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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 王都へ

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04

 金色の箱から外を見ると、真っ白な世界は普通の視界に戻っていた。

 行きにこれだったら助かったのに、と思ったが、ふと紫の瞳のせいで見えているだけか? という疑問も浮かんできたので、確認することにした。


「外なんだが」

「うん」

「普通に道、見えているか?」

「……うん、道があるね。なにか問題でもあるの?」

「いや、ここに来るとき、周りが真っ白で見えなくて困ったから確認をしただけだ」

「ふーん?」


 不思議そうにナユは外を見ていたが、もう一度見ても景色は普通に見える。


「あ、ここね。あんまり来られても困るから、一応、隠しておいたのよ」

「ほんと、隠すの好きだな」

「一時期、隠すのが楽しかったときがあったのよ」

「それで今はもう隠す必要がなくなったから、取っ払ったのか?」

「ううん」

「えっ? 普通に見えているぞ?」

「ここは穹の民の血を引く人には普通に見えるのよ」

「……なるほど?」

「ミツルの場合は……その紫の瞳のせいじゃない?」

「やはりそうか」


 道が見えるのなら問題ない、と判断して、坂を下りることにした。


「それにしても」

「うん?」

「見えないのによくここにたどり着いたわね」

「悪運だけは強いみたいだからな」


 改めて見えるようになって歩いているのだが、道はそれなりに広いが、やはり山道だ。一歩でも踏み外したら崖から落ちていたのを知り、ちょっとだけゾッとした。

 そして無事に一晩過ごした場所に着いた。


「さて。今、どれくらいの時間なんだ?」

「お昼くらいかしら?」

「では、ここで昼飯とするか」


 昼飯はもちろん携行食だ。多めに持ってきていたが、そろそろ心許ない数になってきた。

 ちなみにここは直に土があるためナユとミツルは座らずに立ったまま食べている。シエルはもちろん、携帯椅子に座っていた。

 携行食をかじりながら、ミツルはこの先の行程をどうするか悩んでいた。

 たぶんだが、オゼイユの動く死体は全部がただの死体になっているだろう。だからこのまま山を下りても問題ないはずだ。

 それに今の時間ならば暗くなる前に山を下りることもできるだろう。

 そこまではいいのだ。

 下りた先が問題だ。

 夜をどこで過ごすのか……? ミツルが一晩過ごしたあの小屋にまた行くか? あそこならベッドがあるが、さすがに二人で寝るには狭そうではある。ベッドに一人、寝袋に一人、地面のうえに直接寝るのが一人。……直寝はかなり嫌だが、ミツルがそうするとして、だ。

 ではそこで一晩、身体を休めたとしよう。

 オゼイユから歩いて王都に戻る?

 行きは車だったから歩きだとどれくらい掛かるか分からない。

 ミツルひとりなら歩きで戻るでもいいが、シエルとナユがいるのだ。シエルはともかくとして、ナユを歩かせるのは気が引ける。


「……どうしたものか」

「さっきからなにを悩んでるの?」

「帰るのにどうすればいいかと悩んでいた」

「……ところでここってどこなの?」


 ナユの今さらな質問に、ミツルは至極真面目に答えた。


「ベルジィの故郷のオゼイユ村に隣接しているククミス山にいる」

「へ-。……って、それ、どこ?」

「王都からだと北にある村だな」

「ベルジィの故郷なんだ」

「らしい」


 とそこで、ミツルは今、考えている計画(プラン)を二人に話した。


「夜までには村にたどり着くのね?」

「あぁ」

「それで、村にはもう動く死体はいない、と?」

「そうなっているはずだ。断言は出来ないが」


 安全策を取るのなら、ここで一晩過ごすというのも考えたが、寝る場所がないのはかなり問題だ。


「ここで……土の上に直接寝るのはちょっと……」

「だよな。じゃあ、下りるしかない」


 休憩を挟み、三人は山道を下った。

 下りは足腰に来るが、体感的に上りより早かったような気がする。夕暮れになる前に村にたどり着いた。

 村に入り、警戒しながら進んでいく。

 徐々にミツルはザワザワとした特有の感覚を覚えたが、それは死体があったからだった。


「死体……」

「死体、だな」


 ミツルはここでも試してみたが、やはり死体は冥府には送られなかった。


「これは……各地で大混乱になってそうだな」


 そう思うと、一刻も早く王都に帰って報告しなければという焦りが生まれた。

 が、ここで焦っても仕方がないとミツルは自分に言い聞かせた。


「死体はとりあえずこのままで」


 死体を避けながら村を抜け、ミツルが見つけた小屋にたどり着いた。


「ベッドにナユかシエル、寝袋はベッドで寝られないどちらかで」

「ミツルは?」

「俺は地面に寝るから気にするな」

「じゃあ、あたしが寝袋!」

「ナユはベッドだな」


 と寝る場所が決まったところで夕食となった。

 やはりここでも携行食をかじった。鍋に湯を沸かしてお粥にしようかと思ったが、食器などないことに気がついてそれは止めた。

 味気ない携行食だが、それでもミツルはナユと一緒に食べられるというのが嬉しい。


「しかし、仕方がないが、そろそろ風呂に入りたいな」

「……そうね」


 ミツルでもそう思うのだから、ナユとシエルはもっとそう思っているだろうと思ったのだが、シエルの反応は薄い。


「お風呂って」

「うん?」

「なに?」


 身体がずっとなかったからなのか、シエルはどうやらお風呂を知らないようだ。

 いや、浮島から落とされるまでは身体は普通にあったはずだから……。


「女神さまはお風呂が必要ないと?」

「お風呂……お風呂……。あぁ、あのお湯に浸かるヤツっ?」


 知らないというより、今まで必要がなかったから忘れていただけのようだ。


「うん、必要ねっ! あははっ」


 とシエルは笑って誤魔化した。


 携行食を食べて、しばらく雑談をした後、ナユがあくびをしたところで寝ることになった。

 ナユはベッドで、シエルは床の上に置いた寝袋に。

 ミツルはシエルの寝袋の横に直寝することにして、荷物を枕にして、羽織っていたマントで身体をくるんだ。


「ねぇ、ミツル」

「なんだ?」


 小声でシエルが話しかけてきたので答えると、シエルはとんでもないことを言ってきた。


「ここで子作りする?」

「……は?」

「だってナユには産んで欲しいって」

「あー」

「あたしじゃ駄目なの?」

「女神さま?」

「……なによ」

「一人の人間にそんなに肩入れしてもいいのか?」

「だって、ミツルのこと、大好きなんだもん」


 シエルもある意味、こじらせているなと思うのだが、孤独な時間の長さを考えたら仕方がないのかもしれない。とは思うものの、この淋しがり屋なところを直さないと、ミツルも安心して死ぬことが出来ない。……残念ながら? いまのところは死ねる見通しは立たないのだが。


「たぶん、その好きって気持ち、俺だけがシエルのことを認識できたからだと思うぞ」

「……違うよっ!」

「それなら、みんながシエルのことを見えるようになったから、王都に戻ってたくさんの人と触れ合って……それでも俺のことを今と同じように好きって言えるのなら、考えないでもない」

「それ、本当っ?」

「シエル、勘違いするなよ? 考えないでもない、であって、受け入れるとは言ってないからな」

「うん、分かってる! それでもいい!」


 妥協しすぎたかとも思ったが、どっちに転んでも近い将来、シエルのことも受け入れなければならないだろう、というのは嫌というほど分かった。

 シエルがソルに告げたように、ミツルに「大っ嫌い」と言う未来は低確率……というより今のところはなさそうだ。

 それよりも、ナユに好きと言ってもらえる確率の方が心配だ。まったく脈がないとは思っていないのだが、ナユが素直になってくれるとは思えない。


「……なんだかとても不毛だ」

「うっふっふーっ!」


 横でシエルはご機嫌になっていて、ミツルはなんだか気持ち的にドッと疲れた。


「寝るぞ、おやすみ」


 ミツルはそれだけ告げて、目を閉じた。

 目を閉じるとようやく暗闇が訪れてくれて、ミツルはなんだかほっとした。

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