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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 エピローグ

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126/129

01

 目が覚めたら、カーテンの隙間から差し込む光の感じからして、お昼を過ぎた頃だと知ったミツルは、大きく伸びをして、身体を起こした。

 久しぶりによく寝た、と思う。


 たぶんみんな、ミツルが起きてくるのを待っているだろうと思ったが、昨日の朝に携行食を食べて以来、食事をしていないことに気がつき、着替えをしてさっさとご飯を済ませてから話をさせてもらおうと思った。

 着替えて部屋を出たところで、ユアンと出会った。というより明らかに待ち構えていたとしか思えない。


「ミツル、ようやく起きてきましたか」

「あぁ、すまない。思ったより寝てしまった」

「それはいいんですが……。やっぱり違和感がありますね」

「瞳、か?」

「はい」

「俺も昨日、初めて見たんだが」

「えっ? 確認、してなかったんですか?」

「確認するものがなかったからな。……見慣れないからか、確かに違和感があるな」


 そう言ってから、ミツルはユアンを改めて見た。

 数日前に見たときから特に変わっているようには見えないのだが、なんとなく違和感がある。

 ナユとシエルにはなかった違和感。

 それがなにか分からないまま、ミツルは昼を食べてくることを告げて、インターの本部を出た。

 それから少しぶらぶらと街中を歩き、顔なじみの店で食事をして──ちなみに、そこでも瞳について特に指摘はなかった──本部に戻った。


 事務室に行くと、ナユとシエルもいたので、一緒に経緯の説明をすることとなった。


 ちなみに最初、シエルはやはりアランにしたのと同じ自己紹介をして全員に突っ込まれていた。

 その中でもユアンの突っ込みは的確だった。


「シエルさん、と言いましたか? ミツルに拾われて恩義を感じているのかもしれませんが、もう少し周りを見て、よく知ってからにした方がいいですよ」


 ムカつくが、的確すぎてなにも言い返せない。

 それでもシエルは言い返していたから、ある意味、感心する。


「たくさん見たけど、ミツルが一番だから!」


 恋は盲目とはこのことを言うのだろう……たぶん。


 そして、説明をする段階でシエルの正体を先に明かしておいた方が良さそうだとミツルは判断して話したのだが。


「女神さま……」

「アニキは女神さまを誑かしたのか」

「あれか? 脅迫したとか」

規模の大きさ(スケール)が違いすぎるわ」


 様々な反応だったが、しかし、だれ一人としてシエルが女神ということに対して疑わないことにミツルは疑問を抱いた。


「シエルが女神ということに対して、嘘とかなんにも突っ込みはなしか」

「今さら、ミツルがなにを()()()来ても驚きませんし、やらかしてきたことを考えれば納得です」

「ユアン、微妙に毒吐いてる!」


 それに対してシエルは、


「あたし、ミツルに拾われたの? ……そうだったのか!」


 と納得している様子。

 おい、女神さまっ! とミツルは内心で突っ込みつつ、ため息交じりに続ける。


「で、()()()()()()()ことを説明すればいいか?」

「是非とも」


 ということで、適宜、省いたり補足したりしながら、たまにナユとシエルの突っ込みがありつつ説明をした。


「浮島は本当にあったんですね」

「……大変だったが行ってきた」

「で、浮島には冥府の入口がある、と」

「そのせいで瞳が紫になっただけだからな! 別に人は殺してない! ……人じゃないのは殺したけど」

「やっぱり殺してるじゃないですか!」

「この国がこんなことになった元凶だし、そもそもそいつ、生きてなかったから殺したというのは間違っているな」


 あれからミツルなりにソルについて考えてみた。

 真相は闇の中だが、ソルは結局のところ、シエルより上位で、生きてるとか死んでいる以前の存在だったのではないか、と。

 そんな存在がどうしていたのかは分からない。

 だけどなにかの偶然だったのか必然だったのかはともかくとして、ソルはシエルを()()()()()()()()のだろう。

 ソルとシエルは存在している場所がそもそも違っていた。だから本来は交わることはなかった。だけどなにかの拍子に交わってしまった。

 それは神のいたずらだったのか、事故だったのか。

 きっとそんな感じだったのだろう。


「ちょっと待ってください」

「なんだ?」

「シエルさんは女神、なんですよね?」

「そうらしいぞ。本人談だから本当かどうかは知らん」

「ミツル、ひどいっ!」

「それで、そのソルとやらはシエルさんより上、なんですよね?」

「シエル曰く、だが」

「……ねぇ、ミツル、いつも以上に当たりが強くない?」

「気のせいだ」

「ということは、女神殺し以上の大罪、になりませんか?」

「あー。そこはどうなんだろうな?」


 ソルはこの世界から消えたみたいだが、それはもともといた場所に強制的にミツルが戻したからなのか、それとも本当に殺してしまったからなのか。

 確認する手立てはない。


「だが、冥府の管理者たちが──」

「ちょっと待ってください。冥府に管理者なんているのですか?」

「ソルを倒したら出てきたぞ」


 やたらと有罪、有罪と言ってくるが、あれは間違いなく冥府の管理者たちだ。


「そこはきっと、死んだらはっきりするところなのでいる前提で話を進めますが」

「死んだらその後、意識がないんだから分からないだろうが」

「そこもハッキリしませんよね」

「まぁ、そうなんだが」

「それで、冥府には管理者たちがいる。そしてその管理者たちはなにを管理しているのですか?」

「魂、というものを管理しているらしい」

「魂?」


 ユアンもやはりピンとこないらしく、首を傾げている。

 それはここにいるシエル以外が、なのだが。


「んー。分かりやすく言うと、さっきミツルが言ってた、意識に近いもの、かしら?」

「意識、ねえ?」


 それでもどうも分からない。


「じゃあ、寝たら意識がなくなるが、それも死んでいるのか?」

「そこは違うわ」

「眠るのと死ぬのと、どこがどう違う?」

「肉体に魂があるかないか、の違いよ」


 ミツルはしばらく悩んだ後、口を開いた。


「魂ってのは、シエルが透け透けだったときのような存在か?」

「透け透け……。そっ、そうね」

「ではシエル。おまえは魂と身体がずっと分離していたが、今までずっと死んでいた状態なのか?」

「かろうじて繋がっていたから、ずっと生きていたわ」

「……ということは、だ。肉体の中に魂があって、それは繋がっている。その繋がりが切れて、肉体から魂が出てしまったら、死ぬ。そんな感じか?」

「そうね」


 では、ソルはもしかして、魂だけの存在だったのかもしれない、とミツルは気がついた。


「ソルには物理的な肉体がなかった。だから冷たかった、のか?」

「魂だけだった?」

「それなら、どうしてシエルに固執したのか少しだけど説明がつくぞ」

「え?」

「ソルはそもそも、シエル以外の()()に見えていたか?」

「……わ、わからないわ」

「俺たちは見たが、あそこは冥府だ。もしかしたら魂を可視化できる場所だったのかもしれない」


 そもそも、今回の件の証言者はシエルしかいない。しかもその内容は大変主観混じり……というか、主観しかなく、別の視点から見てはいない。

 唯一、冥府の管理人たちが別の視点と言えなくもないが、ただ彼らは『ソルに閉じ込められていた』としか言っていない。

 ミツルたちの立場からしてもソルはどう考えても悪でしかないが、ソルにも言い分はきっとあった。

 だけどその()()()はシエル──世界にとって害にしかならないとミツルが判断して、抹殺した。


「……ソルにもうちょっと話をさせた方がよかったのか?」

「見ててかなりやり方が残酷だと思ったけど」

「おいっ」

「わたしは結果として、聞かなくてもよかったと思うわよ」

「残酷って、ミツルはなにをやらかしたんですか?」


 やはりユアンがツッコミを入れてきた。


「やー、あれは……。円匙(スコップ)を振り回してぶっ倒して喉元潰した、なんて言えない」

「言ってるし!」

「ソルというのは、見た目は人間と変わらなかったんですよね?」

「少年っぽいいい男だったから、余計に……」


 あ、でもでも! とナユが続ける。


「わたしはいい男が痛い目に遭ってスカッとしたわ!」


 ナユの一言はミツルの助力(フォロー)になっているんだか、なっていないんだが。

 いや、それよりもナユはそんな目で見ていたのかと思うと、なんとなく居たたまれない。


「たぶん、ソルの話を聞いたら余計に腹が立っていたと思うのよ」

「それは激しく同意する」

「これだからいい男は駄目なのよっ!」


 ナユの一言に、思わずミツルとユアンは顔を見合わせた。

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