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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 真犯人

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03

     *


  ミツルは森に入る前に村を一度、ぐるりと回ることにした。

 雨が上がったから、村人はぽつぽつと外に出てきているようだった。しかしその顔はどこかしら不安げでもあった。

 異変が起こっている様子も、新たに動く死体が発生している様子もない。

 本当に今回はいつもと違う。

 戸惑いは強いけれど、犠牲はあの四人だけで充分だ。


 それにしても、とミツルは思う。

 インターとはなんと損な役回りなのだろうか、と。

 インターというだけで忌み嫌われているのに、なんの因果か、そんな人たちを守っている。

 ありがたがられるわけでもない、むしろ嫌われているのに、そうまでして守らなければいけないのだろうか。

 それは嫌というほど投げかけてきた疑問。

 村人たちの日常生活を垣間見ても、ミツルにはこれを守らなければという思いはまったく浮かんでこない。

 それでも埋葬し続けるのは、インターという能力を授かったからなのか。

 埋葬する度、生きている意味を考えるけど、未だに答えは出ていない。


 村は問題なさそうだったので、広場方面にぐるりと回ってから森に入ろうとした。

 早歩きで広場に向かっていると、手前に人垣ができていることに気がついた。なにやら雰囲気が刺々しい。

 ミツルは引き寄せられるようにそちらに向かうと。


「────っ!」


 広場入口にナユを囲むように人垣が出来ていた。

 ナユは真ん中に立ってうなだれていた。先ほど会ったときは取り乱してはいたけれど、服装も髪の毛も整っていた。だけど今は服は破れていたし、髪の毛もぐちゃぐちゃになっていた。

 そしてよく見ると、男性が一人、女性を羽交い締めにしていた。


「落ち着けって」

「落ち着いていられるわけないでしょ! ほら、言ったじゃない! 祭りの準備を手伝わないばかりか、当日も仕事っていって参加しないから罰が当たったのよ!」


 女性の甲高い声にあたりは静まりかえった。

 ナユはますます俯いていた。


「なによ、少しばかりいい木を見る目があるからって、調子に乗って!」


 下穿きを握りしめているナユの手がさらにきつく握られたのがミツルにも見えた。


「それに、あなたも町で働いてるからって少しいい気になりすぎじゃない?」

「プミラ! 言い過ぎだ」

「言い過ぎじゃないわ! まだあたしの言ってること、かわいいものじゃない? みんなもっとひどいことを言っていたわ」

「プミラ!」


 女性の名前はどうやらプミラというらしい。プミラは拘束を解こうと暴れているが、緩む気配はない。


「ナユは家族を一度に四人も亡くしてしまったんだぞ」

「だから村を手伝わないからそういうことに……!」


 ナユはうつむき、肩を震わせ始めた。泣いてしまうかもしれないと思ったら、ミツルはいても立ってもいられなかった。

 ナユを泣かせていいのは俺だけだ、と。


 ミツルはわざと足音を立て、人垣へと近寄った。音に気がついた村人は振り返り、ミツルの表情を見て悲鳴を上げた。

 悲鳴に気がついた村人たちはそちらに視線を向け、やはりひぃと悲鳴を上げながらミツルのために道を開けた。

 村人たちは先ほどより距離を取り、ナユたちとミツルを遠巻きに見ていた。


「言いたいことはそれだけか?」


 ミツルはナユを隠すようにしてプミラの前に立った。

 プミラはミツルを見上げ、笑みを浮かべているのに明らかに怒っているミツルにやはり悲鳴を上げた。


「遺族に対して生前の彼らを冒涜するようなことを言うようにこの村では躾られるのか?」

「なっ、インターのあんたに言われる」

「筋合いはあるな。動く死体をこのままにしておいていいと判断するが?」


 ミツルの脅しに村人たちは全力で拒否をした。

 そんなことになったら、この村は全滅だ。


「そ、それだけは止めてください!」


 騒ぎが起こっているという知らせを聞いた村長が真っ青な顔をして広場に駆けつけてきた。


「プミラ! ナユに謝りなさい!」

「……いやよ。だってこの子、ちょっとばかりきれいだからって祭りの手伝いもしないでいたし、あの四人もそうよ! 許せないわ」


 プミラの主張に周りはさらに青くなった。村長はがたがたと震えだした。ミツルの周りの空気が凍っていく。


「ほう? おまえにはナユと家族を侮辱する権利があるのか?」

「あるわよ! あたしは毎日、手伝いをしたわ! なのにあたしには感謝の言葉のひとつもなくて、町から戻ってきたってだけで感謝されて喜ばれていたのよ、この子。戻ってきただけでなにもしてないのに! おかしいじゃない」


 プミラの言い分にミツルは口角をあげた。

 壮絶な笑みにプミラは気を取られてその笑みに見とれた。


「『ありがとう、助かったよ』」


 ミツルの口先だけの心のこもっていない言葉に、プミラは真っ赤になった。

 それを見たミツルは目をすがめ、プミラを見下ろした。


「こんなものがほしかったのか? こんなもののためにナユを罵ったのか?」


 ざわりと周りがざわついた。


「それはみんな、同じだろう? おまえが欲した言葉は、他の者だってほしいものだ。おまえはほしいと子どものように駄々をこねていただけで、他の者に与えていたのか? もらうだけで与えることをしなかったおまえが悪いのだろう?」

「でも……!」

「でも、なんだ?」

「あたしは朝から晩まで働いた。でも、他の人たちはさぼっていたわ!」

「さぼっていた? どうしてさぼっていたと分かる?」

「だって……井戸の周りでおしゃべりしているだけだったし」

「おまえはそこには加わらなかったと?」

「……ええ」


 プミラの返事に、周りにいた女性陣が抗議の声を上げた。


「息抜きは必要じゃない!」

「そうよ、ずっとしゃべっていたわけじゃないわよ!」

「順番待ちしてるのをさぼってるなんて、ひどすぎだわ!」

「そうよ!」


 プミラへ一斉に非難の言葉が降りかかっていた。


「……だとよ?」


 ミツルは振り返り、ナユを見た。

 泣いている様子はなかったが、心細そうにしていたから思わず引き寄せていた。

 驚いたナユはばたばたと抵抗していたが、ミツルが頭をなでると大人しくなった。


「もっと周りをよく見るんだな。それと、自分だけが……だなんて、悲劇の主人公になって酔いたいだけか?」

「違うわよ! 働いて当たり前と思われているのが……!」

「当たり前なんだよ、それが」


 ミツルの冷たい言葉にまたもやしんと静まりかえった。


「あんたなんかに頼らないわ!」


 プミラの発言に村人全員がぎょっとして、固まった。


「なにがインターよ! 死神のくせに!」

「プミラっ!」


 慌てたのは村長だ。

 ここでミツルたちに帰られたら、村は全滅してしまう。それでなくても、村の稼ぎ頭を四人も同時に亡くしてしまったのだ。

 しかも、問題はこれだけではない。

 昨夜から昼まで続いた雨のせいで、予想外に木が生長して今や村の面積が半分にまで減っていたのだ。

 一刻も早く木を倒さないと、村そのものがなくなってしまう。

 しかし、それをしたくても、今は森の中に入れない。


「ふぅん? ……ユアン、聞いていたよな?」


 ミツルの呼びかけに村人に紛れていたユアンが出てきた。


「はい。大変遺憾ですが、わたしたちは必要ないし、死神ということですから、撤退するしかありませんね」

「ナユ、悪いな。そういうわけで、イルメラ含めてこの村からインターは撤退する」


 ミツルはナユの頭を軽くなでた後に手を離し、音を立ててフードを被った。


「イルメラは撤退するのに時間がかかるのでイルメラだけ二・三日、残らせてもらうが、村長、それでいいか?」

「よ……よくありません! 困ります!」


 村長の言葉に村人たちも同意といわんばかりにうなずいているが、ミツルの表情は変わらない。


「じゃあ、俺たちはこれで」

「待ってください!」


 引き止める声を無視して、ミツルは村人たちの間を割って出て行った。ユアンはその背中を見つめていただけだった。


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