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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 裏切り

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02

 腹立たしいことに、待機所に戻してもらったのはミツルだった。


「とにかく、朝まで出てくるな」

「……分かったわよ」


 もっと突っかかってくるかと思っていたミツルは、しゅんとうなだれて素直なナユに肩すかしを食らったが、今はそれどころではなかったので助かった。


 本部からユアンとミチ、ノアがやってきた。情報整理をしながら三人に状況を説明したのだが、やはり納得がいかない。

 発生源は森だというのはほぼ間違いない。だけどこの国で直に土に触れる場所というと、森よりも畑になる。だからどうにも不自然だという意見もあったが、それは明るくなってから調査をすれば分かるという結論に落ち着いた。

 それよりも今は、動く死体二体とルドプス一体をどうするかが問題だった。

 最終手段は燃やすことであるが、それは地の女神に肉体を返すことができなくなってしまう。借りたものは返さなくてはならないから、それはどうすることもできなくなった時に考えるとする。

 となると、動く死体とルドプスを見つけて捕まえて、動きを止めなければならない。そうすれば普通の死体と同じように埋葬するだけだ。

 言うのは簡単だが、実行するのはとても難しい。

 そもそも、インターは埋葬士だ。死体を動く死体にしないように細心の注意を払って墓を掘り、埋める。

 ちなみに、便宜上、埋めると言っているが、インターたちは円匙で地面を掘ってそこに埋葬しているのではない。いくらインターが神の力を断ち切ることが出来たとしても、そのまま無防備に埋めてしまうと、神の力が圧倒的なのだから時間稼ぎにしかならない。

 それでは、どうしているのかというと、彼らは死体を地の女神の元へと送っているのだ。

 だから彼らは地面を掘ることはしないので、円匙は本来なら必要ないのだが、演出として地面を掘り、埋めているように見せかけているのだ。

 しかしインターたちが掘った穴へ遺品を埋めるから、どちらにしても穴を掘る作業は必要ではある。


 ミツルはいらだちを募らせながら待機所を出た。

 この暗闇の中で明かりを持っているのは自分の居場所を示すことになるので、仕方なく手ぶらで出た。

 建物から一歩足を踏み出すと、真っ暗闇。月はなく、星明かりさえ見えない。空気が湿っているから、雨が降るかもしれない。

 そんなことを思いながら、ミツルは動く死体の探索を始めようとしたのだが。

 頬に冷たいなにかを感じて空を見上げると、雨粒が落ちてきたのが分かった。

 ミツルは舌打ちをして、マントに付いているフードを被ると紐を引いて縛った。

 暗い上に雨まで降ってくるとは、ついてないかもしれない。

 そんなことを思ったが、ため息を飲み込んでミツルは闇の中へ足を踏み出した。


     *


 待機所に残ったナユはイルメラが用意してくれた部屋に戻った。そこにはいつの間にか寝具が置いてあり、ナユは遠慮することなくそこに横になった。

 神経は高ぶっていたけれど、横になれたことでほっとした。

 しかし、今日はなんだかいろいろなことがありすぎた。

 あまりにも突然すぎたし、動いているアヒムを見たから信じられないが、父は死んでしまったのだ。


「うっ……」


 ようやくゆっくりすることが出来て、ナユはアヒムが動く死体になってしまったという事実の意味がはっきりと分かった。

 アヒムはそう、死んでしまったのだ。

 一年前に母が亡くなったのと同じように、父もまた、地の女神の元へと還ってしまった。

 もう父に会うことは出来ない。

 頬ずりされるとざらざらで痛かったけど、くすぐったくてなんだかとても嬉しくて恥ずかしい気持ちを味わうことも出来なくなったのだ。

 町から家に帰ると、あの筋肉質の身体でめいっぱい愛情表現をしてくれることもなくなってしまった。

 そのことを思うと、淋しくて涙がこぼれてきた。


「……お父さん」


 ナユに筋肉の素晴らしさを教えてくれたのもアヒムだ。

 筋肉は嘘をつかない。

 顔がよくて口が達者なヤツにまともなのはいないと教えてくれたのもアヒムだ。


「……え?」


 ナユは父の教えをふと思い出し、違和感に涙が止まった。


 ──顔がよくて口が達者なヤツ……?


 そこまで考えて、ナユの頭にふとなぜかカダバーが思い浮かんだ。

 ミツルではなく、カダバーが思い浮かんだことにナユは自分の脳味噌に疑問を持った。

 カダバーもミツルも種類は違うが顔がいいといっていいだろう。カダバーは線の細い優男風、ミツルはナユの兄三人と並んでも見劣りしないから身体は鍛えているらしいいい男だ。

 とはいえ、顔のいい男は嫌いなナユとしては、その時点で二人は対象外だ。

 そしてカダバーは交渉ごとが得意だ。力が弱いゆえに口がたつ。

 ミツルはというと、高慢なことしか言わない。あまり口がうまいとは思えなかった。

 父の教えからすれば、この場合はまだミツルの方が信頼できる……かもしれない。

 しかし、アヒムはカダバーを信頼していたように思うし、付き合いも長い。

 だけど父の教えを思うと、カダバーは信頼に値しない・・・人物ということになるのだが。

 アヒムとカダバーがどのように知り合ったのか分からないけれど、ナユ個人の感情としてはカダバーもミツルもどちらも信頼できない男ではある。

 父・アヒムの手前、あまりカダバーを邪険には出来なかったけれど、ナユはカダバーのことが、はっきり言って嫌いだった。


「うーん……」


 どうにももやもやする。

 だけど薄くてあまり寝心地がよくないとはいえ、寝具の上でごろごろしていると眠くなってきた。

 アヒムだけでなく、双子の兄まで動く死体になったということは、ナユは同時に家族を三人も亡くしてしまったのだ。

 カールとクルトに関しては自分の目で確かめてないけれど、もう前のように父と兄たちとはしゃぐことが出来ないのかと思うと悲しくなってくる。

 ナユは掛け布を身体に巻き付けて悲しみを遠くに追い出しながら、目を瞑った。

 泣いたって始まらない。

 それに兄二人は見間違えかもしれない。

 これはすべて夢で、朝になれば元通りになっている。だから一刻も早く眠ってしまおう。

 ナユはそう自分に言い聞かせ、身体を丸めた。

 暗闇の中、だれの気配もないところで眠るのは初めてだと思いながら、ナユは眠りに就いた。


     *


 雨は本格的に降り出してきたようだった。

 暗い上に雨で視界を遮られてしまったミツルは森の中でどうしたものかと悩んでいた。

 鬱蒼と茂った木々の下でも雨は容赦なく降り注いでくる。

 ウィータ国は地の女神の加護により、植物の生育がすこぶるよい。特に雨の日は植物が生長する音が聞こえるという。

 夜の雨の降る森に立っているミツルの耳にもあちこちから聞き慣れない音が聞こえてきていた。

 夜の静かな森で音を頼りに動く死体とルドプスを探そうとしたのだが、この雨のせいでそれは失敗に終わった。

 このままここにいても仕方がないとミツルは切り上げることにした。

 森から出ると、先ほどまでなかったと思われる木が増えていて、生長速度の凄まじさに呆気にとられていた。


「ああ、ミツル。いいところに来ました」


 ミツルが出たところは村の中心部の広場だったのだが、広場というだけあり、なにもなかったはずだ。しかしそこにもミツルの膝丈くらいの木が地面を割って出てきていた。

 この国の土は恐ろしいとミツルは思いながら、声の主の元へと向かったのだが。


「……なにをしてるんだ?」


 そこにはユアンがいて、ミツルと同じようにフードを被り、生えてきた木の周りを足で踏みしめていた。


「ああ、これですか? こうしておかないと木が伸びてくるとともに土が出てくるから、そうならないように踏み固めているのですよ」


 ミツルは初めて見る光景になんと返せばいいのか分からず、無言でいた。

 ユアンはミツルに構うことなく生えてきた木の根元を踏んで回っていた。


「ところで、あなたまで戻ってきたということは、ルドプスと動く死体は見つかっていないのですね」

「……ああ。森に入って探していたが、無理だった」

「でしょうね。生長の音はすごいですから」


 今も耳を澄ませばかすかに聞こえてくるほどだ。


「ミツルは町育ちですよね」

「……そうだが」

「それなら、雨の日の森は初めてで驚いたでしょう」

「あぁ。話には聞いていたけれど、こんなにすごいとは思わなかった」

「でしょうね。それにしても、運が悪い」

「……本当に」

「ミチとノア、イルメラは先に待機所に帰るように指示を出しておきました」


 聞こうとしたことを先回りして、ユアンはミツルに報告してきた。ミツルはうなずくだけにとどめた。


「そちらの首尾は」

「……残念ながら」

「そうか」


 夜ということもあるし、しかもこの雨だ。住人は家にいるようにと指示を出したお陰なのか、被害は今のところ、三人以外にはないようだった。


「このまま何事もなく朝がくれば」


 ぽつりと呟いた言葉にユアンは足を止めた。


「……朝になれば住人たちが動き出します」


 そうなるとさすがに外に出るなとは言い辛い。

 村の人たちには生活がある。家にこもっているように命令できる権限はインターにはない。


「夜中にどうにかしなければならないか」

「それが一番ですが、この雨では……」

「運が悪い、か」


 ミツルはそう呟くと、ちっと舌打ちをしてから天を仰いだ。顔面に冷たい雨が突き刺さる。

 忌々しい雨にミツルはいらだちを募らせた。


 

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