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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 王都へ

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06

 ミツルが言っていることはたぶんだが、シエルの言うこっち側の人たちにも言われたのだろう。

 シエルの機嫌が急降下するのが目に見える。


「ミツルは、碧いあたしと茶色のあたし、どっちがいいのよ?」

「は? なんでそれ、俺に聞くんだ?」

「ミツルの意見に合わせる」

「おいっ、駄女神! 俺に押し付けんなっ!」

「だってー!」

「だってー、じゃない!」

「えーん、ナユぅ、ミツルがいじめるよぉ」

「いや、今のはどう考えてもシエルが悪いよ。それ、シエルが決めなきゃいけないことでしょ?」

「ぅぅぅ、ナユまで……」


 決めなければいけない内容を思えば、重責に潰されそうになるのは分からないでもない。だが、そこをただの人間でしかない、しかも一人の意見を取り入れるって、さすがにそれは無責任すぎると思う。


「あたし」

「うん」

「……このままがいい」

「じゃあ、後は簡単な話だ」

「いや、簡単じゃないから!」

「シエルなら、出来るよな? 今まで穹の女神が不在でも問題なかったんだろう? それなら別に穹はおざなりでいいじゃないか」

「おざなり……」

「おざなりが嫌なら、なおざりでも」

「どっちもいい加減ってことじゃないのっ!」

「そうだが? どっちにもいい顔しようとするから大変なのであって、どっちか手を抜くしかないよな、この場合。で、どう考えても地は手を掛けてやらなきゃいけなくて、穹は適当でも問題ない、と。今までがそれを証明しているじゃないか」


 と、結局、口を出してしまってる時点でミツルの負けなのだが、今は別に勝負をしているわけでもないし、地の女神、というより、地に、女神の力がなくなることの方が重大なわけで、ミツルは今、それを阻止できる立場にあるのだ。

 それに、と。

 穹は女神を地に奪われていたのに、取り戻そうとした気配もなければ形跡もない。いや、もしかしたらあったのかもしれないが、そこはミツルには分からない。

 そして、今さら戻ってきたところで、穹はきっと、女神の力を必要としてないだろうし、宛にもしてないだろう。むしろ、いなくても問題なくやっていたところに戻ってきたのだから、下手すれば邪魔者扱いだ。女神さまなのに、どこに行っても扱いは雑にされる運命にあるらしい。


「──穹はあたしを必要としてない、の?」

「それは俺には分からん。直接、聞いてみろ」

「ぅぅぅ、その勇気はないわ」


 逆の立場ならば、確かに聞きにくいことだし、できたら聞きたくないことである。少し酷なことを言ったかなと思ったが、この女神さまはそれくらいでへこたれないだろう。


「ところで」

「うん?」

「冥府もシエルの管轄なのか?」

「ううん、違うわよ。あそこは独立していて、管理者が別にいるから」

「……じゃあ、なんでソルは冥府にいたんだ?」

「どうしてだろう?」


 おいっ、疑問に思え! と内心で突っ込みつつ、さらに続ける。


「じゃあ、純粋に地だけの管理なんだな?」

「そうね。……かなり広くて複雑だけど」

「んなもん、動く死体が発生しないくらいの祝福をまんべんなく注げばいいだけの話だろう?」

「そんな単純な話じゃなくて!」

「俺は専門外だから分からないし、適当なことを言うが、与える祝福に上限を定めておいて、半分を切ったら供給するとか、自動化っていうのか? 出来ないのか?」


 ミツルの言葉にシエルは固まり、それから、


「……ぇっ? ミ、ミツル、今の、もう一度」


 と言われ、同じことを返した。


「要するに……動く死体が発生しないところを上限として、祝福をまんべんなく撒く。場所によって消費が違うから、半分なのかどうかはともかくとして、下限を決めて、そこに来たところだけ供給すればいい、と」

「そういうことだ」


 ミツルがいうような単純な構造なのかはさておき、祝福の正体なんてそんなものなのだろう、と見ている。

 もしかしたら場所によって上限値が違うとか面倒なことがあるかもしれないが、そこはそれ、運用してから調整しても問題ないだろう、たぶん。

 もしも調整を失敗してまた動く死体が発生したならば、その時はミツルが責任を取ってどうにかするつもりでいるあたり、すでにシエルという沼にはまっているとしか思えない。

 それを本人が自覚しているのかしていないのかともかく、ミツルの性分でもあるので仕方がないのかもしれない。


「……出来るような気がする!」

「いくらでも試してみればいい。どうせ今は、変わったばかりで混乱してるところだ。多少、失敗したところで大きな問題にはならない」

「ぇっ、そんないい加減でいいのっ?」


 ナユのツッコミに、ミツルは笑う。


「また動く死体が発生したならば、俺が対処するよ」

「いやそれ、出来るの? もうインターの力、あっても無意味なんだよ?」

「あー、冥府と管轄、別れたんだよな。……なるほど、それで道がなくなったのか。……なかなかよくできた仕組みだな」


 動く死体が発生したら冥府に押し付ける気、満々だったミツル。

 冥府の管理者たちが聞いていたら、きっと、全員一致でミツルは有罪! と言われていただろう。


「……いや、それよりもだ。たぶんだが、過剰に祝福を与えられたとしても、もう動く死体は発生しないよ」

「なんでそう言い切れるのよ」

「この仕組み、ソルが冥府にいたからこそ、成り立ったものだろう?」

「そうね」

「ということはだ、祝福が過剰だったわけではなく、そういう仕組みになっていた、というだけだ。……実際にそうかは実験してみないと分からないが、当たらずとも遠からずだ」


 どうなんだ? とミツルがシエルに視線を向ければ、


「……確かに、女神の祝福が過剰になった場合、動く死体が発生するなんてないわ」

「まぁ、そうだよな、あり得ないよな」


 そこはきっと、ソルが勝手に手を加えた部分なのだろう。


「まぁ、過剰なのは困るから、今と変わらないくらいでいいんじゃないのか?」

「……女神って面倒ね」


 そう言って、シエルはため息を吐いた。


「ミツル、代わって?」

「はっ? なに言ってんだよ! 職務放棄、するなっ!」


 長い間、力を奪われていたために漂うことしかできなかった女神さまは、急に仕事が戻ってきて、しかも基本は職務の違うものをやらなければならないため、大変なのは分かる。分かるが──。


「さすがにそこまでは面倒見切れない!」


 それはそうだろう。

 ミツルの言葉にシエルは「ケチ」と返しつつ、ため息を吐きながら、しかも歩きながら調整を始めている、らしい。


 しばらく歩いていると、遠くからなにか音が聞こえてきた。


「……なんか音がしない?」

「するな」


 それはこちらに近づいてきているようだった。

 まだオゼイユからそれほど離れていない場所だ。こんなところに用がある人間がいるとは思えず、だとしたらなんの音だ? と訝しく思っていると……。


「車、だ」

「なんか見覚えがある」


 近寄ってきているのは、どうやら車のようだ。

 こんなところに用があるなんて、なんか問題のある車なんじゃないか? と思っていると、それはミツルたちの手前で止まった。

 そして中から……。


「やはりミツルか!」

「え? なんで親父?」


 見覚えがある、と思ったのは、クロス家所有の専用車だったからだ。


「インターの力が使えなくなったと各地で大騒ぎになっていたから、問題を解決できたのか、と思って、迎えに来た」

「あー、やっぱり騒ぎになってるか。それより、助かった、感謝する」

「相変わらず、ミツルは固いな」

「いやまぁ、……もうそこは仕方がないとしか」


 アランはそして、ミツルの後ろに視線を向けた。


「ナユちゃんは、お久しぶり、だな」

「はい、お久しぶりです」

「それと……?」


 アランの視線を受け、シエルは満面の笑みを浮かべて口を開いた。


「お父さま、初めまして。ミツルの子を産む予定の、シエルと申します。よろしくお願いいたします」


 シエルの自己紹介に、アランとミツルが同時に吹き出した。


「ゃっ、ちょ、なっ、なに言ってるんだ、シエルっ?」

「事実でしょう?」

「いや、違うし! 親父、誤解しないでくれ、今の、違うからな!」

「いやー、若いときの私を見ているようだなぁ! さすがは私の息子だ!」

「……いやそこ。……違うし」


 しかしまだ、穹の女神と名乗られるよりはマシなのか? と頭の片隅で思っている辺り、ミツルもどうかと思う。


 そして四人は車に乗り、王都へと向かった。

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