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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 真犯人

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04

     *


 ミツルは広場からかなり離れたところでフードを外し、大きく息を吐いた。

 村人の手前、ああ言ったが、このままミツルは帰るつもりはなかった。

 ユアンあたりが村長にいろいろと交渉してくれるだろうと見込んで、ミツルは森に入ろうとしたところ。


「ちょっと、ミツル! あんた、どーいうつもりなの!」


 案の定、ナユが後を追ってきた。

 思惑通りの行動に笑みを浮かべそうになるのを我慢して、しかめっ面で振り返った。


「まんまだ」

「なにがまんまよ! この馬鹿男がっ!」


 お礼を言われることはないのは分かっていたが、まさかここで罵りの言葉が来るとは思っていなかったミツルは目を見開いた。


「せっかくこのナユさまが溜めに溜めまくった後にありったけの罵詈雑言を吐いてやろうとしていたのに、なんで邪魔するのよ! しかもわたしをかばっていい人ぶりを見せつけるとは! 最低よ!」

「…………」


 どうやらナユにはミツルの思惑が思いっきりばれてしまっているようだった。


「さすが同族だ。俺の考えを当てるとは」

「だから! 一緒にしないでよ!」

「いやあ、これは困ったなあ」


 まったく困ってなさそうにいうミツルに、ナユは思わず跳び蹴りを食らわしたが、ミツルはあっさりとかわした。


「おっと。凶暴なお嬢ちゃんだな」

「きいいい、むかつく!」


 さらに飛びかかってきそうなナユの頭のてっぺんを指一本で押さえつけてから、大げさなため息を吐いた。


「おまえの家から金が取れないのなら、村からもらうしかあるまい?」

「うわああ、なにこの守銭奴! 確かにわたしは一フィーネも払わないと言ったけど!」

「ナユ、よかったな。父と兄が人望の厚い人で」

「当たり前じゃない! 筋肉のおかげよ、筋肉!」

「……分かった。筋肉は正義だな、ほんと」


 ナユは必死になってミツルにせめて一発でもと前に進もうとするのだが、頭をたかが指一本で押さえつけられているだけで動けないことに苛立っていた。


「指、離しなさいよ!」

「どうして?」

「あんたを殴らないと気が済まないから!」

「凶暴だな」


 手足をばたつかせながら必死に向かってくる姿がかわいくて、ミツルは顔がにやけてくるのを自覚した。

 ああ、すっかり駄目になってしまったなと思いながら指を離すと、案の定、ナユは均衡を崩してミツル側に向かって倒れそうになった。


「おっと」


 そういいながらミツルはどさくさに紛れてナユの細い身体を助ける振りをして抱き上げた。


「うわっ! なにすんのよっ!」

「なにって? ナニしてほしい?」

「ちょ、あんたなんか変なこと、考えてないでしょうねっ!」

「変なことってなんだ?」

「あーんなことや、こーんなことを……っ!」

「ほう? してほしいのか?」

「ち、違うわよ! きゃっ、どこ触ってんの!」


 ミツルはナユの腰を抱え直して肩に担いで歩こうとしたら、肩の上でナユが思いっきり暴れた。


「ちょっと、なに人攫い! 森に連れ込んでナニかしようとしてるんでしょ!」

「さすが同族。よく分かったな」

「いやあああ、ヘンタイ! 降ろしなさいよ!」


 暴れるナユに顔をしかめつつ、ミツルは歩き始めた。

 さらに暴れるナユに、ミツルは一言。


「大切な家族の最期、見届けたいだろう?」


 ナユはその言葉にぴたりと止まった。


「村人にはああ言ったけど、金をもらえようともらえまいと、このままにしていけるわけないだろう」

「…………」

「俺一人で行くつもりだったけど、おまえ放置しておくとなにしでかすか分からないからな。近くに連れておいた方が安心だ」


 安全ではなくて安心という言葉に引っかかったけれど、ナユは大人しく担がれておくことにした。

 すごく不本意ではあったが、ミツルにひっついているとそれまであった不安がどこかへ吹き飛んだような気がしたのだ。

 そして見た目は細く見えるのに、引っ付いたらかなり筋肉がついていることも分かってしまった。


 筋肉にほだされた。


 父アヒムに抱きしめられたときと同じ筋肉に、ナユはあらがうことが出来なかった。


     *


 森に入ってそれほどせずに、ミツルは動く死体とルドプス四体、それとカダバーを発見した。


「あれ、カダバーじゃない」


 ひそひそと耳元で囁く声にミツルはくすぐったさを感じながら、無言でうなずいた。

 カダバーの指示の元、四体は無駄な動きなく円匙で地面を掘り、木を倒していく。


「……なにしてるの?」

「さあ?」


 木を倒した後、カダバーは倒した木よりも地面を気にかけているようだった。穴を覗いて、なにかを入れているように見えた。

 ミツルはナユを抱えたまま、その作業を見守っていたが、三本目にかかったところでナユを地面に置いた。


「たぶんだが、あいつらはおまえに危害は加えてこない。でも、危険を感じたら俺を置いて森から出ろ」

「うん、そうする」

「…………」


 でもだとか言ってごねるかと思ったが、あっさりとうなずかれて助かったが、困った。


「さて、と。カダバー、そこでなにをしている」


 ミツルが木の陰から出て声を掛けると、面白いくらいカダバーは飛び上がった。

 後ろにいるナユはそれを見て、くすくす笑っている。


「見てのとおり、木を倒している」

「この非常時に?」

「ひ、非常時とはなんのことだ?」


 四体はミツルを気にすることなく黙々と地面を掘っている。その光景は不自然だった。


「動く死体とルドプス四体か……。それらを行使しているのをみると、死人遣いか」


 ミツルは知識としてそういう人がいるのは知っていた。しかしインターとして各地を転々としていても出会うことはなかった。

 今まで、動く死体には何度か遭遇している。しかしそれらはどの場合も偶発的に発生していて、今回のような意図的な発生・・・・・・は初めてだ。


「な、なんのことだ」


 カダバーはすっとぼけるつもりなのかもしれないと踏んだミツルは、数歩ほどカダバーに近づいた。

 四体が掘っていた根元から木が倒れた。

 そして、気がついてしまった。


「くっそ、罠かっ! ナユ、急いで森から出ろ!」


 ミツルの声にナユは弾かれたようにきびすを返し、走り出した。


「くくく、もう遅い。このオレさまを怒らせるとどうなるか知るがいい!」


 カダバーの身体がゆらりと揺れたように見えた後、どす黒い空気が辺りに立ちこめた。


「リ・プ・カ」


 カダバーはいやらしいくらいはっきりと呪文を口にした。

 カダバーを中心にしてとてつもない熱さの風がミツルに叩きつけられた。

 ミツルは慌てて木の陰に隠れたが、マントの先に火がついた。

 ミツルは慌てて木に叩きつけて消したが、掘った穴から炎の渦が立ち上がり、周りの木にその舌を巻き付けはじめたのが見えた。


「くそっ」


 こうなってしまってはミツルにはどうすることも出来ない。


「はははは、馬鹿だなあ。素直にナユを渡しておけば、四人も、村も無事だったのに」


 カダバーのあざ笑う声にミツルは舌打ちして、きびすを返した。

 襲いかかってくる炎から逃げなければ焼け死んでしまう。

 カダバーもだが、四体が気になったがなんの準備もしていない状態なので、逃げることしか出来なかった。


 ミツルは森を走りながら、先に逃がしたナユがどうなったか心配していると、少し前に立ち止まっているナユがいた。


「おい、ナユ。なに立ち止ま……って。おまえ、シエル」

「ふふっ、分かってくれた?」


 見た目はナユなのに、ナユではあり得ない慈愛に満ちた笑みにミツルは足を緩めた。


「こんなところにいたら、焼け死ぬぞ」

「そうね。逃げたいんだけどね?」


 シエルはぺろっと舌を出して照れくさそうに笑った。


「さっきの呪文発動の余波を受けてね?」

「……腰を抜かしたのか」

「てへっ」

「…………」


 茶色の髪と瞳の女性体の時に同じことをされていたらどう思ったかは分からないが、今の見た目はナユのため、少し前だったら激しくムカついていただろうが、今は違う感情を持ってしまったために悶えたくなった。

 しかしミツルはそんな素振りも見せず、ため息を吐きつつ背中を向けた。


「負ぶっていく」

「えー。横抱きがいいなあ」

「今はそんな余裕はない」

「けちっ」


 これで中身がナユだったらかわいいのになと思ったが、ナユがそんな反応を返してきたらそれはそれで困ったかもしれない。


「文句言うな」


 ミツルはシエル入りナユを背に担ぐと走り出した。


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