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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 王都へ

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07

 王都に戻り、インターの本部まで歩いたのだが、思ったよりも落ち着いていた。

 だが、いざ、インターの本部に着くと……。


「なにが起きたんだ?」


 いつもは閑散としている本部前に人が連なり、しかもそれは中にまで続いているようだった。


「いきなり死体を地の女神のもとに送れなくなってからこちら、問い合わせが殺到して、これだ」

「はぁ、これ、対処しないといけないのか」


 ミツルは人の波をかき分け、本部内へ入った。

 中も相当に混雑していたが、混乱しているわけではなさそうだ。

 階段のところまでたどり着いたところで、階段の前に机と椅子が設置されていて、そこにユアンとミチがいて、応対しているのが見えた。

 二人に近寄り、声を掛けた。


「よう、今、戻った」


 声にすぐ反応したのはやはりユアンだった。


「ミツル! あなたという人……は、って? ちょ、ちょっと失礼!」


 ユアンは瞬時にミツルの変化に気がついたようだ。慌てて椅子から立ち、ミツルの腕をつかむと有無を言わせぬ強さで引っ張られ、階段下の部屋に引き込まれた。

 階段の下のこの部屋は備品などを収めておく場所だ。扉を閉めると明かりをつけなければ真っ暗だ。しかし、ミツルの紫の瞳では問題なく見えている。

 ユアンは苛立った様子で明かりをつけると、ミツルの襟首をつかんだ。


「なにしてきたんですか! 瞳を紫にしてっ!」

「さすがユアン、目ざといな」


 ミツルは目を細めて光をやり過ごし、ユアンを見た。


「すぐに気がつくに決まってるでしょう! それより、とうとう人でも殺しましたかっ?」

「おまえの中で俺はどんだけ狂暴なんだよ。そんなんじゃない、ちょっと冥府まで行ってきただけだ」

「はぁっ? なんですか、その非常識さ!」


 そう言われて、ミツルは苦笑する。

 確かに非常識だ。


「とにかく! ……これは、どうすればいいのでしょうか。眼鏡で誤魔化す? ……ミツルに眼鏡? 似合いませんね」


 ユアンの失礼な言葉はいつものことだし、眼鏡はないわ、とミツルも思ったため、特に突っ込まない。


「ご覧のとおり、今、大変なことになっています」

「それ、一人ずつに説明してるのか?」

「そうですよ。私たちも状況を全部、把握しているわけでは……。って、まさか」

「俺がまとめて説明すればいいか?」

「お願いします。……と言いたいところなんですが、その瞳で人前に立つんですか?」

「仕方あるまい。問題ない、意外に気がつかれない。現に親父は気がついてないぞ」

「私はすぐに気がつきましたよ!」

「……どんだけおまえ、俺のこと、好きなんだ?」

「はっ? そういうのとは違いますから!」

「知ってる。知ってるが……まぁ、いい。とにかく今はここにいる人たちに説明をするのが先だ」


 ミツルはそう言って、ユアンの手から逃れて、部屋を出た。ユアンも灯りを消して、続いて出た。


 ミツルは階段の中程に立ち、口を開いた。


「みなさん──」


 ミツルはずっと、車の中で考えていた。

 急にインターの力が使えなくなって、大騒動になっているという。それに対してミツルは説明をする責任がある。しかし、ミツルが体験したことをそのまま馬鹿正直に話すつもりはない。

 となれば、事情を知らない人たちが納得する理由をでっち上げなければならない。


 地の女神が死んだとする?

 ……これだと、ますます混乱に拍車を掛けるから却下。それに、地の女神はいなくなったが、女神の加護がなくなったわけではない。


 では、どうする?

 インターの力が急に使えなくなった、もっともらしい理由、とは?


 ミツルは悩み、考えた。

 しかし、いくら考えても納得する理由を思いつかない。


 そして、ミツルはとうとう説明することを投げた。

 というより、昨日の今日で理由が分かったというのもそもそも不自然だ、ということに気がついたのだ。

 だから、理由は調査中として、動く死体はもう発生しないことと、死体は他の国と同じように地面に埋めて埋葬するようにすることの二点を伝えれば、とりあえずの混乱は収まるだろう、とした。

 きっと、今のこの混乱した状況で理由を説明されたとしても上手く拡散されないのでは、という心配もあった。

 それよりも目の前にある喫緊の課題への回答を提示することが先だと気がついた。


 なのでミツルはそのことを伝えた。

 そして予想どおりであるが、ざわついた。混乱はしているのだろうが、ミツルの言葉を咀嚼しているようで、暴れ出すものはいなかった。

 ようやく言われたことを理解した人たちから矢継ぎ早と質問が飛んでくるが、ミツルは淡々と答えた。


「地面に死体を埋める、だと?」

「なんだその非常識な対応は!」

「地の女神に身体を返すのが常識なのに、なんで地面に埋めるのよ!」


 ミツルが聞いたところによると、他の国では死体を直接、地面に埋めるのではなく、火葬してから残った骨だけを埋めている国もあるという。

 だが、この国では火葬は御法度。なぜなら、木に囲まれて燃えやすいからというのもあるが、一番の理由が犯罪者に対して行われる極刑だからだ。

 どうして火葬するのが極刑になるのかというと、そうすると、冥府に死体が送れなくなるからだという。

 ミツルはそれを試したことがなく、聞いた話であるが、この国の極刑として採用されているのだから、そうなのだろう。

 しかしそのうち死体を埋める場所がなくなるだろうから、火葬が検討されるのはそう遠くない未来となるだろうとは思っている。


「それでは反対に聞きますが、今まで地の女神の元に死体が送られていたといいますが、それを確認した人は?」

「……………………」

「地面に埋めて、直接土に触れる方が地の女神に身体を返すことになりませんか?」

「……言われてみれば確かに」

「地の女神は地に宿っているのですよ? だからこその祝福で、今までは死体にまで過剰にその祝福が付与されていただけです。それが、なんらかの理由で正常に戻った。それならば、地面に埋めて、身体を返すのが正しいと思いませんか?」


 すべての事情を知っているシエルとナユはミツルの言葉に呆れていた。

 よくもまぁ、あたかもそれが正しいとばかりに、次から次へと言葉が出てくるものだ、と。そしてそれが妙な説得力を持っているからたちが悪い。


「やはり最初は抵抗があるのは分かりますが、これが本来の形なのです。みなさん、これからはゆっくりと故人とお別れをして、地面に埋めてください」


 そう、今までは一刻も早く死体を地の女神の元に送る必要性があったが、これからはその制約がなくなる。

 ゆっくりとお別れが出来て、しかも自分たちの手で片を付けられるのだ。

 ミツルの言葉に、納得して帰っていく人たちが増えてきた。

 そしてその人たちとは入れ替わりで、外で待っていた人たちが入ってくる。

 ミツルはまた同じ説明をして……と繰り返していくと、ようやく人がいなくなった。

 気がついたら、夜もすっかり更けていた。

 ミツルたちは椅子と机を片付けると、執務室へと向かった。


「ミツル、お疲れさま」


 ミチの言葉に軽く手を上げて応えて、それから全員の顔を見た。


「詳しい話は明日する。とにかく今日はみんな、お疲れ。色々と疑問はあるだろうが、全部、明日に回して欲しい」

「……聞きたいことはありますが、ミツルもさすがに疲れているでしょう」

「あぁ、疲れた。休ませてくれ」


 さすがに、疲れた。

 しかも知っている場所、知っている顔に囲まれたら安堵して、余計に疲れを感じたのもある。


「ところで、ナユとシエルが見当たらないが」

「ナユは戻りましたよ。シエルという人は?」

「碧い髪をした女性がいただろう」

「ナユちゃんと一緒にいた人?」

「たぶんそうだ」

「その人なら、ナユちゃんと一緒に行ったんじゃないかしら?」


 シエルの面倒はナユが見てくれているのだろうということにして、ミツルは部屋へと引き上げた。

 すぐにでもベッドに潜り込んで寝たいが、それ以上にシャワーでいいから浴びたかった。

 ミツルは荷物を放り投げて、着替え一式を持つと浴室へ移動した。それからシャワーを浴びて、スッキリした。

 そこで初めて鏡を見て瞳の色を確認したわけだが。


「……激しく違和感があるな」


 見慣れない色に抱いた感想はそれだった。

 だが、遠目に見ると、そこまで瞳の色が目立っていないようだったので、安心した。

 今日もあれだけ大勢の前に立って話をしたが、だれ一人として気がついている様子はなかった。

 気がついたユアンがおかしい。

 そう結論づけて、ミツルは懐かしの自分のベッドに潜り込み、ゆっくりと眠ることにした。

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