも、今回は四人死んだ」

「それはイルメラさんのせいではなく、カダバーのせいでしょう」


 村長の答えに、ミツルは目を見開いた。


「それに、イルメラさんはこのままここに残してほしいのです」

「置いててもいいのか……?」

「はい。虫のいい話ですが、今回、四人もの働き手を失ってしまいました。さらにイルメラさんまでいなくなると、困るのです」

「イルメラがこの村で役に立っていると?」

「はい、大いに!」


 村長のその一言に、ミツルはなんともいえない気分になった。

 今までどこに行っても厄介者扱いされてきたインターが、受け入れてもらえる。

 それは今までのイルメラの努力によるところも大きいだろうが、きちんと認識してくれて、受け入れてもらえている。

 こんなに嬉しいことはない。


「ですから、わたしたちはインターと縁を切りたいと思っていません。むしろ歓迎します」

「……なんで」

「はい?」

「どうしてそう、思った」


 あまりの出来事に、ミツルは動揺していた。

 ミツルはそうなることを夢見て本部を作った。作ったところで、インターの地位は低いままだった。

 だけど今、小さな村だけどミツルの望んでいたことを示してくれている。

 夢が現実になった予感に、ミツルは震えた。


「それには、ヒユカ家のことをお話ししなければなりませんな」

「ヒユカ家の」

「少し長い話になります。座ってもいいですか?」


 村長に促され、ミツルは慌てて椅子を進めた。

 向かい合って座り、村長は話し始めた。

 ヒユカ家の長い話を。


     *


 ヒユカ家のアヒムには二人の姉がいたという。

 二人の姉はそれぞれ別の村へと嫁にいった。

 やがて上の姉が妊娠して、子どもが産まれた。それから数年後、二番目の姉も双子を生んだ。


「え……?」


 村長の話にミツルはまさかと目を見開いた。


「姉の子どもが五つの時に、移る病が流行りましてね。姉の家族は子どもを残して全滅、二番目の姉のところも似たような状況でして、アヒムが三人を引き取ったのですよ」

「それでは……」

「ええ、実はアヒムとバルド、カール、クルトは直接の父と子ではなかったのですよ」


 意外な話に、ミツルは無言になった。

 とても仲の良い家族だと思っていたけれど、違っていたというのだ。


「ナユが知っていたかは分かりませんが、バルド、カール、クルトはアヒムが実の父ではないのは知っていました。ですけど、実の父のように慕ってましたね」


 無言のミツルを見て、村長は続けた。


「それからアヒムは一人の女性と結婚しました。金色の髪に紫の瞳の美しい女性でした」

「紫の……瞳」


 それの意味するところは二種類ある。どちらか判断できなくて、ミツルは村長を促した。


「結婚してすぐ、女性は女の子を産みました」

「え……?」

「その子はナユと名付けられました」

「ちょ……っと待ってくれ」

「はい」

「ナユの母は」


 ミツルの問いに村長は首を振った。


「お察しの通り、いろいろと言われました。あまりにもきれいな人だったので、魔族でアヒムはたぶらかされたのではないかとか、罪人なのではと」


 紫色は冥府の色。

 生まれながらに身体の一部にその色を持っている人は魔族か、あるいは罪を犯してその身に紫色が宿った人のどちらか。


「しかも結婚してから子どもがすぐ生まれたので、ますます疑われたようです」

「それに対してアヒムは……?」

「相手の親をなかなか説得できなくて結婚が遅くなっただけだと言い張ってました」

「アヒムに特定の女性がいるような雰囲気は?」

「なかったので驚きました。しかし、秘密の関係だったのならば隠していた可能性もありますが、アヒムは馬鹿がつくほどの正直者ですから、その言い分は怪しいものです」


 ナユの父が本当にアヒムだとすれば、あの三兄弟とは血縁関係がある。もしも父がアヒムではない場合は……父がだれだということになるが、それは今はよいとしよう。


「ナユの母はラウラという名前だとアヒムがいってました。ただ彼女は口が利けなかったので、それが本名かは分かりません」


 そうしてヒユカ家は寄せ集めだけど、いや、だからなのか、とても強い絆で結ばれた家族となったというのだ。


「ラウラに関しては村は揉めに揉めたんですよ。受け入れる、受け入れないと。ヒユカ家は当初は村の中に家があったのですが、あまりにも揉めるので村外れに小屋を造って、アヒムはそこに移り住みました」


 それでヒユカ家だけ外れた場所にあった理由が分かった。


「バルドたち三兄弟はラウラにとても懐いてました。しかし、ラウラは寝台から起きあがれないほど弱ってました。ナユを無事に産んだことが奇跡だといわれていたくらいでした」


 それでバルドが『ナユはああ見えても苦労してる』と言ったのかと合点したが、想像していたより悲惨ではないだろうか。


「アヒムが甲斐甲斐しく世話をしていたので、ラウラが死ぬことはありませんでしたが、それでも、今日か明日かといった感じではありました」

「……それで、多大な借金か」

「はい。評判がよいと聞けばどんなに遠くても行って薬を手に入れては飲ませていました」

「医者には?」

「定期的に診てもらっていましたよ」


 ミツルは話を聞いていくうちに、アヒムは馬鹿なんではないかと思ってしまった。

 しかもどうにもラウラのことを前から知っていたとは思えない。なにか事件に巻き込まれていたのを助けたのではないだろうか。そしてアヒムはラウラに一目惚れした。

 生前のアヒムを直接知らないが、もてない筋肉馬鹿がやりそうな行動だと思った。


「アヒムはとても責任感の強い男でした。だからこそあの三兄弟をあそこまで立派に育てられたのかと」

「ナユは?」

「ナユには甘かったですね。見ているこちらが胸焼けしそうなくらい溺愛してました」


 話を聞く限りでは、やはりナユはアヒムの子ではなさそうだ。それでもアヒムは見捨てることなくラウラとナユも見ていた。


 報われそうにないのに、本当に馬鹿な男だ。


「この村は、惜しい男を亡くしたな」

「はい、まったくです」


 村長とミツルの間に沈黙が落ちた。


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