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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 真犯人

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06

 炎の魔法が発動したときに巻き込まれてしまったのではと心配していた四体が無事だったことを知り、ほっとしたのは束の間。

 これは逆に危機ピンチではないかとミツルは気がついた。

 人の心配よりもまずは自分の安全を確保しなければならないことに、ミツルは焦った。

 しかも今はシエル付きナユも連れている状態だ。不利以外のなにものでもない。


「ミツル、大丈夫よ」


 同じ声のはずなのに、落ち着き払った声音ですぐにそれがナユではないことが分かった。


「いざとなったら土の障壁で守ってあげるから」

「……魔法発動の衝撃波で腰を抜かすようなヤツがか?」

「あれは……! 不意打ちだったのよ! 魔法の気配がないのにいきなりだったから!」


 その一言にミツルは違和感を覚えた。

 ミツルはインターだから死体の気配には敏いが、魔法はまったく分からない。ただ、何度か魔法陣を見たことがあるからすぐにそれだと分かっただけだ。

 インターが死体の気配に敏感なように、魔法使いも魔法の気配には敏感なはずだ。

 ミツルは何度かシエルが不思議な力を使っている現場に遭遇している。

 シエルはミツルの師匠ではあるが、シエルがインターではないことは知っていた。基本は抜けているのだが、妙な部分で博識だからインターとしての知識を教えられたと認識していた。

 シエルははっきりとは言わなかったが、土の魔法に精通しているのだろうとミツルはにらんでいた。土とインターは相性がいい。


「……ということは、カダバーは魔法使いではないと?」

「たぶんね」

「魔法使いではない者があんなでかい魔法を使えるのか?」

「使えるわよ。だからこその魔法陣よ」


 もしかして、発動するまでだれも気がつかなかったのは、カダバーが魔法使いではないからだったのではないだろうか。


「この魔法陣、すごくいやーな予感がするのよね」

「嫌な予感?」

「うん。きちんと見てないから分からないけど、どうしてこれがここにあるのか分からないのよ」

「相変わらずわかんないな」

「んー。話すととっても長くなるから止めておくけど、あなたたちの尺度で言わせてもらうと、超古代魔法陣なのよ」

「は? なんでそんなものをカダバーが」


 ますます訳が分からず、ミツルは眉間にしわを寄せた。


「今回の件、黒幕が別にいるような気がするのよね」

「なんだ、それ」

「ところで、ミツル。あの魔法陣を作ってるのを見てたんでしょう」

「……見ていたが」


 話をはぐらかされたが、それはいつものことなので言及しないことにした。今、聞いたところで答えないだろうし、必要であればシエルはきちんと話してくれる。だから今は流しても問題ないと判断して、シエルの質問にミツルは素直に答えた。


「どうやってた?」

「どうって言われても……。四体に木を倒させて、穴になにかしていた」

「はっはーん。なにか魔法の媒介を埋め込んでいたわね、それ」


 話をしている間にも炎は広がってきていた。しかもカダバーたちも近寄ってきていて、ミツルとナユに気がついたようだ。


「カダバー、炎を止めろ」


 ミツルの言葉に、カダバーは笑っただけだった。端麗な顔はかなり顔色が悪かったが、自信に満ちた笑みはミツルを苛立たせた。

 しかしすぐにカダバーのその笑みは苦痛に歪む表情へと変わった。脂汗を垂らしながら、左肩を押さえて呻いている。

 カダバーの後ろにいるルドプスの色がだんだんと鮮やかな紫色へと変化していくのを見て、ミツルは気がついてしまった。


「おまえ、まさか」


 ミツルはナユをかばいつつ、少しずつ後退をはじめた。

 今回の件はなにかがおかしいと思っていたが、その疑問が今、分かった。


「くそっ、動く死体がもう一体だったのか! シエル、おまえはユアンとは面識があったか?」

「あるわけないでしょ」

「あああ、そうだった!」


 通常の動く死体なら、これくらいの数だったらミツル一人で対処できるが、この四体は恐ろしいほど連携が取れている上に身体能力が高すぎる。一対一でも勝てるかどうか怪しい。


「ナユ……ナユぅぅぅ」


 カダバーの口からはナユの名前だけが何度も繰り返された。


「くそっ。ナユの名前を気安く呼ぶなっ!」

「あらやだ、ミツルったら。そんな嫉妬しなくても」

「うっさい! ったく、どうしてそういうのに敏感なんだ」

「やっぱり乙女だからね。もー、やだわ。なんていうの、そんな純情なミツル見てたらこっちが恥ずかしいわ」

「うるせー!」


 ミツルはシエルの突っ込みに真っ赤になったが、それどころではない。


「シエル、おまえ、ナユの振りしてユアンを呼んでこい」

「ユアンってあの金髪で眼鏡を掛けてる子よね」

「子って……。いやまあ、間違いないが」


 ユアン本人が聞いたら顔をひきつらせるようなシエルの呼び方にミツルもひきつったが、肯定はしておいた。


「彼を呼びに行くよりも、あたしを使えばいいじゃない」

「……は? おまえ、インターじゃないだろう?」

「違うわよ」

「いくら知識があるっていっても、あいつらを止められないだろう?」

「火は消せないけど、あの子たちを足止めすることぐらいは簡単よ」


 そう言ってシエルはミツルの前に出て行こうとしたので、抱きつくような形で慌てて止めた。


「ミツルから抱きついてくれるなんて、うれしいなあ」

「ちょ、ちがっ! なっ、おまっ! どこさわっ……あ、やめっ!」


 こんな時だというのに、シエルはミツルの身体をまさぐり、なにかを確認していた。ミツルはくすぐったさに身悶えるだけ。


「なるほど、筋肉か。ミツル、いいこと教えてあげる。ナユは顔より筋肉が好きなのよ」

「……は?」

「せいぜい、ナユに好かれるように筋肉を鍛えなさいって助言をしてあげてるの」


 一通り触って満足したのか、シエルはミツルから離れて、くすくすと笑った。


「統率してたカダバーも動く死体になったから、この状態ならミツル一人でどうにでもできるでしょ? 特別にあの五体に足枷をしておいてあげたから、煮るなり焼くなり刻むなり、好きにするといいわ」


 それだけいうと、ナユの身体はがくんと揺れた。


「ちょ、おまっ!」


 ミツルは慌ててナユの身体を支えた。

 この状態で去っていくとは、相変わらず無責任というか、気まぐれというか。


「おいっ、ナユ!」


 頬を軽く叩くと、うーんとうなり声が聞こえ、碧の瞳が開いた。


「あ……れ?」

「大丈夫か?」


 ミツルの心配そうな視線にナユはドキリとしたけれど、慌ててミツルのマントを掴んで起きあがった。


「お父さんと兄さんたち!」

「無事っていうと変だが、炎には巻き込まれてないよ」

「……よかった」

「それよりも、カダバーまで動く死体になりやがった」

「……え?」

「たぶんバルドだな。右側にいるの、前より鮮やかな紫色になってるだろ」

「うん。……ルドプスは動く死体とどう違うの」


 ナユの質問に、ミツルは目を伏せた。

 動く死体とルドプスの違い。

 どちらも動く死体という点では違いはないが、決定的な違いがある。


「動く死体が生き物を殺すとルドプスになると前に説明したが、違いはそれだけではない」


 説明しなくて済めばそれで良かったのだが、そういうわけにはいかないようだ。

 ナユ相手でなければ淡々と説明が出来ていたのだが、どうにもナユ相手だと調子が狂う。


「……ルドプスになると、女神の元へと還れなくなるんだ」

「え……」


 動く死体が発生することは稀。ルドプスになるのはさらに稀。

 そのために知られていないことだが、ルドプスは女神の意志に反して生き物に手をかけてしまったため、女神の元へ直接、行くことが出来なくなる。

 ルドプスになると、女神の元ではなく冥府へと旅立つ。そしてそこで罪を償ってようやく女神の元へといけるのだ。

 しかし、身体は消えてなくなるので女神の元へ旅立ったかのように見える。しかも最終的には女神の元へ行き着く。だからインターはあえて説明をしてこなかった。


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