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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 裏切り

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15/129

01

 ナユを追いかけていたはずのバルドだが、気がついたらナユを見失っていた。

 バルドは立ち止まり、乱れた呼吸を整えた。

 ナユには簡単に追いつけると思っていたのに、まさか見失ってしまうとは。

 バルドは自分に対して怒りを覚えた。


「くそっ」


 と苛立ちを紛らわせるために地面を蹴った。土を覆うように敷かれた木板が鈍い音と痛みを返しただけだった。

 動く死体のことは詳しく知らないが、生前の記憶はなく、動きを止めるまで仲間を増やそうと動き回ると聞いた。家の中にいれば安全かと聞かれたらそれは分からないが、ミツルが言うように外にいるのは危ないというのはなんとなく分かった。

 一刻も早くナユを見つけて待機所に戻らなければと思うのだが、ナユはどこに行ったのか、気配さえ感じることが出来ない。

 バルドはもう一度、地面を蹴った。やはり鈍い音と痛みを返してきただけだった。

 地面に八つ当たりしたところで仕方がない。

 バルドは暗闇の中、辺りを見回してどこにいるのか確認した。

 闇に沈み込んでいるが、ここはどうやら広場のようだった。

 それが分かると後はナユが行きそうな場所を探すだけだ。

 バルドは広場から出ようと足を踏み出した時。


「バルド」


 いきなり声を掛けられ、バルドはびくりと少し飛び上がった。

 広場の入口に誰かが立っているのが見えた。

 声からして……。


「……カダバーか?」

「そうだ。探したぞ、こんなところにいたのか」


 カダバーが探していた?

 どういうことだろうと疑問に思いつつも、知った人物が現れたことでバルドはほっとした。


「そういえばカダバー。カールとクルトが」

「そうなんだ。二人も動く死体になってしまった」


 そこでバルドはどうしてカダバーは無事なのか疑問に思ったが、カダバーの声でその疑問は口に出されることはなかった。


「バルド、ボクたちで彼らを止めないか」

「オレたちで……?」

「ああ。あのインターと言っている男は君たちから金を巻き上げようとしているというじゃないか」

「…………」

「それにボクとしては、親友のアヒムをあんな見ず知らずの男に任せるのはとても不安なんだ」


 カダバーの言い分もバルドにはよく分かる。だけど動く死体についてなにも知らない自分たちだけでどうにか出来るとは思えない。

 なかなか首を縦に振らないバルドにカダバーは痺れを切らしたようだった。


「君がそんなに腰抜けだったとは思わなかった。ボクは動く死体の対処方法を知っているから、ボク一人でアヒムたちを止めるよ」


 バルドはアヒムからカダバーは力はないけどアヒムたちが苦手としていた売買などの雑多なことを引き受けるから一緒に組まないかと持ちかけられたと聞いていた。

 そして力がないというのは本当で、不器用なナユでさえ扱える円匙さえまともに扱えなかったのだ。

 アヒムとカダバーは見た目も性格もまったく違っていたのに、気が合っていたのか、上手くやっているように見えた。

 バルドとカール、クルトはアヒムの言うことは絶対と思っていたので特に反発する気持ちはなかった。

 苦手としていた部分をカダバーが担ってくれたおかげで、仕事ははかどった。しかもカダバーと組む前は食事の時間を取ることが出来ないことがあったが、今はそんなことはなかった。おかずもささやかだが、一品増やすことが出来るくらいの経済状態になった。

 食べるのに困らない程度の収入があり、前より増えているのだからそれでいいと、むしろカダバーが来てくれたことに対して感謝をしていた。

 しかし最近、アヒムとカダバーは時々なにかを言い合っているのは知っていた。

 バルドはアヒムが欲を出したのかと静観していた。

 だから木の様子を見に行くことは口実で、また言い合いをしに行ったのかとバルドは呆れていた。

 昼前だしそろそろ戻ってくるだろうと作業の手を止めて二人が戻ってくるのを待っていたところにカダバーが血相を変えて走ってきた。

 そのとき、カダバーからかぎ慣れない臭いがしてこれはなんだろうと疑問に思ったところで、アヒムがよりによって動く死体になったと聞かされて……それからめまぐるしかった。


 そういえば、とバルドはふと思った。

 今日はカダバーに対して疑念を二度も抱いている。

 それはとても些細なことだけど、とても重要なことで、見逃すと命取りになりそうな気もする。

 もう少し考えようとしたが、カダバーが思考を遮った。


「君も知っているとおり、ボクはとても力が弱い。だけどね、コツが分かれば動く死体なんて怖くないんだよ」


 自信満々にそう言われると、元からカダバーのことを信頼しているバルドは考えることを止めた。


「コツを教えるから、森に行こうか」

「……森へ?」

「そう。森の中で、君たちにもなじみのあるものを使って止めることが出来るんだ」


 そう言われてしまえば、バルドはついて行くしかなかった。それに、バルドはかなり油断していた。

 カダバーはナユ以上に不器用で、力がないと。


     *


 方向音痴のナユは、村外れでどちらに向かえばいいのか分からなくて途方に暮れていた。

 ミツルが止めるのを聞かずに待機所を飛び出してきたから、身体ひとつだ。もちろん、明かりもない。

 しかも今は外に出ないようにというお達しがでているのもあり、いつも以上に静かで、暗い。待機所に行くときは周りに人がいたし、木々の隙間から星が見えていたけど、夜も更けてきた今になっても月は出ていないのか、それとも雲に隠れているのか、真っ暗闇といいきってよい状況だ。

 とはいえ、ずっと暗闇にいたからか、周りが少しだけ見えてきた。

 ナユの目の前には木が見えている。ということは、前に進むと森に入ってしまう。今、森に入るのは大変危険なことは分かっていた。

 そしてふと気がついた。

 そもそもどうして待機所から飛び出してきたのだろうか。

 しばし悩んで、思い出した。

 そうだ。カールとクルトが動く死体になってしまったと聞いたからだった。

 だけどこの暗闇の中で闇雲に二人を探したって見つかるとは思えなかったし、そしてなによりも怖かった。

 一度、待機所に戻って態勢を整えてから出直そう。興奮がおさまってきて疲れが出てきていたのもあり、眠かった。

 朝になったからといって動く死体が止まるとは思えなかったけれど、暗闇の中で出遭うよりは明るいところであった方がまだマシだろう。朝になれば日が昇り、周りがよく見えるようになる。

 そうと決まれば一刻も早く戻ろう。

 ──だけどだ。


「……ここはどこ?」


 結局、せっかく方針が決まっても、ナユ一人では実行できそうになかったのだ。


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