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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 エピローグ

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03

 後味が悪いまま、解散となった。

 外を見ると、すっかり暗くなっていた。

 あんな話の後に食事をするのもと思ったが、気分転換に外に出たい。それにお腹も空いてはいる。

 だからミツルはナユと、仕方なくシエルを誘い、外に出た。

 温い風が頬を撫でていく。


「アレだが、飯でも食いに行くか」

「う、うん」


 ナユも同じ気分らしい。だが、断らなかったところをみると、お腹は空いているようだ。


「シエル?」

「なぁに?」


 外に出た途端、シエルは空をボーッと見上げていた。

 このまま置いていこうかと思ったが、後が面倒そうだったので声を掛けた。


「行くぞ」

「どこに?」

「飯を食いに」

「……ご飯?」


 そういえば、シエルは女神さまだったと思い出した。

 油断すると──いや、油断しなくても、が正しいか? そのことを忘れてぞんざいに扱ってしまうが、一応、彼女はこの世界の理で要なのだ。


「浮島でお粥や携行食を食っただろう?」

「うん」

「それより美味い飯を食いに行くんだよ」


 女神さまに味覚があるのかどうか分からない。

 いや、そもそも食事の必要性があるのかも分からない。

 だけど食べていたから食べられないわけではないのだろう。


「うん、分かんないけど、ミツルが連れて行ってくれるのなら着いて行く!」


 まったく、こいつも刷り込みなのか? とミツルは思ったが、もう諦めている。

 当分、ナユと二人っきりは無理だろう、とも思った。


「シエルを見てたんだけど、なにかに似てるのよね」

「鳥だろ、鳥。しかも孵化したばかりのひな鳥。刷り込み、だな」

「刷り込み?」

「孵化して最初に見た動くものを親と思うヤツ」

「……なっ、なるほど」


 ミツルは二人を連れて、ボディムへと向かった。

 そういえばここで食事をして、帰るときにナユが攫われたんだよな、と思うと感慨深い。

 店内に入ると、そこそこの客が入っていた。四人掛けの(テーブル)に案内された。


「ミツルはあたしの横!」


 シエルに腕を引っ張られ、ミツルは強制的に横に座らされた。ナユは向かいの席に座った。

 ナユは早速、お品書き(メニュー)を見始めた。


「なにか希望はあるか?」


 前に来たときはミツルが適当に注文をしたため、ナユはなんという名前の料理を食べたのか分かってない。

 前に食べて美味しかったのがどれか分からないけれど、どれもこれも美味しそうだ。


「うーんと。これと、これ」

「分かった。後は適当に頼むぞ?」


 ミツルが注文をしてくれて、料理を待つ間。


「シエル、昨日はどうしたんだ?」

「あ、ナユのところに泊めてもらったの! それでね、一緒にお風呂に入ったの!」


 なにその羨ましい出来事……! とミツルは思ったが、シエルに続きを促した。


「それでね、クラウディアがね!」


 そういえばナユはクラウディアと一緒に住んでいるのだったと思い出したところで、一品目が届いた。


「わたしが取り分けるわ」

「……待て。ナユ、悪いがそれは俺がする」

「えっ、なんでっ?」

「おまえの不器用さを知らないと思っているのか?」

「ぅっ」


 やる気になってくれたナユに悪いと思ったが、任せるととんでもないことになりそうだったので、ミツルがすることにした。

 端から見ると、美女と美少女と一緒に食事をしている風景。しかもミツルが給仕しているところはなんだか女性に尽くしているように見える。見ようによっては親子に見えなくもない?

 ミツルは髪色のせいで歳より老けて見られることが多い。シエルは碧い髪が目立つし、ナユの金髪も目立つ。

 どういう関係なのかと周りの注目を集めていたようだが、ナユとミツルはそういった視線に慣れている。

 シエルはというと、今まで認識されてなかったこともあり、そのあたりの感覚は鈍感かもしれない。


「それでね!」

「話すのは食ってからにしろ」

「はぁい」


 全然なってないシエルの躾をしつつ、料理を取り分ける。

 シエルには外食は早すぎたか? と思いつつ、ミツルは次々運ばれてくる料理を取り分け、食べていく。

 食事が終わったところでミツルは三人分のお茶を頼んだ。


「シエル、今日はどうするんだ?」

「どう、とは?」

「──聞いた俺が悪かった。昨日はナユのところに世話になったんだよな」

「そうよ」

「俺も早くに気がつけば良かったんだが、寝る場所が必要だよな」

「あー」


 シエルもようやく、必要性に気がついたようだ。


「幸いなことに部屋は余ってる。後で案内する」

「うん、分かった!」

「あと、デザートは食べるか?」

「うーん……。シエルはどうする?」

「あたし? デザートって?」

「甘いものよ!」

「うん、なにか良く分からないけど、食べるわ」


 デザートも頼み、三人はお茶を飲みながら待っていた。


「……今日は食いに来たが、明日から自炊するか」

「えっ、ミツルってご飯作れるのっ?」

「作れるぞ。じじいと二人暮らしだったから、基本は俺が料理してた」

「知らなかった」


 料理の出来る男はもてるぞ、とか言われてそそのかされて料理をしていたのを思い出して、少し笑った。

 それを見たナユは、なぜか赤くなっていたが、ミツルは気がつかなかった。

 そしてデザートが来て、初めて? 食べる甘味にシエルが大興奮していた。


「なにこれ、美味しいっ!」

「よね? 幸せの味!」


 交換して食べたり、シエルはお代わりを要求したりと大変だったが食べ終わった。

 ミツルがまとめてお会計をして、三人はそろって店を出た。


「ここでナユ、攫われたんだよな」

「ぅっ……」

「あら、そうなの?」

「二度目はないと思うが、ナユ、家まで送っていく。シエルも来い」

「はぁい」


 ミツルを前にして、後ろに二人が並んで歩く。


「ナユ」


 ミツルは歩きながら、振り返らず声を掛けた。


「なに?」

「明日も本部に来いよ」

「……えっ?」

「インターの力は要らなくなったが、本部は当分、なくさない」

「どうして?」

「インターは要らないが、人が死ななくなったわけではない」

「……そうね」

「しばらくはその要らなくなったインターの受け皿として本部は機能させるつもりだ」

「うん」

「インターは……その力があるだけで排除されてきた」


 歩きながらする話でもなかったような気もするが、店では話せなかった。

 立ち止まってするにも時間は遅いから、ミツルはそのまま続けた。


「でも、これからはもう、みんな、平等になるはずだ」

「そうね……」

「だが、インターは基本、放浪している。生活基盤を作るにしても、色々と困るだろう。まず必要なのは、金だ」

「うっ、うん」

「シエルは分からないかもしれないが、人間は金がなければなにも出来ないと言い切っていい」


 ミツルがなにをしようとしているのか分からないナユはミツルの言葉を待った。


「今までインターは死体を地の女神の元に送ることで稼いでいたらしい」

「でも」

「そう。それが出来なくなってしまった。収入を絶たれた。失業だ」


 だから、と。


「今後は本来の意味合いのインターの仕事をしていこうと思っている」

「インター……埋葬士?」

「そう。苦手だが、地面を掘って死体を埋める場所を作る。あと、シエルの話を聞いて思いついたんだが」

「あたし?」

「埋葬するときに歌ったり……歌が苦手なら詩でもなんでもいいんだが、弔うということをやって、それで金を取ろうかと思う」


 いい加減なように見えて、そんなことを考えていたとは思わず、やはりミツルはやさしいのかも、とナユは思う。

 だけどそのやさしさは分かりにくくて、損をしているようにも思う。意外にもそんなところは不器用なのかもしれない。


「あとはまぁ、なんとなく直接埋めるのは抵抗があるし、それにこの国は木が溢れている。死体を入れる入れ物を木で作って売るというのもいいんじゃないかと」

「……よくそんなに色々といっぺんに考えられるわね」


 呆れた声にミツルは振り返り、ナユに笑いかけた。

 ナユは真っ赤になっていて、ミツルは今度は気がついていたが、あえて触れなかった。


「まぁ、これらは今、考えついたわけではないんだがな」

「へっ?」

「いつの日かインターが要らなくなる日が来ることを俺は夢見てた」

「そ……うだったんだ」

「意外か?」

「うん。まさかそんなことを考えてるとは思わなかった」

「俺はこの国以外を知らない。だけど他の国はインターだとか、動く死体だとかいないと聞いて、不思議に思って調べたことがあったんだ」


 ミツルはまた振り返り、歩き出した。


「だから、これらはみんな、そこで調べたことだ」

「……なっ、なるほど」

「早く始めないと、これらが金になることに気がついて始められたら大変だ」


 今まではインターという力がなければ出来なかったが、これからはもう、力は関係ない。専売特許がなくなってしまった。


「……変なところが似てるんだ」

「だれがだれにだ?」

「ミツルがアランさんに」

「っ!」

「要するにそれって、新しい商売を見つけたってことでしょう?」

「そ、そうだな」

「クロス商会を見て、ミツルと結びつかなかったんだけど、今なら納得、かな」


 こんなところも似ていたのか、とミツルはちょっと嬉しく思った。

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